舞台裏》「台湾の盾」とは何か 頼清徳氏が描く台湾版「アイアンドーム」 米側秘匿装備は契約済みとの見方

2025-10-13 15:18
イスラエルの防空システム「アイアンドーム」。頼清徳総統は国慶演説で台湾版「台湾の盾」の構築を掲げた。(写真/AP通信)
イスラエルの防空システム「アイアンドーム」。頼清徳総統は国慶演説で台湾版「台湾の盾」の構築を掲げた。(写真/AP通信)
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台湾の国慶日(日本の「建国記念の日」に相当する祝祭日)にあたる双十節の演説で、総統の頼清徳氏は「台湾の盾(T-Dome)」の構築を加速させ、多層防御・高度探知・効果的迎撃を備えた厳密な防空体系を整える方針を示した。中国の軍事的圧力が続くなか、台湾はすでに高密度の防空体制を敷く「ミサイルの島」ともいわれる。こうした状況で打ち出したT-Domeとは具体的に何を指すのか。

現在、台湾はパトリオット、天弓、スタンダード、スティンガーなど複数の防空ミサイルを運用しており、ミサイル密度は世界上位に数えられる。では、頼清徳氏が突如掲げた「台湾の盾」はイスラエルの「アイアンドーム」とどこが異なるのか。新たにミサイル体系を開発する構想なのか、それとも別の取り組みなのかが焦点となる。

20251010-総統頼清徳10日出席中華民国114年国慶大会。(顏麟宇撮)
台湾・頼清徳総統(写真)。「台湾の盾」は新型兵器の開発か、統合による運用高度化かが焦点となる。(写真/顏麟宇撮影)

台湾の盾を構築――「網」で捉える統合防空の発想

関係者によれば、頼清徳氏のいうT-Domeは、個々の装備を束ねるシステム統合の発想に立つ。センサーから射撃部隊までを一体化し、たとえばパトリオットのレーダーが捕捉した目標でも、常にパトリオットで対処するとは限らず、状況に応じて天弓で迎撃する――といった柔軟な割り当てを可能にする“網状”の全体防空である。

空間的な層構造でも、射程約10キロ規模の近接野戦防空(例:スティンガー)から、中空・高空・超高空まで段階的に迎撃層を重ねる。標的も戦闘機、各種ミサイル、無人機などを区分し、それぞれに最適な手段を当てる。すなわち、体制統合・層状迎撃・目標区分の三つの観点で、綿密かつ完結した防空網を形成する構想だ。

20250715-特戦官兵が携帯式スティンガーミサイルを使用し、敵の空中目標を模擬迎撃する。(国防部提供)
構築では層の異なる防空を組み合わせる。近距離の野戦防空としてスティンガー(写真)なども考慮される。(写真/国防部提供)

防空密度は高水準――「各個撃ち」をどう束ねるか

軍関係者は、T-Domeが単独の新システムを指すのではなく、既存の防空網を統合運用する計画だと説明する。今後は国産・対外調達のいずれのミサイルであっても統合に取り込む必要がある。

もっとも、防空密度は高い一方、異なる技術体系――国産と米国製など――を橋渡しする統合は容易ではない。さらに台湾は低空・中空の装備は厚いが、高空・超高空の分野は一段の拡充が課題となる。全体で共通の状況図(共通の“絵”)を共有できなければ、何が来ているのかを的確に識別し、どの兵器で対処するかの判断が遅れる恐れがある。難易度は高いが、AIの進展は統合精度の向上に資する、との見方がある。

20250917-2025年台北国際航空宇宙・防衛産業展国防館、強弓ミサイル防空システム。(顏麟宇撮)
「台湾の盾」は新規システムの新造ではなく、既存の防空網を統合する発想が中核とされる。写真は強弓ミサイル。(写真/顏麟宇撮影)

アイアンドームは有名だが――T-Domeの位置づけは

イスラエルの防空は「アイアンドーム」「ダビデスリング」「アロー」の三本柱で構成され、なかでもアイアンドームは射程4~70キロの短距離ロケット弾や砲弾・迫撃弾に強みを持つ。三体系の連携で高密度の迎撃網を形成し、米軍が信号提供で支援する場合もある。では台湾はどうか。

イスラエルの体系を目安に照らすと、射程はアイアンドームが約70キロ、ダビデスリングが約300キロ、アローが約2400キロ。迎撃高度はそれぞれ概ね10キロ、15キロ、100キロとされる。台湾は、こうした「名指しの三層」というより、島嶼の地理と脅威像に合わせた層の織り上げと、指揮統制・センサー・射手のネットワーク化に重点を置く点が特徴となる。

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