李忠謙コラム》関税が引き起こす世界経済の恐慌、トランプはいつ手を引くのか?

2025年4月5日。抗議者らがサンフランシスコ市庁舎前広場に集まり、アメリカ大統領トランプに抗議。これは、アメリカの市民団体が全米50州で約1200回の「Hands Off!」抗議活動を展開した中の一つ。(AP)
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アメリカのトランプ大統領が再びホワイトハウスに戻ってからというもの、数々の突飛な行動が話題となってきたが、大多数の人々はそれらを茶番や冗談として捉えていた。しかし、「解放日」関税によって、ついに世界は彼の偏執と狂気を目の当たりにすることとなった。堅苦しい言葉で言えば、トランプの無謀な政策は、アメリカ経済モデルのいくつかの重要な柱――グローバル貿易、憲法統治、市場効率、金融安定――を揺るがしている。より率直に言えば、トランプは、あるいはこれから、すべての人々の財布に深刻な打撃を与えるのである。

世界の株式市場が軒並み急落したほか、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のエコノミストはアメリカの第4四半期のGDP成長予測を引き下げ、さらに景気後退の可能性を大幅に引き上げた。より深刻なのは、トランプが「対等関税」計画を堅持する場合、世界経済全体がこのとんでもない政策の道連れとなって不況に陥る可能性がある点であり、いまや国際ニュースにおける最大の問いは「トランプはいつ手を引くのか?」となっている。

一部では、米国株の暴落がトランプに翻意を促すのではとの期待もあったが、先週の2日連続の急落でNASDAQまでもが弱気相場に突入したにもかかわらず、トランプおよびその側近たちは信念を曲げず、これを「国家がより強くなる前の必要な苦痛」とし、国民に対して「苦難を共にしよう」「引き続き忍耐してほしい」と呼びかけている。財務長官のスコット・ベッセント(Scott Bessent)は「半世紀にわたる誤りをこのまま水に流すことはできない」と宣言し、商務長官のハワード・ルトニック(Howard Lutnick)もこれを深刻な国家安全保障問題と位置づけ、「トランプはグローバル貿易を再構築し、製造業をアメリカに回帰させている」と述べ、関税の免除は容易に行えないとしている。

仮にトランプの支持率が大きく低下し、各国が結束してアメリカに報復措置を講じたとしても、ポピュリズムを操るこのアメリカ大統領が方針転換するかどうかは不透明である。この点についてもアメリカ国内では意見が分かれており、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベテラン記者ボブ・デイヴィス(Bob Davis)は、『フォーリン・ポリシー』誌の論考で、トランプがどのような要因で譲歩を決断するのか、またその方法について分析を行っている。
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物価上昇による国民の不満

デイヴィスは、トランプの「解放日」関税が、通常は免税対象となる輸入品――例えばコーヒー、紅茶、バナナなどアメリカ国内での生産量が極めて少ない農産物――にまで及んでいる点に注目する。トランプ1.0時代の米中貿易戦争では、中国からの高級消費財に対して関税を課すことを慎重に回避していたが、今回の措置では、中国から出荷されるiPhoneにさえ最大54%の関税が課される。この大幅な物価上昇は、トランプ政権に対する政治的圧力を強めることとなり、代替品が関税免除対象となっていないため、企業も政府に圧力をかける可能性がある。

共和党の重鎮である上院議員テッド・クルーズはすでに警告しており、関税がアメリカ経済を不況に陥らせれば、来年の中間選挙で共和党は「血の洗礼」を受けると述べた。トランプ政権は、新たな免除リストを発表することで、関税戦争が国内経済に与える影響を大幅に軽減し、同時にどの製品・企業を支援または阻害するかを選定し、見返りとして彼らに利益供与を求める可能性が高い。

また、トランプは災害の責任を関係のない人物に押し付ける傾向がある。たとえば、Signalによる国家安全保障情報の漏洩事件後、極右インフルエンサーのローラ・ルーマーの不満を受け入れ、6人の国家安全保障担当官を解任した。デイヴィスによれば、同様に「解放日」関税のスケープゴートになる可能性が最も高いのが商務長官ルトニックである。トランプは常に経済不況の責任をバイデン前大統領に押し付けてきたが、元大統領を解任することはできない以上、最近テレビで「対等関税」の利点を盛んに訴え、「一切の免除はない」と強調するルトニックは、解任の対象として理想的だという。また、同じ関税タカ派でありながら、段階的実施を主張するロバート・ライトハイザーが、商務長官の後任として適任であるとも指摘されている。