「ハマス・イスラエル衝突」から2年 錦田愛子教授が会見で情勢と和平案を解説

錦田愛子教授が日本記者クラブで「ハマス・イスラエル衝突」2年を振り返り、和平案と戦後ガザ統治の行方を語った。(参考写真:日本記者クラブ)
錦田愛子教授が日本記者クラブで「ハマス・イスラエル衝突」2年を振り返り、和平案と戦後ガザ統治の行方を語った。(参考写真:日本記者クラブ)

日本記者クラブは10月3日、慶應義塾大学の錦田愛子教授を迎え、「ハマス・イスラエル衝突」をテーマに第10回研究会を開催した。会見は10階ホールで行われ、司会は企画委員の出川展恒氏(NHK)が務めた。ガザ地区でイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まってから10月7日で2年を迎える中、錦田教授は戦争がもたらした変化と今後の展望について詳しく語った。

錦田教授は、今回の戦争を「史上最長で、史上最多の犠牲者を出し、最大規模の破壊をもたらした戦争」と位置づけた。パレスチナ側の死者は6万6,225人、負傷者は16万8,938人に達し、病院の95%が機能不全に陥るなど、国連やEU、世界銀行の調査では再建に532億ドルが必要とされる規模の人道危機に直面していると説明した。また、支援を求めた市民2,580人が射殺されたとするガザ保健省の発表を紹介し、「甚大な人権侵害」と強調した。

さらに、ハマスは指導部が相次いで殺害され、組織として壊滅的な打撃を受けたと指摘。イスマイル・ハニーヤやヤヒヤ・シンワールら主要幹部の死、カタール拠点への攻撃などを挙げた。パレスチナ世論では、当初8割近くが支持した攻撃が現在ガザで4割を切り、「勝者はどちらでもない」という認識が広がっていることにも触れた。

地域秩序の変化としては、ヒズボラ指導者ナスルーラの殺害、シリア政権崩壊、フーシ派による攻撃継続を列挙し、「イランとイスラエルの直接対決に移行している」と指摘。戦争の影響がガザとイスラエルにとどまらず、中東全体に波及している現実を強調した。

国際社会については、国連安保理で停戦決議が成立せず機能不全が露呈したことや、国際刑事裁判所(ICC)がネタニヤフ首相に逮捕状を出しても抑止力になっていない現状を解説。欧州ではパレスチナ国家を承認する国が増え、G7の一部も承認に踏み切ったが、イスラエルは「孤立していない」と主張していることを紹介した。

市民レベルでは、欧米を中心にボイコットやデモが広がり、日本でも新宿などで連帯集会が開かれた。イタリア発のガザ支援船団がイスラエル軍に拘束された事例も取り上げられたが、「活動家に危害は加えられていない」とした。

会見後半では、9月末にトランプ米大統領が発表した20項目の和平案が焦点となった。イスラエルのネタニヤフ首相は支持を表明した一方で、ハマスは受け入れを保留している。和平案にはイスラエル軍の撤退や人質解放、パレスチナ自治政府による統治などが含まれ、ハマス抜きの戦後体制が明示されている。錦田教授は「受け入れは難しいが、完全に拒否することも難しい条件だ」と分析した。

質疑応答では、戦後のガザ統治について「国際社会がどう関与するか」が問われるとし、停戦合意の具体化と執行過程での交渉余地が今後の注視点になると語った。最後に錦田教授は、「曖昧な提案の中で、国際社会の役割が試されている」と結んだ。

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