『台湾有事は日本有事』を捉え直す――日本の研究者が読み解く「日台友好」の光と影:独立派×日本右派の蜜月がはらむリスク

2025-10-14 17:54
政治大学は21日、「安倍晋三研究センター」設立式を開催。頼清徳総統はあいさつで「きょう砲火を見ることなく静かな平和を享受できているのは、安倍晋三氏の高い先見の明による」と述べた。(写真/総統府提供)
政治大学は21日、「安倍晋三研究センター」設立式を開催。頼清徳総統はあいさつで「きょう砲火を見ることなく静かな平和を享受できているのは、安倍晋三氏の高い先見の明による」と述べた。(写真/総統府提供)
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台湾とどの国が最も友好的か——しばしば引き合いに出されるのが、故・安倍晋三氏の「台湾有事は、日本有事でもある」という言葉だ。だが、自民党右派のイデオロギーを牽引した安倍氏の、この明確な対中戦略を帯びたスローガンが、日本全体の合意を代弁するとは限らない。日本メディア『東洋経済』は13日、九州大学の前原志保・副教授による台湾の歴史認識と日本の保守界隈との親和性:「心地よい幻想」で成り立つ日本と台湾の関係は危ういを掲載し、イデオロギー光譜の異なる立場にいる日本人が、いわゆる「日台友好」とその影響をどう見ているかを描き出した。

前原氏は論考で、現在の日台の多くの交流が「心地よい幻想」の上に築かれていると指摘する。善悪を単純化した二項対立は、理解を本当に深めるどころか、将来的な潜在リスクを増幅しかねないという。

終戦80年——誰の戦争で、誰の終戦か:台湾史の二重像

前原氏は、今年が第二次世界大戦終結80年としてアジア各国で注目されている点を確認する。中国は「中国人民抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年」と位置づけ、抗日題材の映画・ドラマを相次いで公開し、盛大な軍事パレードや記念式典を実施。韓国も6月16日の「日韓国交正常化60周年」に続き、8月15日を「光復80周年」として、日本統治からの離脱を大きな節目として祝った。では台湾はどうか。

前原氏は8月、台北で開かれた「終戦80年:日台交流の回顧と展望」学術シンポに特別参加し、「李登輝の対日外交における戦略的言説とその遺産」を発表。その議論を踏まえ『東洋経済』で、台湾における「あの戦争」の記憶のありようを掘り下げている。台湾大学の法学博士課程出身でもある同氏は、台湾社会に単一・統一の戦争史観は存在せず、少なくとも「中華民国史観」と「台湾史観」という二つの視座が、世代やエスニシティの違いをまたいで深く影響していると述べる。

「中華民国史観」の物語では、1945年8月15日は「抗日戦争勝利記念日」。続く10月25日は日本統治の終焉=「祖国復帰」の日として「光復節」とされる。この日、最後の台湾総督・安藤利吉氏が台北公会堂(現・中山堂)で中華民国代表の陳儀氏に降伏文書を手渡した。長きにわたり、「光復節」は台湾当局が盛大に祝う国定休日だった。

しかし、台湾の民主化の進展に伴い、「台湾光復節」の位置づけは次第に難しくなった。濃い「大中華」色に加え、その後の二・二八事件や白色テロを想起させるため、2001年には国定休日から外れる。皮肉にも、いま(2025年)なお「光復節の祝日復活」をめぐる議論は台湾社会で波紋を広げており、歴史解釈の継続するせめぎ合いを映し出している。 (関連記事: 日台考古学の祭典!宮崎の貴重な埴輪が台湾に初上陸 十三行博物館「静土有声」特別展が開幕 関連記事をもっと読む

一方、「台湾史観」の枠組みでは、1945年8月15日はたしかに「日本統治からの解放」だが、多くの人にとっては「中国国民党政権による再植民地化の出発点」とも映る。日本統治期に日本兵や軍属として南洋や中国大陸の戦線へ動員された台湾人にとって、「抗日戦争勝利」の語は、複雑で言い表しがたい感情を呼び起こす。家族や自分が日本のために戦った彼らにとって、時に“敵”は「祖国」を称する軍だったからだ。

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