台湾のファクトチェック団体「MyGoPen」は10月12日、SNS上で拡散している「TSMC(台湾積体電路製造)が米国との半導体生産『5対5』提案を拒否した」という情報について、詳細な調査報告を発表した。報告によると、この情報はYouTubeチャンネルによるAI生成の虚構コンテンツであり、事実ではないという。
「米代表の顔が青ざめた」動画の真相
SNS上では、「台米交渉の場でTSMCが米国の『半導体製造5対5』提案を拒否し、会場が30秒間沈黙、米代表の顔が鉄のように青ざめた」という内容の動画や投稿が拡散。「この瞬間、世界はチップの主導権がもはや米国にないことを悟った」とするセンセーショナルなナレーションも付けられていた。
MyGoPenの調査によると、この情報の発信源はYouTubeチャンネル「臺味人心」で、2025年10月6日にアップロードされた動画が元になっている。このチャンネルは2025年7月23日の開設以降、台湾関連の話題を中心にAI生成スクリプト、AIナレーション、AIサムネイルを組み合わせたニュース風動画を100本以上投稿しており、その多くが実際の報道ではなく「コンテンツファーム形式の創作物」だという。
実際の報道:米商務長官「チップ生産は米台で半々に」発言の経緯
MyGoPenの調査報告では、この「5対5構想」について、米メディア《CNBC》の9月30日の報道内容を引用している。
米国商務長官のハワード・ルートニック氏は9月28日のインタビューで、「もし台湾が世界の半導体生産の95%を担っているとしたら、中国が台湾を攻撃した場合、米国はどうやってその供給を守るのか?」と問われ、「だからこそ、生産を半々に分ける“5対5”が理想的だ」と述べていた。
台湾政府とTSMCの公式反応
MyGoPenは「五五分」「台積電 回應(TSMCの反応)」などのキーワードで検索を行ったが、TSMCからは一切の声明やコメントは発表されていないことを確認した。
台湾政府側の対応については、《中央社》が9月29日に報じたように、経済部(経済省)は「対米協議は行政院(内閣)が統括しており、交渉は現在も進行中」と説明。行政院経貿弁(経済貿易弁公室)も「これはあくまで米側の発言であり、コメントしない」とした。
10月1日には第5回の実質協議が完了したと報じられ、経貿弁は「台湾側が“5対5”の約束をした事実は一切ない」と明言している。
また、行政院副院長の鄭麗君氏も「交渉チームは“5対5”を約束していないし、今後もそのような条件に同意することはない」と強調。経済部長の龔明鑫氏も10月8日のインタビューで、「TSMCの先端プロセス工場は今後も台湾にとどまり、最も高収益を生む拠点であり続ける」と述べた。
ファクトチェック結果:虚構コンテンツによる誤情報
MyGoPenの最終結論によると、「TSMCが米国側の提案を拒否した」「米代表が顔を青ざめさせた」とするネット上の動画は、いずれもAIが生成した虚構ストーリーであり、実際の交渉や発言を根拠とするものではない。
台湾政府もTSMCも、いかなる「チップ生産5対5」提案に対してもコメントしておらず、現時点でそのような協議の事実は確認されていない。
編集:柄澤南 (関連記事: 米国「半導体は台湾と五五分に」 ルートニック商務長官が供給網再編を要求、シリコンシールド論に異議 | 関連記事をもっと読む )
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