日本は長らく技術立国とみなされてきたが、経済産業省が2018年に公表した報告書は企業の情報システムに深刻な懸念を示した。多くの基幹系が長年のカスタマイズで標準化を欠き、関連ドキュメントも不備で可視性が低い。保守ノウハウは外部の受託会社や高齢エンジニアに集中し、担い手の退職が進むなか、旧来アーキテクチャと分散データの累積がセキュリティリスクやシステム障害を誘発しうる。こうした背景から、近年はIT分野で外国人材の登用が一段と積極化している。
一、「2025年のデジタル崖」――兆円規模のシステムリスク
経産省が提起した「2025年のデジタル崖」は、老朽・過度カスタマイズの基幹系と、管理層のデジタル・リテラシー不足がもたらす経済リスクを指す。刷新やクラウド移行、標準化が進まなければ、2025年以降の経済損失は年最大12兆円に上る恐れがある。大企業の約6割でコアシステム稼働年数が21年以上に達すると見込まれ、開発者の退職が進む中で非標準化が改修・統合コストを押し上げ、AIなど新技術の導入を直撃する。
二、人材ひっ迫――深刻化するIT人材不足
技術負債に加え、人材・言語の二重課題も重い。2025年までにIT人材は約43万人不足するとの推計があり、別推計ではソフトウェアエンジニアが約36万人不足、2030年にはIT人材の需給ギャップが41万~79万人に拡大する可能性がある。とりわけAI、IoT、サイバーセキュリティ分野での高スキル需要が急伸している。
三、多層下請けと過度カスタマイズ――構造的な病巣
日本の大企業は社内の開発体制が手薄で、長年にわたりベンダーに外注してきた。一次請負から二次・三次へと仕事が流れる「多層下請け」構造は知見の分散と責任の曖昧化、コスト増を招く。さらに紙の業務フローをそのままシステム化する“現状追随”が多く、業務再設計を伴わないため高度にカスタマイズされがちだ。結果として保守・更新が難しく、標準化やクラウド連携を阻む。こうした構造がデジタル変革の足かせになっている。
四、求められる人材像――技術型から「国際統合型」へ
危機は同時に機会でもある。鍵を握るのは、技術と業務を橋渡しし、プロセス改革を主導して“再び過度なカスタマイズ”に陥らせない「デジタル人材」だ。人材不足の深刻化を受け、企業は言語・ローカライズ要件を緩和し、リモート前提での外国人採用や国際チームでの協働を拡大。スキルの取り込みとナレッジ移転を加速させている。
結論――危機の裏側にある転機
「2025年の崖」に直面する日本のIT産業は、人材不足が一段と顕在化している。他方で、産業投資と基盤整備の拡大(例:セキュリティ拠点の整備、九州の半導体クラスター化)は、半導体・クラウドセキュリティ・デジタル人材の需要を押し上げ、海外IT人材には有望な参入機会となっている。
日本企業は採用において専門スキルをより重視し、言語要件のハードルを下げつつあるが、日本語の壁は現場運用で依然として大きく、業務推進の抵抗要因になり得る。したがって、「先に訓練、後に就業」というモデル――海外研修機関での育成後に就業へつなぐスキーム――は十分に現実的だ。専門スキルの磨き込みに加え、日本語コミュニケーション力を強化できれば、チーム連携で優位に立ち、キャリアの伸長にも結び付く。
筆者は義守大学応用日本語学科主任/日本研究センター主任。筑波大学博士。
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