中国人民解放軍は、頼清徳総統による「頼17条」国家安全戦略への対抗を名目に、4月1日と2日の2日間にわたり台湾周辺の海空域で大規模な合同軍事演習を展開した。陸軍、海軍、空軍、ロケット軍、さらには海警の艦艇を動員し、台湾への統合作戦権の奪取、海陸への打撃、重要地域と要衝の封鎖・統制を想定した演習と発表した。2022年、米国のペロシ下院議長訪台を契機に始まった一連の軍演を経て、国軍は解放軍の行動に対して十分な経験と備えを持ち、台湾社会も冷静さを保っている。しかし、2024年の2度の「聯合利剣」演習と比較すると、今回の兵力規模はより大きく、台湾の航路や港湾の封鎖、天然ガス受入施設への打撃といった演習科目は、より実戦的で標的性の強い脅威となっている。
国軍関係者によると、解放軍はここ数年で台海における各軍種の統合作戦能力を向上させ、台湾周辺海空域での常態的な配備と集中的な活動によって戦場環境の習熟を進めていると指摘した。特に近年は海警艦艇も加わることで、台湾への封鎖や隔離作戦の計画がより綿密になっている。ただし、解放軍が頻繁に演習を行っても、その真の戦意は隠しきれず、国軍には観察と推演の機会が生じ、反制の道筋を計画することが可能であるという。今回の軍演では、ある兵器の登場が国軍の警戒を呼び起こした。
解放軍は総統賴清德(写真)が提起した「賴17条」国家安全保障戦略への対抗措置として、4月1、2日の連続2日間、台湾周辺の海空域にて大規模な統合軍事演習を実施した。(資料写真、柯承惠撮影)
解放軍の戦力向上、殺傷能力の高い兵器が姿を現す
軍関係者は、近年、解放軍の海空兵力は演習開始から戦術配置までの時間が短縮されており、戦備能力が向上していると述べた。国軍も各部隊の即応訓練を強化し、2025年からは「即時戦備演習」の実施を予定している。4月1日・2日の演習では、山東艦を含む大規模兵力が動員され、初めて高雄・永安の天然ガス受入施設への遠距離ロケット砲による模擬攻撃も実施されたことで、臨戦の緊張感が一層高まった。
同関係者によれば、威嚇手法自体は過去と大きな違いはなく、演習シナリオも国軍の想定範囲内で対処は容易だという。ただし注目すべき点は、解放軍が公開した映像において、H-6K爆撃機が新型の「鷹撃21(YJ-21)」対艦弾道ミサイルを搭載して離陸する様子が確認されたことだ。もし実際にこの兵器が演習に投入されたのであれば、国軍はこれを極めて深刻な脅威と見なす必要がある。鷹撃21(YJ-21)は極超音速空中発射弾道ミサイルであり、台海防衛において極めて深刻な脅威となり得る兵器である。
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中国軍の山東艦が今回の対台湾軍事演習に参加した。写真は、日本の駆逐艦から山東号空母を中心とした戦闘群を望む様子。(資料写真、AP通信)
H-6の兵装が鷹撃21(YJ-21)に 国軍の防空体制に重圧
過去の解放軍による台湾包囲演習では、作戦半径3000キロのH-6K爆撃機が定番で、東台湾沖で花東地域の空港を標的とした演習が行われていた。従来、H-6Kの標準兵装は長剣20巡航ミサイル2発(実戦時は最大6発搭載)で、射程は2000キロに達するものの、亜音速・低空で侵入するため、国軍のパトリオットや天弓シリーズ防空ミサイルでの迎撃は十分可能であった。飽和攻撃でない限り、脅威は限定的だった。
だが、H-6K/Nに鷹撃21(KD21)極超音速空中発射ミサイルが搭載された場合、国軍の防空体制は著しい負荷に直面することとなる。鷹撃21(YJ-21)は2022年4月に初公開され、陸上発射型の東風21Dをベースにしたとされ、弾頭は二重円錐体とガス舵を組み合わせた構造で、艦船および地上目標の両方に対応可能な極超音速兵器であり、射程は1000~1500キロとされる。
2022年末の珠海航空ショーでは、H-6Kに搭載された空中発射型の鷹撃21(YJ-21)がさらに公開された。艦載型と比べてブースターは短縮されているが、射程はむしろ長いとされ、英『ジェーンズ防衛週刊』は、H-6K搭載型の鷹撃21(YJ-21)は重量約2トン、射程2000キロに達する可能性があると分析した。
国防部は2020年に、H-6K爆撃機が「鷹撃12(YJ-12)」超音速対艦ミサイルを搭載する様子を公開した。(資料写真、国防部提供)
国軍が鷹撃21(YJ-21)の脅威を評価 深刻から極めて深刻まで
国際軍事情報界では、鷹撃21(YJ-21)は極超音速兵器と認識されており、最も神秘的かつ致命的な解放軍兵器の一つとされるが、その飛行速度については評価が分かれている。2023年2月、解放軍戦略支援部隊の公式ウェイボーにて、鷹撃21(YJ-21)の一部性能が公表され、巡航速度はマッハ6、終末段階ではマッハ10に達するとされた。これは終末段階で秒速3400メートルの速度で標的に突入することを意味し、各国の現役防空ミサイルでは迎撃が極めて困難とされる。さらに2024年11月の解放軍プロモーション映像では、H-6Kが鷹撃21(YJ-21)を2発連続で発射する場面が登場し、この空中発射型極超音速兵器の実戦配備が確認された。
鷹撃21(YJ-21)が台海演習に登場したことは、台湾の防空体制への新たな圧力として評価されているが、軍事界の見解は分かれている。親中国国民党系の軍事評論家である元海軍艦長・呂禮詩氏は、空中発射型の鷹撃21(YJ-21)は長射程で防衛圏外から攻撃可能であり、台湾には対抗手段がないと主張する。一方、政府寄りの国防安全研究院の研究員である許智翔氏は、鷹撃21(YJ-21)の演習参加は「世界の終わりではない」とし、H-6Kは脆弱で戦場での生存性が低く、またウクライナ戦場ではパトリオットミサイルがロシアの「キンジャール」極超音速ミサイルの迎撃に成功した実例もあるため、パトリオットPAC-3を保有する台湾が鷹撃21(YJ-21)に対処できるとの見方を示した。
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国防安全研究院の戦略資源研究所長・蘇紫雲氏も、H-6に鷹撃21(YJ-21)を搭載した映像は「中国国内のネットユーザーを慰めるためのものだ」と述べ、キンジャールと同様に鷹撃21(YJ-21)も過大評価されていると指摘した。ただし、実際に国軍の作戦部門が鷹撃21(YJ-21)の脅威を評価した結果、そのレベルは「深刻から極めて深刻」の間に分類されており、特にH-6K/Nが空中発射型のKD-21を搭載することによる脅威に対しては、パトリオットや天弓防空システムによる対応が難しい局面もあるとされる。
国軍の作戦部門は、鷹撃21(YJ-21)の脅威を「深刻から極めて深刻なレベル」と評価しており、特にH-6K/Nが搭載する空中発射型KD21に対しては、現行のパトリオットおよび天弓防空システムでは対応が難しいとされている。写真はパトリオットミサイル。(軍聞社より)
極超音速兵器への対抗は容易でない キンジャール迎撃にも失敗例
ある軍事情報担当者は、ウクライナがパトリオット防空システムでキンジャールを迎撃した事例をもって鷹撃21(YJ-21)の脅威を軽視するのは楽観的すぎると述べた。ロシア軍のキンジャールは、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を空中発射型に改修したものであり、多くの軍事専門家は「初級の極超音速兵器」と評価している。
同関係者によれば、米欧の分析では、キンジャールは最大速度マッハ5超とされているが、終末段階の速度はマッハ3〜4にとどまり、飛行軌道も単調であるため、先進防空システムによる追跡・迎撃は比較的容易だという。また、ミグ31戦闘機から発射されるキンジャールの保有数は限られており、在庫も百発に満たないとされるため、実戦使用も限定的である。だが、それでも実際にパトリオットとキンジャールの交戦で迎撃に失敗し、損傷を受けた例もあることから、極超音速兵器への対応は決して容易な任務ではないと示している。
ウクライナ軍がパトリオット防空システムでロシア軍のキンジャール極超音速ミサイルを迎撃することは、常に成功しているわけではない。写真は、ロシア軍のMiG-31K戦闘機がキンジャール超音速巡航ミサイルを搭載する様子。(資料写真、AP通信)
解放軍の「組み合わせ打撃」 飽和攻撃に対し国軍の迎撃はほぼ不可能
国軍の評価によれば、鷹撃21(YJ-21)はキンジャールよりも速度が高く、滑空による変則的な弾道を持つ弾頭はさらに迎撃が困難である。H-6K爆撃機の速度は遅いが、鷹撃21(YJ-21)の射程は1000キロ以上あるため、実戦においては台湾から数百キロ離れた内陸上空から発射することが可能であり、台湾の重要地上目標を遠距離から精密に攻撃できる。これにより、台湾の戦闘機や防空ミサイルの射程では、爆撃機自体に対する反撃は難しく、国軍の防空体制は受け身に回る不利な状況に置かれることになる。
軍関係者は、台湾がパトリオット、天弓シリーズの防空ミサイルに加え、艦載のスタンダードミサイル(SM-2)、地上発射型の剣二型ミサイルなど、短・中・長距離の防空兵器によって密度の高い防空網を構築しており、迎撃能力は世界でも上位に位置すると指摘する。理論的には複数の極超音速ミサイルを同時追跡・迎撃する能力もあるため、鷹撃21(YJ-21)単体の脅威は過度に懸念すべきではないとする見方もある。
しかし問題は、解放軍が台湾や米軍に対して構築している「精密打撃・接近阻止」戦略が、特定の兵器一種ではなく、全体としての「組み合わせ打撃」である点にある。解放軍はすでに東風15B、東風16といった中・短距離弾道ミサイル、長剣シリーズの巡航ミサイルなども多数保有しており、これらを連続的に用いた飽和攻撃を行えば、国軍がすべてを迎撃することは現実的に不可能とされる。
中国軍の東風15B、東風16中短距離弾道ミサイル(写真)および長剣シリーズの巡航ミサイルが、連続して飽和攻撃を行えば、台湾に対する脅威は極めて大きい。(資料写真、AP通信)
「速攻こそ最善」戦争初期の発射拠点攻撃が勝敗を分ける
さらに、ここ数年で解放軍は福建省にPHL-191長距離誘導ロケット砲を配備しており、台湾西部の重要地域に対し面制圧攻撃を行う能力を持つ。また、東風17といった極超音速弾道ミサイルも配備されており、指揮中枢やミサイル基地など高価値目標への精密攻撃に使用されると予想される。加えて、解放軍の戦闘機や無人機が搭載する空対地兵器、そして新たに配備された空中・艦載型の鷹撃21(YJ-21)によって、台湾は開戦初期において、少なくとも東風17、鷹撃21(YJ-21)の二種の極超音速兵器に対処を迫られる。
国軍関係者は、「どれほど先進的で密な防空システムであっても、常に受け身で防ぎ続けることは困難だ」と認めており、真に受動的状況を打破するには「主動出撃」こそが最善の道だと語る。現時点で国軍は「擎天」極超音速巡航ミサイルを保有しており、今後、数量を増やし、米軍の支援によって発射地点の事前情報を取得できれば、戦争初期段階で解放軍のミサイル発射拠点に対し「源頭打撃」を行うことが可能となり、戦時の空防圧力を大幅に緩和することができると展望している。