「字幕の女王」戸田奈津子氏、FCCJで半生と翻訳の舞台裏を語る

日本外国特派員協会（FCCJ）は9月25日、プロフェッショナル・ランチョンを開催し、映画字幕翻訳家の戸田奈津子氏が登壇した。ハリウッド映画を中心に1000本以上の字幕を手がけ、「字幕の女王」と呼ばれる戸田氏は、幼少期から現在に至るまでの歩みと字幕翻訳の舞台裏、そして映画への情熱を語った。

戸田氏は講演の冒頭、戦後の東京で育った自身の体験を振り返った。焼け野原となった街で娯楽がほとんどない時代に、外国映画が解禁されると人々は映画館に詰めかけた。幼い頃に観たチャップリンやヒッチコック作品が強烈な文化的衝撃となり、映画への愛情の原点となったという。英語教育が制限されていた環境であっても、「映画を理解したい一心で英語を学んだ」と語り、字幕を通じて映画世界への理解を深めていった経緯を明かした。

字幕翻訳については「直訳ではなく、観客が読み切れる短さにまとめる工夫が不可欠」と強調した。英語から日本語に翻訳すると文字数が増えるため、意味を損なわずに簡潔にする必要がある。「美しい翻訳でも観客が読めなければ意味がない」と述べ、映像体験を妨げないことが最優先であると説明した。また、ユーモアの翻訳は特に難しいが、「観客が笑えば翻訳は成功」と考えてきたという。

戸田氏は字幕翻訳者が十数人しかいなかった時代にキャリアを志し、実際に仕事を得るまでに20年を要した。転機となったのはフランシス・コッポラ監督との出会いで、『地獄の黙示録』の字幕を担当したことがプロとしての出発点となった。その後、『007』シリーズや『スター・ウォーズ』などの大作を数多く手がけ、ハリウッドスターの来日時には通訳としても活躍した。

近年はデジタル制作により、公開直前まで作品内容が修正されるケースが増え、「翻訳作業の途中で内容が変わるのが最大の苦労」と明かした。一方で「どんな仕事でも好きでなければ続けられない」と述べ、「映画を愛する気持ちが道を切り開いてくれる」と若い世代に向けてエールを送った。

編集：田中佳奈

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