第21回大阪アジアン映画祭が29日に開幕し、台湾映画『万博追踪』がオープニング作品として上映された。主演を務めた翁倩玉さんも登壇し、55年前の大阪万博での記憶や2025年大阪・関西万博への思いを観客と分かち合った。翁さんは前日に会場を訪れ、「1970年の万博は未来や宇宙への憧れに満ちていた。2025年の万博は、未来に向けて私たちが何をすべきかを考えさせる」と語った。
『万博追踪』は1970年の大阪万博を舞台に、台湾館の接待員を演じる翁さんが、家族を支援する謎の人物を探して奔走する姿を描いた作品。歌やダンス、サスペンスの要素を織り交ぜながら、当時の会場風景を鮮明に映し出している。上映後、翁さんは「これから皆さん、きっと驚かれると思います。楽しんでくださいね」と笑顔で呼びかけ、会場は大きな拍手に包まれた。
今回の上映に向け、台湾文化センターと大阪アジアン映画祭が協力し、国立映画・視聴文化センターが損傷したフィルムを丁寧にデジタル修復した。岡本太郎の太陽の塔、丹下健三設計の会場施設、球形ロープウェイや高架電動歩道といった未来的な建築や交通システムも克明に映し出され、開幕作品として新たな命を得た。
当時の「中華民国館」も記録されている。建築家I.M.ペイ(貝聿銘)が設計を手がけ、入口には彫刻家・楊英風の大型鋼鉄作品「鳳凰来儀」がそびえ立った。館内では故宮の文物や中国陶磁器、書や印刷術を展示し、「伝統と進歩」をテーマにした国家的色彩の強い展示が展開された。今回の上映により、55年前の台湾館の姿が歴史的映像として甦り、2025年万博への期待とも重ね合わされた。
駐日代表の李逸洋大使は、翁倩玉さんが長年にわたり台湾と日本の文化交流に貢献してきたことを称賛。「外交関係が途絶えても、台湾と日本は信頼と友情を保ち続けてきた。民主国家同士の価値観が交流の基盤となっている」と強調した。また、羽田空港で翁さんと偶然再会した際のエピソードを紹介し、その努力と献身に深い敬意を表した。
さらに文化部の李遠部長も「半世紀を経て『万博追踪』を通じ再び中華民国館を紹介できることは意義深い」と述べ、翁さんの演技力と長年の活動に最大限の敬意を表した。映画修復に携わった褚明仁董事長らスタッフへの謝意を示し、大阪アジアン映画祭の成功を祈念した。
開幕当日は、台湾文化センターの曾鈐龍所長が翁倩玉さんや映画祭関係者に大使と部長からの祝意と謝意を伝達。デジタル修復によって甦った『万博追踪』は、単なる映画の復活にとどまらず、台湾映画が積み重ねてきた映像文化の力を世界に示す場ともなった。半世紀を経て蘇る万博の風景に、観客は映画の持つ時間の力を実感した。
編集:田中佳奈
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp (関連記事: 台湾の声を世界へ 《島の聲》が大阪万博で初演 杜思慧監督「台湾の信仰と多様性を届けたい」 | 関連記事をもっと読む )