米国のトランプ大統領は、「ミッドナイト・ハンマー作戦」を発動し、B-2スピリットステルス戦略爆撃機を派遣して、GBU-57大型貫通爆弾によりイランのフォルドゥなど3か所の地下核施設を精密に攻撃した。この大胆な軍事行動は世界を驚愕させ、イランに深刻な打撃を与えることとなった。
さらに注目すべきは、この行動が北大西洋条約機構(NATO)の加盟国32か国の防衛意識を目覚めさせた点である。6月のサミットでは、各国が国防支出を2035年までにGDP比2%から5%に引き上げるという歴史的合意を達成した。
《風傳媒》は、米ハドソン研究所の前総裁で現在は日本担当主席を務めるケネス・R・ワインスタイン氏と、元立法委員で同研究所上級研究員の許毓仁氏にインタビューを実施。中東、NATO、インド太平洋地域の安全保障構造に与える影響と、台湾にとっての教訓について聞いた。
「張り子の虎」イランと代理戦争ネットワークの崩壊
米軍の核施設空爆が中東の戦略構造に変化をもたらすかという問いに対し、ワインスタイン氏はイランがこれまでハマス、ヒズボラ、アサド政権、フーシ派などを通じてイスラエルに圧力をかけ、「我々の核開発を止められる者はいない」という姿勢を貫いてきたと語った。
しかし現状は大きく異なるという。イスラエルは最近、電子信号による精密攻撃でヒズボラ幹部の行動を特定し、指揮系統の弱体化に成功。ガザ戦線ではハマスを完全に排除できていないが、支援するイランは資金面で深刻な制約に直面しているという。
6月22日(米東部時間)、米軍は本土から初めてB-2爆撃機を出撃させ、フォルドゥのような掩蔽壕型核施設を精密攻撃。同施設は貫通爆弾を想定して設計されていたが、今回の攻撃により大きな損傷を受けたとみられている。
ワインスタイン氏は、「これは冷戦以降、類を見ないほど高水準の合同軍事行動であり、歴史的瞬間だ。イランは張り子の虎に過ぎないことが証明され、防空システムは破壊され、核計画は中止され、代理人ネットワークは次第に制御不能に陥っている」と述べた。
彼はさらに、イラン国内でも政権が核・代理戦力に多額の予算を注ぐことへの疑念が強まりつつあり、今後の体制維持に注目すべきだと述べた。「政権がどれだけ持つのかが焦点だ」と語る。
また、こうした決断はまさにトランプ氏ならではだと強調。「他の大統領とは異なり、彼には勇気と明確なビジョンがあり、イランの核野望を断ち切る意志を示した」と評価した。
2025年7月1日、《風傳媒》がハドソン研究所前総裁で現日本事務主席のケネス・R・ワインスタイン氏に独占インタビューを行った。(写真/顏麟宇撮影)
このMaxar Technologies提供の衛星写真は、2025年6月22日に撮影されたもので、米軍の攻撃後に破壊されたイランのフォルドゥ濃縮ウラン施設が写っている。(AP通信)NATO防衛費増加、そのカギを握るドイツの変化
トランプ大統領によるイラン核施設攻撃の実効性には一部で疑問の声もあるが、この軍事行動は欧州の同盟国に国防強化の決意を促す転機となった。
6月24日、トランプ氏はNATOサミットへ向かう途上、SNS「Truth Social」にルッテNATO事務総長からの私信を投稿。ルッテ氏は、トランプの空爆決定を「誰もが恐れた偉業」と称え、「我々をより安全にした」と評価しつつ、国防支出をGDP比5%へ引き上げる合意に至ったことは、歴代大統領が果たせなかった成果だと讃えた。
NATOは翌25日に共同声明を発表し、2035年までに全加盟国が国防支出を現行のGDP比2%から5%へ引き上げると宣言。うち3.5%が従来の防衛費、1.5%がサイバーセキュリティやインフラ整備に充てられる。欧米各紙はこの合意を「トランプに成果を与えることが焦点だった」と報じており、本人も外交的勝利と見なしている。
2025年6月24日、トランプ氏は北大西洋条約機構へ向かう途中で、自身のTruth SocialにNATO事務総長ルッテ氏からの私信を投稿した。(Truth Social @realDonaldTrumpより)
2025年6月、北大西洋条約機構(NATO)サミットに出席するトランプ大統領とNATO事務総長ルッテ氏。(AP通信)《風傳媒》はワインスタイン氏に、「ウクライナ戦争が長引く中で、長年NATO加盟国の防衛費負担を増やすことができなかったのに、今回のサミットでそれが成功したのはなぜか?」と質問した。
ワインスタイン氏は、トランプ氏が長年にわたりNATO加盟国にさらなる防衛責任を担うよう求めてきた努力が今回ようやく実を結んだとし、「トランプ氏は『自らを守らなければ、米国の支援を期待するな』と言い続けてきた。ポーランドやバルト諸国はすでにこれを理解しており、今や最大の鍵はドイツにも移りつつある」と述べた。
ワインスタイン氏は、冷戦終結以降、ドイツが「平和の配当」を享受する一方で、防衛には消極的だったと指摘。特にアンゲラ・メルケル前首相は、NATOが掲げる2%目標の達成を拒んできた。
「アンゲラ、君たちは世界最高の車を作るのに、なぜ船は動かず、飛行機は飛ばず、潜水艦は潜らないのか?」トランプ氏はメルケル首相にそう繰り返し訴えていたという。
しかし、メルツ首相の就任によりドイツの姿勢は一変。彼はトランプ氏と友好関係を築いており、ロシアの脅威がウクライナにとどまらず欧州全体に及ぶことを認識しているとされる。
ワインスタイン氏は「スペインは5%への引き上げに反対しているが、それは少数派にすぎない。今回のサミットは、NATOの戦略的覚醒の象徴だ」と語る。
2025年6月5日、ホワイトハウスで訪問中のドイツ首相メルツ氏を迎えるトランプ大統領。(AP通信)さらに彼は、「平和が安全を保証するという幻想は終わった」と断言。北欧・東欧諸国はすでに防衛強化に動き出しており、イタリアやスペインといった南欧諸国にも一層の取り組みが求められる中、NATO全体の安全保障構造は確実に強化されつつあると締めくくった。
許毓仁氏「米国への信頼が回復、台湾は試されている」
許毓仁氏は、トランプ大統領によるイランへの軍事行動が米国の「信頼資本」を回復させ、同盟国との絆を再構築する契機になったと分析。「米国は言葉だけでなく、実際の行動によって約束を守る国であることを示した。これはインド太平洋地域にも強いメッセージとなる」と述べた。
彼はまた、NATOサミットでトランプ氏が各国の支持を集めた事実が、米国の信頼が着実に回復していることの証左であると評価。これに対し、ワインスタイン氏はオバマ前大統領と比較しながら「外交努力も重要だが、交渉が無視される状況では圧力が鍵を握る。トランプ氏は60日目までは話し合い、61日目には行動に出る」と、実行力の違いを強調した。
2025年7月1日、《風傳媒》は、ハドソン研究所前総裁で現日本担当主席のケネス・R・ワインスタイン氏と、元立法委員の許毓仁氏との特別インタビューを実施した。(写真/顏麟宇撮影)さらに許氏は、「もし自分が習近平なら、トランプのような断固たる姿勢を前に、台湾に対する軍事的冒険の代償を見直すだろう」と述べ、中国にとっての抑止効果にも言及。
ワインスタイン氏は、「イスラエルなどはGDP比で5%以上の国防支出を行い、米国の信頼と支援を勝ち取っている。台湾も同様に、危機の際に米国から確かな支援を受けたいのであれば、自ら決断しなければならない」と指摘した。
そして「防衛への意志を示すだけでなく、それを実行可能な戦略に落とし込むための十分な資源投下が求められている。形式的な言葉だけでは不十分だ」と強調した。