もしデジタルの神が降臨しなければ、その後に訪れる崩壊は悲惨を極めるだろう。
『エコノミスト』―AI株式市場が崩れたらどうなるか
2022年にChatGPTが突如登場して以降、人工知能(AI)の革命的潜在力が世界の市場に火を点け、米国株式市場はわずか数年で21兆ドル拡大した(新台湾ドルで600兆超に相当)。このうちAmazon、ブロードコム、Meta、NVIDIAなど10社の巨大テックが上昇分の55%超を占めたとされる。熱狂は株式市場にとどまらず実体経済にも浸透し、2025年上期の米国GDP成長はほぼIT投資ブームが牽引した。今年は西側諸国のベンチャー資金の3分の1がAI関連スタートアップに流入している。
英誌『エコノミスト』は7日、米株高騰の背景には「AIが人類経済を覆す」という大きな信念があると分析した。ベンチャー大手セコイア・キャピタルは、その影響は「産業革命に匹敵、あるいはそれを上回る」と見る。資産運用会社アトレイデス・マネジメントの投資家ギャビン・ベイカー氏は昨年のポッドキャストで、現在のAIリーダーたちが目指すのは企業価値の「数十兆、数百兆ドル」の創出にとどまらず、実質的には「デジタルの神(Digital God)の創造を競っている」と述べた。かかる半ば宗教的な駆動の下では、いかなる規模の投資も正当化されがちである。
しかし、もしこの「デジタルの神」が降臨しなかったなら、米国経済は何に直面するのか。
AI経済の「非合理的繁栄」
AIは本当に「万能の神」となり得るのか。スイスの大手金融機関UBSが発表した報告によれば、これまでAIが生み出した実際の収益は「常に期待外れ」であった。西側のトップ企業ですら、AI関連の年間総収益は約500億ドルにとどまり、巨額の投資額とは釣り合わない。AI産業の利益は急速に伸びてはいるが、すでに行われ、これから予定される巨額投資に比べれば、依然として微々たるものにすぎない。
米投資銀行モルガン・スタンレーは、2025年から2028年にかけて世界で2兆9000億ドルが新たなデータセンター建設に投じられると予測する。そこには膨大なエネルギーコストは含まれていない。さらに問題は、そうした収益が果たして確実に利益へと転化できるのか、その見通しが極めて不透明である点だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究では、生成AIへの投資を行った組織の95%が「実質的なリターンはゼロ」であったという厳しい現実が示されている。
こうした乖離により、AI投資は「非合理的な熱狂」に陥っているのではないかとの疑念が強まっている。ヘッジファンドのプラエトリアン・キャピタルは、現在の状況を「グローバル・クロッシングの亡霊」と表現する。2000年代初頭のITバブル期、同社は過剰な海底光ファイバー敷設で最終的に破綻したが、今のAIブームはそれを想起させるという。UBSの別の報告書も「この分野のバリュエーションは確かに警戒水準にあり、キャッシュフローが期待を下回る余地はほとんど残されていない」と警告する。さらに、投資会社アポロのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は、現在のAI株の評価額はすでに1999年のITバブル絶頂期を上回っていると明言している。
「ChatGPTの父」と称され、AIの最も熱狂的な伝道者とされるOpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者ですら、警鐘を鳴らした。「投資家全体がAIに過度な興奮を抱いているのではないか。その答えはイエスだ」と語ったのである。
バブルは革新の必然的試練か?
アルトマン氏らは同時に、より大局的な歴史的視点も提示している。革新的な新技術が誕生する際、投機的バブルが生じるのはほとんど常態だというのだ。ゴールドマン・サックスの元アナリスト、マイケル・パレク氏は「テクノロジーへの熱狂は常に現実を先行する」と指摘する。サンフランシスコ連邦準備銀行が2008年に発表した研究も「歴史が示すのは、大きな技術革新の時期には投資家が生産性の進展に過剰反応し、必ず投機バブルを伴う」という事実であった。2018年の学術研究では、1825年から2000年までの主要な技術革新51例のうち37例が、バブル現象を伴っていたと結論づけられている。
19世紀の英国では1840年代と1860年代に鉄道バブルが発生し、米国でも19世紀末には電灯会社への投資熱が過熱した。だが多くのバブル崩壊は、技術そのものの普及を阻むことはなかった。英国はいまも鉄道網を維持し、米国人も当たり前のように夜を照らす明かりを享受している。AIも同じくバブルの波に浮沈するだろうが、「デジタルの神」の影響力は長期的に巨大なものとなり得る。
しかし、それは崩壊が無害であることを意味しない。歴史の教訓は明確である。テクノロジー・バブルが破裂したとき、かつての市場の覇者はしばしば新興勢力に取って代わられるのだ。歴史家アラスデア・ネアーン氏は著書『市場を動かすエンジン』で「現金収支が問題化したとき、規模も成功度も最大だった照明会社でさえ支配権の交代を経験した」と記している。1960年代の米国電子バブルで話題となったヴァルカトロン社や、インターネット時代に一世を風靡したコーニング社の名を覚えている者は今どれほどいるだろうか。今から10年後、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国の巨大テック企業や、今日脚光を浴びるAIスタートアップが揃って存続しているとすれば、それはまぎれもない奇跡である。
衝撃の深刻さを決定する四つの要因
テクノロジー・バブル崩壊が社会に及ぼす衝撃の度合いは大きく異なる。1960年代の米国電子ブームの崩壊は経済全体にほとんど影響を与えなかった一方、1870年代の鉄道バブルは米国史上最長の不況を招いた。『エコノミスト』が過去のテクノロジー・バブルを分析した結果、崩壊後の深刻さを左右するのは次の四つの要因である。
引き金となる要素:政治的要因(規制緩和や税制優遇など)によって膨らんだバブルは、純粋な技術革新がもたらすバブルよりも破壊力が大きい。政治が投資家に群集心理を誘発するためだ。1980年代末の日本では金融自由化を背景に巨大資産バブルが形成され、崩壊後の停滞は数十年続いた。
資本規模と持続性:投資規模が大きいほど、崩壊時の衝撃は強まる。1840年代の英国では鉄道投資がGDP比5%から13%に急拡大したが、バブル崩壊で投資は半減し、失業率は倍増した。
資本の配分方法:投資が長期的に役立つ資産を残す場合、バブルの負の影響は部分的に相殺される。英国の鉄道狂乱は鉄道網の基盤を残し、ITバブル期に過剰に敷設された光ファイバーは後の動画配信サービスの基盤となった。
損失の担い手:損失が広く個人投資家に分散すれば、経済全体への打撃は限定的となる。しかし、銀行など金融機関に集中すると信用収縮を引き起こし、不況を深刻化させる。1860年代の英国鉄道バブル崩壊はその典型例である。
では、現在のAIブームを歴史的な枠組みに当てはめると、どのような診断が下されるのか。『エコノミスト』の評価は警鐘を鳴らすものであった。現在進行中のAIバブルの潜在的リスク水準は、19世紀に起きた三度の壊滅的鉄道崩壊に次ぐものだという。
引き金要因:AI熱狂の出発点は、2017年の論文「Attention is All You Need」と2022年のChatGPT登場にあるが、その後は各国政府が積極的に火を注いできた。トランプ政権は「世界覇権」を掲げ規制緩和を約束し、湾岸諸国は数兆ドル規模の資金を投じた。政治の介入が熱狂をさらに加速させている。
資本規模:米国のAI企業が過去4年間に行った投資額はGDP比で3~4%と、規模自体はまだ中程度にとどまる。しかし、データセンター建設が予測通り進めば比率は急上昇する。さらに問題なのは、多額の投資が急速に陳腐化する資産に向けられている点だ。NVIDIAの最先端半導体は数年で陳腐化する恐れがあり、米テック企業の資産の平均「耐用年数」はわずか9年と推計される。これは1990年代の通信インフラ資産(約15年)を大きく下回る。
損失の担い手:銀行システムの直接的なリスクは相対的に低い。今後見込まれる2兆9000億ドル規模のデータセンター投資のうち、ほぼ半分は巨大テック企業が自らの潤沢なキャッシュフローから賄う見通しだ。彼らは負債が少なく、借入余力も大きい。残る資金は保険会社や年金基金、政府系ファンドや富裕層のファミリーオフィスなどが拠出している。たとえAI投資の価値がゼロになっても、これらの機関は打撃を受けるにとどまり、システミックな金融危機に直結する可能性は低い。
それでも『エコノミスト』は、米国経済はいま未曾有の脆弱な状態にあり、AIバブルの崩壊は極めて深刻なリスクをもたらしかねないと厳しく警告する。
株式市場の歓声と経済の崖
『エコノミスト』は、米国経済がこれほどまでに株式市場の命運と強く結び付いたことは過去になかったと指摘する。現在、株式資産は米国世帯の純資産全体の30%を占め、この比率は2000年のITバブル頂点時の26%すら上回る。しかも富の大半は富裕層に集中しており、彼らの消費こそが近年の米国経済成長を下支えしている。オックスフォード・エコノミクスの試算によれば、金融資産が1ドル増減すれば消費支出はおよそ14セント変動する。つまり、少数のAI大手に依存する株式市場が崩壊すれば、その逆資産効果が直ちに消費を直撃し、実体経済に深刻な打撃を与えることになる。
この間、AIは壮大な技術革命の青写真を次々と描き出し、米国の制度的脆弱性、貿易障壁の拡大、そして制御不能な政府債務といった暗い現実から世論の目を巧みにそらしてきた。AIはまるで強力なモルヒネのように、市場を未来への幻想に酔わせてきたのだ。だからこそ『エコノミスト』は警告する。「デジタルの神」が予定通りに降臨しなければ、この夢想と資本、そして政治が共に生み出した巨大なバブルは轟音とともに崩壊する。その破壊は苛烈を極め、単なる金融市場の惨事にとどまらず、インターネット・バブルをも凌駕し、世界経済を飲み込む歴史的崩壊となりかねない。