杜宗熹コラム:歌や批判にとどまらず――韓国瑜立法院長は今回も核心を突いた

10日、中華民国114年の国慶大会に出席する韓国瑜・立法院長。(写真/顏麟宇撮影)
10日、中華民国114年の国慶大会に出席する韓国瑜・立法院長。(写真/顏麟宇撮影)
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若い頃に観た人も多いだろう。ハリウッド映画『幸せのちから(The Pursuit of Happyness)』は、俳優ウィル・スミスが、実在の黒人起業家クリス・ガードナーの半生を演じた作品だ。落ち目のセールスマンから、努力と執念で株式仲介人の道を切り開くまでを描く。ガードナーは十分な教育を受けられず、幼少期に両親は離婚。収入は不安定で結婚生活もうまくいかず、息子を一人で育てた時期もあった(劇中ではスミスの実子が演じている)。それでも数学に強く、ルービックキューブ好きという素地を武器に、証券会社幹部との出会いを機に金融の世界で成功をつかんだ。

ウィル・スミス父子の共同作品:『幸せのちから』。(ネットより)
ウィル・スミス父子が共演した映画『幸せのちから』。(画像/ネットより)

人には「幸福を追求する権利」がある

『幸せのちから』の物語は、1980年代のサンフランシスコで実際に起きた出来事を下敷きにしている。当時は黒人が社会の表舞台に立つ機会が限られていたが、クリス・ガードナーは不屈の精神でチャンスをつかみ、息子と肩を並べて奮闘し、やがて多くの人を揺さぶる大ヒット作の主人公となった。作品には、当時の同地の華僑社会で中華民国支持が根強かった事情から、中華民国の国旗がたびたび映し出される場面もある。

米国の「建国の精神」に通じていたガードナーは、いついかなる時も自分にも成功の機会があると信じ、失意のときでさえ、独立宣言の起草者で第3代大統領トーマス・ジェファーソンが記した「人には幸福を追求する権利がある」という言葉を忘れなかった。生命・自由・平等に加えて「幸福追求の権利」を掲げる発想こそが、英題 The Pursuit of Happyness の由来である。この映画を通じて見えてくるのは、民主国家の政府が担う役割の一つが、人びとの「幸福を追求する権利」を保証することだという点だ。『中華民国憲法』に明文規定はないものの、基本的人権の一部として認めるべきだろう。

アメリカ第3代大統領トーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)。(Wikipediaより)
トーマス・ジェファーソン米第3代大統領。(写真/Wikipedia)

幸福の感覚を忘れた

今年の国慶典では、立法院長で国慶準備委員会主任の韓国瑜氏が挨拶の途中、歌手フェイ・ユーチンの名曲「国恩家慶」を口ずさんだ。かつての国慶大会の楽しさや華やぎを思い出させる一幕であり、『幸せのちから』が教える「幸福の追求は生まれながらの権利」という原点にも重なる。筆者は「アジア四小龍」といった古めかしい枠組みや、GDPの数字比べを持ち出すつもりはない。ただ、長く海外にいる人なら、この2年で台湾の笑顔が目に見えて減り、人間関係は張りつめ、時には「優先席をめぐる小競り合い」や「世代間の衝突」が起きていると感じるはずだ。あの“幸福な台湾社会”はどこへ行ってしまったのか。

答えは容易ではないが、韓氏が指摘するように「大規模なリコール」が社会を引き裂いたのかもしれない。あるいは、120万人が月給3万1千元未満という低賃金にとどまり、そもそも幸福の追求どころではないのかもしれない。いずれにせよ、筆者は韓氏の「世には苦しむ人が多いことを忘れてはならない」という言葉に同意する。政治家は「自らの俸給は民の血と汗の結晶。下々は虐げやすいが、天は欺けない」という戒めを忘れてはならない。

114年国慶大会10日、総統府前で行われ、図は5機の勇鷹高等訓練機が空中で編隊飛行し3色の煙を出している。(劉偉宏による撮影)
114年の国慶大会(10日、総統府前)。勇鷹高等訓練機5機が編隊飛行し、三色のスモークを描いた。(写真/劉偉宏撮影)
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