台湾の賴清德総統はこのほど、総統府でアメリカのトーク番組『The Clay Travis & Buck Sexton Show』の司会者バック・セクストン氏の単独インタビューを受け、その内容が10月7日に放送された。
このインタビューで賴清德氏は、初めて「国防予算をGDP比5%まで引き上げる」という大胆な方針を示し、「平和の四大支柱」構想を通じてアメリカ国内で高まる「台湾防衛への疑念」に応じる姿勢を見せた。また、トランプ前大統領に対し「習近平国家主席に台湾への武力行使を思いとどまらせることができれば、ノーベル平和賞はあなたのものだ」と直接呼びかけ、さらに台積電(TSMC)を「アメリカを再び偉大にする鍵」と位置づけた。このインタビューは明らかにアメリカの保守層やトランプ再登場を意識したもので、賴氏は「米国保守派に響く言葉」で台湾の防衛と経済の重要性を訴えたとみられる。
「スコップを持ったスーパーヒーロー」──市民社会から始まる支援
インタビュー冒頭、アメリカの記者は台湾の街の安全さと市民の高い公共心を称賛した。賴清德氏は最近の台風による花蓮のせき止め湖決壊災害に触れ、「先週末の連休中、初日に3万人が花蓮に駆けつけ救援活動を行い、翌日以降さらに4万人が加わった」と説明。「つまり10万人以上のボランティアが自発的にスコップを手に被災者を助けた。私たちは彼らを“スコップを持ったスーパーヒーロー”と呼んでいる」と語った。
「主権の現実」「責任の所在」「平和の代価」 三つのレッドラインを明示
核心となる中台関係について、賴清德氏は毅然とした口調で三つの「レッドライン」を提示した。
第一に、台湾(中華民国)と中国(中華人民共和国)は互いに隷属関係にないこと。
第二に、台湾は中国の一部ではなく、中国には台湾を侵攻する権利がないこと。
第三に、現状を破壊しているのは台湾ではなく、中国の軍事的挑発こそが地域の平和と安定を脅かしているという点である。
賴氏はさらに、「台湾人民が民主・自由・人権を追求する生き方は決して挑発ではない」と強調した。
「平和は無価、戦争に勝者なし」 四大平和支柱の行動計画
【第一の柱】国防強化と抑止の決意
賴氏は「NATO基準に基づき、来年には国防費をGDP比3.32%に、2030年までに5%まで引き上げる」と表明。「NATOの目標を5年早く達成する」と強調し、台湾が多くの米同盟国を上回る防衛努力を行うと示した。さらに、台湾は米国からの兵器購入だけでなく、無人機、無人潜水艇、ロボット技術などの自国開発を進め、国際社会との共同研究・製造も強化していると述べた。
【第二の柱】経済の強靭性と脱・依存構造
賴氏は「2010年には対外投資の83.8%が中国向けだったが、昨年はわずか7%にまで減少した」と説明。「アメリカが今や台湾最大の投資先となっており、我々は“すべての卵を一つのかごに入れない”原則で経済安全保障を進めている」と強調した。この戦略は、「台湾に根ざし、世界に展開し、全世界に販売する」というビジョンのもと、経済の自立性と国家安全を両立させることを目的としている。
【第三の柱】民主主義同盟による連合抑止
賴清德氏は「台湾はアメリカや他の自由民主国家とともに『連合抑止力』を発揮する」と述べ、古代ローマのことわざ「汝、平和を欲せば、まず戦の備えをせよ(Si vis pacem, para bellum)」を引用した。「戦争を防ぐためには、準備が不可欠だ」と訴え、抑止こそ平和の基盤であると主張した。
【第四の柱】尊厳ある対話で共栄を模索
賴氏は実力の裏に「対話の余地」を残した。「台湾は中国と『平等かつ尊厳ある関係』のもとで対話・交流を行う用意がある。対話によって平和と共栄の道を切り開く」と語り、緊張緩和への意欲を示した。
トランプ氏への呼びかけ「ノーベル平和賞」の誘惑
トランプ氏に何を伝えたいかと問われ、賴清德氏は「もしトランプ氏が習近平国家主席を説得し、台湾に対する武力行使を永久に放棄させることができれば、トランプ大統領は間違いなくノーベル平和賞を手にするだろう」と語り、挑発的かつ魅力的な“オリーブの枝”を差し出した。
しかし、その直後に賴清德氏は話題を転じ、「ノーベル賞という誘惑」から「アメリカの利益という現実的警告」へと舵を切った。彼は、台湾の安全保障とアメリカの核心的国益が密接に結びついていることを強調し、台湾の安定が米国の地政学的優位を支える要であるとの立場を明確にした。
「中国が台湾を併合すれば、国際秩序が崩壊する」
賴清德氏は続けて、「問題は単に台湾が併合されるかどうかではない」と指摘した。「もし中国が台湾を併合すれば、国際社会でアメリカと競合し、ルールに基づく国際秩序を改変する上で中国がより有利な立場に立つだろう。それは最終的にアメリカ自身の利益をも脅かすことになる」と警鐘を鳴らした。
さらに彼は、中国の軍事力がすでにインド太平洋全域に拡大している現実を詳述した。「東シナ海や南シナ海を越え、第一・第二列島線の外側にまで展開している。中国海軍の北方艦隊は日本周辺を航行し、さらにオーストラリアの排他的経済水域(EEZ)で実弾演習を行っている」と述べ、北京の軍事的膨張に強い警戒感を示した。
「台湾は主権を守る決意を持っている」
番組の司会者が「台湾人は主権を守るために戦う覚悟があるのか」と問いかけると、賴清德氏は即座に答えた。「台湾は国家の安全を守ることに絶対的な決意を持っている」。彼は、増額が続く国防予算を改めて強調した上で、「中華人民共和国の政権を“外国の敵対勢力”と定義した」と述べた。そして、中国からの「五大脅威」に対応するために国家安全保障会議を開催し、17の戦略的方針を策定したことを明らかにした。これらの戦略は、今会期中の立法院(国会)で審議中の《国家安全保障法》を含む100を超える改正案として反映される予定だという。
賴清德氏は最後に、西洋のことわざ「天は自ら助くる者を助く(Heaven helps those who help themselves)」を引用し、「台湾は自らの責任を果たさねばならない」と強調。「私たちが団結し、共に努力するとき、抑止力は最も強力になる」と結んだ。
「アメリカを再び偉大にする」ための半導体戦略
インタビューの経済パートでは、賴清德氏は台湾積体電路製造(TSMC)の存在を「世界半導体エコシステムの中核」と位置づけ、各国の役割を詳細に説明した。「アメリカはイノベーション、研究開発、設計、そして市場でリーダーシップを握っている。日本は原材料と製造装置で優位に立ち、韓国はフラッシュメモリー、オランダは主要製造装置、そして台湾はウエハ製造で強みを持っている」と語った。
さらに賴氏は次のように述べた。「このエコシステム全体の利益のうち、約80%がアメリカに流れている。だからこそ、アメリカは今もこの産業構造のリーダーだと言える。台湾はアメリカ各州の再工業化を支援し、アメリカが世界のAIハブとして発展することを後押ししたい。私たちは、アメリカが新しいAI時代でも世界をリードし、“アメリカを再び偉大にする(help America be great again)”ことを願っている」。
家族支援政策にも言及:「家庭を築ける社会に」
インタビューの終盤では、賴清德氏は台湾が直面する少子化や家庭政策についても言及した。賴清德氏は政府の各種支援策を挙げ、「0〜6歳児への育児補助金、高校授業料の全額免除、社会住宅の優先入居、住宅ローン利息の補助、賃貸支援、不妊治療補助金」など、幅広い政策を説明した。また、「私はトランプ大統領が減税政策を進めていることに注目している。台湾でも家族の経済的負担を軽減し、より多くの人々が家庭を築けるようにしたい」と語り、社会政策面での改革への意欲を示した。