米国のAI新興企業Anthropicが、50万冊以上の書籍と50万人以上の作家に関わる著作権集団訴訟で総額15億ドルの和解金を支払うと5日に発表した。このニュースが話題となる直前、同様の問題が日本でも表面化していた。日本経済新聞社と朝日新聞社は8月下旬、米国のAI検索スタートアップPerplexityを相手取り、東京地裁に提訴した。両社は、同社が記事を無断で収集・利用したとして、各22億円の損害賠償と記事利用の差し止めを求めている。これは読売新聞に続く動きであり、AIと報道産業の対立が日本国内でも急速に広がっていることを示している。
Perplexity具体的にどのような問題が指摘されているのか
訴状によれば、Perplexityは少なくとも2024年6月以降、日経・朝日のサーバーに直接アクセスして記事を取得し、それを要約してユーザーに提供していた。問題は、著作権法で保護された記事を無断で複製・改変した点に加え、誤った要約を「日経」や「朝日」の出典と偽って表示したケースもあり、両社の信用を損ねたとして不正競争防止法違反にもあたると主張している。
日経は特に、電子版の有料会員限定記事が無断利用されたと指摘。朝日は、Yahoo!ニュース向けに配信した記事までも利用されたとしている。
日経・朝日が強硬姿勢を取る理由
両社は強い言葉で声明を発表した。日経は「膨大な時間と労力をかけて制作した記事を無断で使われることは到底容認できない。虚偽情報を伴う事例も確認されており、民主主義を支える健全な報道を守るためにも著作権侵害を抑止すべきだ」とコメント。朝日も「日本新聞協会を通じて業界全体で対応を求めてきたが改善は見られず、違法利用が続いている。生成AI事業者には引き続き厳しい対応を求める」と表明した。
訴訟の経緯
- 2024年6月:Perplexityが日経・朝日のサーバーにアクセスし続けていたと指摘
- 2024年8月7日:読売新聞が約21億円の損害賠償を求めて先行提訴
- 2024年8月26日:日経・朝日が東京地裁に正式提訴
- 現在:審理中。両社は各22億円の賠償とAI要約の削除を求めている
なぜ国際的に注目されているのか
Perplexityは2022年にOpenAI出身者が創業し、瞬く間に注目を集めたAI検索企業である。アマゾン創業者ジェフ・ベゾスや半導体大手NVIDIAが投資し、月間利用者は1,500万人超。日本ではソフトバンクと提携して市場拡大を進めている。そのため、著作権侵害をめぐる訴訟は投資家やパートナー企業に大きな影響を与える可能性がある。
実際、米ウォール・ストリート・ジャーナルを擁するダウ・ジョーンズ社も2024年10月に同社を提訴している。一方Perplexityは「検索機能は著作権で保護されない公開情報に基づいている」と反論している。
この問題が示す産業の課題
AI検索サービスは利便性が高い一方で、著作権をめぐる深刻な問題をはらんでいる。従来の検索エンジンと異なり、AIは記事要約を直接提示するため、利用者が新聞社のサイトにアクセスする動機を削ぎ、媒体の流入や収益を侵食しかねない。専門家は「報道機関がコンテンツ価値を法的に守れなければ、民主社会を支えるプロのニュース生態系が根底から脅かされる」と警鐘を鳴らしている。
編集:梅木奈実 (関連記事: 生成AIに初の大規模和解 Anthropicが50万人作家に賠償、1冊3000ドルが国際基準に? | 関連記事をもっと読む )
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