アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏が発表した「対等関税」政策が、本日(9日)正午12時1分に正式に発効した。しかし、この政策をめぐって再び論争が巻き起こっている。アメリカの著名な保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)」が最新の報告書を発表し、トランプ政権による関税率の算出に使用された計算式に誤りがあり、実際の課税率が適正水準の約4倍に達していたと指摘。学界および世論から強い疑念の声が上がっている。
トランプ氏の「対等関税」に計算ミス ホワイトハウスが小売価格データを誤用
AEIの分析によると、ホワイトハウスは対等関税を計算する際に、誤って「消費者小売価格」の変化をモデルに組み込んでいた。実際に使用すべきだったのは、アメリカ企業が海外のサプライヤーから商品を仕入れる際に支払う「輸入原価」の変化である。このミスにより、全体の税率が現実から大きく乖離する結果となった。
AEIはさらに、ホワイトハウスが用いた価格弾性値は0.25であるが、貿易経済学の理論によれば、本来は0.945に近い値を用いるべきであると指摘。計算式の誤りにより、最終的な税率には4倍の開きが生じ、政策効果や対外交渉の前提を著しく誤導していると強調した。
台湾の実質的な関税率はわずか10%程度
AEIが再計算した報告書によれば、正しい公式を適用すると、影響を受ける多くの国の実質税率は大幅に引き下げられるべきであることが明らかになった。たとえば、従来は最大50%の関税を課されていたアフリカのレソトについては、実際には13.2%が妥当な水準であるという。台湾、中国、韓国、日本、そして欧州連合(EU)については、いずれも約10%前後に収まるとされており、ホワイトハウスが主張していた「懲罰的関税」とは大きく異なる結果となった。
学者がトランプ氏の通商政策を「素人同然」と酷評
この報告書は、AEIの経済学者スタン・フューガー(Stan Veuger)氏とケヴィン・コリンシ(Kevin Corinth)氏によって共同執筆された。彼らは、ホワイトハウスが採用した計算モデルについて、「経済理論的根拠に乏しく、法的な裏付けもない」と厳しく批判している。
フューガー氏は「もしこれを米国の通商政策の堅固な基盤として通すつもりならば、せめてホワイトハウスの関係者には慎重な計算を期待しても良いはずだ」と述べ、今回の政策運用を「完全に素人の仕事」だと切り捨てた。また、重大な経済政策を推進する際には、より高い専門性を示すべきだと指摘した。
「単なるミスではなく意図的な仕掛け」 トランプ氏に世論操作の疑い
AEIの別の研究員であるデレク・シザーズ(Derek Scissors)氏は、今回の件は単なるミスではなく「意図的な操作」であるとまで断言している。彼によれば、トランプ政権は「対外的に非常に高い関税を発表する」という明確な目的を持っており、それを実現するために計算方式を意図的に変更し、望ましい政策効果を「作り出した」のだという。
シザーズ氏は、「これは巧妙に設計された詐欺であり、単なる技術的ミスではない」と指摘。これにより、「対等関税」政策の合法性と道徳的正当性は、再び深刻な疑義にさらされることとなった。
AEIの報告書が複数のメディアによって引用・報道されたことで、トランプ政権の関税政策に対する信頼性とその運用手法は、今後の国内外の政策論争における重要な焦点となるのは確実である。
米政権、関税計算で代入ミスか 実際の税率は「4分の1」https://t.co/arb8RIQl9eAEIの研究員は係数のひとつについて、代入すべき数値は「0.25」ではなく「0.945」だと指摘。政権は輸入価格ではなく「関税に対する小売価格の弾性値」を誤って代入したと。――算式の分母が大きくなり、試算結果は㊦。 pic.twitter.com/sPD6d3ucc8— 滝田洋一(Yoichi TAKITA) (@takitanufs) April 8, 2025
編集:梅木奈実 (関連記事: 【台湾】トランプ氏の対中関税包囲網に板挟み 学者「中国は非平和手段に出る可能性」 | 関連記事をもっと読む )
台湾ニュースをもっと深く:風傳媒日本語版Xをフォロー👉 @stormmedia_jp