世界のウェハー製造市場では、単なる「一位と二位の争い」を超え、技術と戦略の大きな分岐が鮮明になってきた。首位のTSMCは2024年第1四半期において、世界市場シェアを67.6%まで伸ばした。一方、サムスンはわずか7.7%にとどまり、その差は実に60ポイントに迫っている。もはや、サムスンからTSMCの背中すら見えない状況だ。
米国テキサス州テイラー市に建設中のサムスンの新工場は、AIや高性能コンピューティング(HPC)分野への突破口として期待されていたが、現実は厳しい。「日経アジア」の報道によれば、2024年3月時点で工場は91.8%完成しているにもかかわらず、安定した顧客からの注文がなく、製造プロセスの遅延も相まって、設備導入すらままならない状態にある。稼働予定は当初の2024年から2026年へと延期された。
受注ゼロと技術遅れ テキサス工場は「空回り資産」に
サムスン内部の関係者は、「顧客がいないため、設備を導入しても動かせない」と語る。当初予定されていた4ナノメートルプロセスは、すでに市場の主流から外れつつある。AIやHPCを手がける半導体企業は、すでに3ナノ、さらには2ナノメートル技術へと進んでおり、サムスンはその要望に応えられないまま、タイミングを完全に逃してしまった。
Good morning, America. This was our most read story while you were sleeping.
— Nikkei Asia (@NikkeiAsia)July 3, 2025
Samsung delaying completion of US chip plant due to lack of customershttps://t.co/pkw8z5Vpxl
「日経アジア」は、仮にテキサス工場で2ナノメートルプロセスへ無理に移行しようとすれば、工事の複雑化とコスト増に直面すると指摘する。このため、サムスンは拡張計画に一時停止をかけ、プロジェクト全体のスピードを緩める決断を下した。
テキサス工場は本来、サムスンが米国に築く次世代製造拠点の象徴だった。しかし、今では「注文が入らない」「製造ラインが旧式化」「競争環境の変化に対応できない」といった複数の問題が重なり、期待とは裏腹に停滞状態に陥っている。

TSMC、67.6%の市場占有率を確保、NVIDIAなどのAIチップ大口顧客を掌握
テキサス工場の遅延は、サムスンが顧客開発で劣勢に立たされている実態を明らかにし、同社のウェハー製造戦略が調整局面にあることを示している。一方でTSMCは、アリゾナ州の工場で建設の遅れや人材不足に直面しつつも、すでに量産体制に入っており、NVIDIA、AMD、Google、AmazonといったAIチップの主要顧客を取り込んでいる。さらに、同社は1,000億ドル(約16兆円)を超える追加投資を発表し、チップ製造と先端パッケージングにおいて、より強固な拠点の構築を目指している。

TrendForceの報告によると、TSMCは2024年第1四半期に世界のウェハー製造市場で67.6%のシェアを記録し、7.7%のサムスンを大きく引き離している。顧客の後ろ盾を欠くサムスンの海外展開は、戦略上のリスクが一段と浮き彫りとなっている。
(関連記事: TSMC、2ナノ量産でシェア75%へ 価格は想定下回り注文急増 | 関連記事をもっと読む )
TSMCは先端パッケージングや2ナノメートルの開発に積極的に投資し、AI時代において技術的優位と市場支配力を固めている。サムスンもGAA(Gate-All-Around)技術の設計ビジョンは掲げているものの、実際の量産、歩留まり管理、顧客の信頼という面では常に遅れを取っている。台湾からアメリカまで一貫した産業チェーンを構築したTSMCとは対照的に、サムスンの先端プロセス配備はまだ設計段階にとどまっている。