国会は11日、首相指名選挙を実施し、30年ぶりに決選投票に突入した。最終的に、自民党総裁の石破茂が決選投票で勝利し、再び首相に当選した。東京大学東洋文化研究所特任研究員の林泉忠は『風伝メディア』のインタビューで、自民党は石破茂を再び首相に就任させることに成功したものの、少数与党として「前途多難」であり、今後の政権運営は課題が山積みだと指摘した。石破茂が直面する最優先の課題は、政権の安定化と政権維持期間の延長であり、特に「弱い与党」という状況下で、いかに効果的な政治運営を行うかが重要な課題となる。
林泉忠の研究は、アイデンティティと地政学的問題を包括し、中央研究院、ハーバード大学など多くの国際学術機関で職務を歴任し、琉球大学、台湾大学などで国際関係を教授し、東アジアの政治と歴史について深い見識を持っている。また、東アジアの国際関係研究、特に台湾、琉球、日中関係などの問題に精通しており、関連分野の研究における重鎮である。
少数与党の事例は少なく、石破茂の信頼度は低迷
林泉忠は、日本における少数与党の例は多くないと振り返った。1994年に新生党の羽田孜が同様の状況下で短期間政権を担当し、すぐに退陣したという歴史的事例も、石破茂にさらなる圧力をかけている。来年7月の参議院選挙が次なる試練となり、半数改選のため影響は比較的限定的だが、現時点から半年しかなく、与党がこれほど短期間で立て直しを図り、国民の信頼を回復することは困難を極める。石破茂内閣の発足後の支持率はわずか3割程度で、国民の信頼度の低迷を示している。このような低支持率の中、石破茂が「前途多難」の窮地を脱し、自民党の与党基盤を再構築できるかが大きな課題となる。
林泉忠教授は、石破茂が直面する政権運営の課題は、前首相の岸田文雄が任期中後期に直面した状況と類似していると分析した。すなわち、支持率の継続的な低迷と各方面からの圧力である。石破茂は衆議院選挙で「大逆転」に直面したが、その主な理由は国民の自民党に対する信頼喪失にある。政府が先に「政党資金改正法」を推進したものの、国民の支持を得られず、今回の選挙の敗北につながった。石破茂が支持を取り戻すには、野党の要求により大きな譲歩を迫られる可能性があるが、そのような措置を講じても国民の信頼を本当に回復できるかは不確実で、「石破茂が譲歩しても、国民の好感度は上昇するだろうか?それは非常に困難なことである」。
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予算案が石破茂の大きな試練に 安倍は靖国神社参拝で論争を冷却
さらに林泉忠は、来年3月の予算案が石破茂内閣にとって重大な試練になると指摘した。野党との効果的な協議と妥協が必要で、そうでなければ予算案の円滑な通過が困難となり、政府の機能停止につながる可能性がある。新年を迎えるにあたり、この財政問題は石破茂が年初に緊急に対応すべき課題となる。過去の経験によれば、石破茂が任期中に論争を呼ぶ政治的措置を実施する場合、年末までの行動を検討する可能性がある。2013年に同様の状況があり、当時の安倍晋三首相は年末に靖国神社を参拝し、年末年始の時期を利用して論争を急速に冷却させた。
林泉忠は、石破茂が大きな改革を試みる場合、世論の厳しい試練に直面すると述べた。現在の弱い立場では、改革の実施はさらに困難となる。石破茂政権は来年7月の参議院選挙までに「無為」の状態に陥る可能性があり、改革と政策推進の余地は非常に限られる。また、国民民主党の首相指名選挙における態度が注目を集めた。同党は「キーマイノリティ」として立憲民主党や自民党への明確な支持を表明せず、この中立的な立場が実質的に自民党を間接的に助け、石破茂の首相再任を可能にした。国民民主党は自民党との合意を公にしていないが、その態度を明確にしない戦略は、その微妙な影響力を示している。
少数与党の政局は脆弱 石破茂は「妥協と引き換えに安定」を迫られる可能性
林泉忠は、石破茂が首相指名選挙を乗り越えたものの、少数与党の首相として政局は依然として脆弱であり、特に安定した連立がない状況下では、石破茂の政権運営は国民民主党などの野党との「部分的な協力」に依存する必要があると述べた。このような協力は長期的に安定したものではない可能性があり、継続的な協議と妥協が必要となる。国民民主党が最近提案した「103万円」の最低免税額政策は実施上の課題があり、この政策は税収の減少を伴うため、将来的に国民民主党の支持を得るためには、自民党は税収面で妥協を迫られる可能性がある。
彼は、石破茂政権が今後政策を推進したい場合、特に来年3月の予算案で国民民主党の支持を得るためには、財政の穴埋めをどうするか、また国会でどのように調整するかを考慮しなければならないと説明した。「103万円」の免税額は技術的な財政問題のように見えるが、野党との合意が得られなければ、政府は効果的な政策推進が困難になる可能性がある。彼は「石破茂政権が財政政策で妥協できなければ、今後の予算案推進において国民民主党の支持を得ることは困難に直面するだろう」と強調した。林泉忠は、石破茂政権が政権運営の安定のために、今後妥協案を模索する必要があると予測した。
国民民主党がキーマイノリティに 「部分的な協力」が選択肢に
林泉忠の分析によると、石破茂は首相指名を獲得し再選を果たしたものの、自民党が国会で少数与党であるため、その政権運営は脆弱であり、特に安定した連立がない状況にある。国民民主党は「キーマイノリティ」として選挙で中立を保ち、この立場は石破茂の政権運営に微妙な影響を及ぼしているが、国民民主党が長期的に自民党を支持することはなく、両党の「部分的な協力」が可能な選択肢となっている。国民民主党が連立政権に参加する場合、必然的に閣僚ポストなどの権力配分を要求し、1~2の大臣ポストや副大臣などの重要ポストを獲得する可能性がある。
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さらに林泉忠は、国民民主党の28議席のうち11議席が小選挙区から選出されており、二大政党が選挙区を独占する状況下ではこれは容易なことではないと分析した。国民民主党は次回選挙での競合を避けるなど、これらの小選挙区での自民党の協力を求めることで、議席の安定性を確保しようとする。国民民主党が自民党と協力すれば党内分裂を引き起こす可能性があり、支持者の多くが自民党への対立を求めて同党を選択しているためである。有権者の要求に応えるため、国民民主党は「103万円」の最低免税額問題など、政策面で自民党と駆け引きを行い、選挙民に交渉の成果を示す必要があり、それによって支持基盤を維持し、党内の亀裂を避け、将来の発展を確保する。
自民党「前途多難」:政権運営の困難は根本的に改善困難
林泉忠は前述の通り、石破茂が少数与党の首相として「前途多難」な状況に直面していると指摘した。自民党が衆議院で過半数を確保できていないため、来年の参議院選挙で勝利しても政権運営の困難は根本的に改善できず、次回の衆議院選挙まで転機は訪れない可能性がある。来年7月の参議院選挙でさらに敗北し、選挙前の支持率が3割以下となれば、首相職は深刻な課題に直面し、自民党内の反対勢力が結集して交代を推進する可能性がある。特に支持率が低迷する状況下では、党指導部が選挙戦を率いることができないと判断し、小泉進次郎や高市早苗が指導的地位に挑戦する可能性がある。
林泉忠はさらに、石破茂が参議院選挙で幸運にも勝利し、議席をわずかに増やしたとしても、支持率を3割以上に維持する必要があり、それによって政権を安定させることができると指摘した。しかし、支持率が低下し議席が減少すれば、石破茂は交代の圧力に直面せざるを得ず、来年7月の参議院選挙を乗り切れるか、さらには1年間持ちこたえられるかは大きな疑問である。同時に、石破茂は国際関係、特に日米関係における潜在的な変数という課題に直面している。彼は、石破茂とトランプには接点がなく、トランプが再び大統領に就任することになるが、トランプは安倍晋三と密接な個人的関係を維持し、安倍に対して相当な信頼を寄せていたと指摘した。
日米関係に変数? 石破茂は「トランプ・安倍の交流」を継続困難か
林泉忠は例として、安倍晋三がトランプの初期大統領就任時に日本の「対米架け橋」を務め、頻繁な交流、個人的関係、柔軟な対応を通じて、トランプの信頼を勝ち得たことを挙げた。安倍は何度もアメリカを訪れてトランプと会談し、積極的に「ゴルフ外交」に参加し、首相としての待遇にこだわらないほどで、この柔軟かつ形式にこだわらない姿勢により、トランプは安倍に対して高い好感と信頼を持つようになった。石破茂は安倍が築いたこの特別な関係を容易には継続できず、過去の安倍とトランプの個人的友情が日米関係の安定した基盤をもたらしたのに対し、石破茂とアメリカの指導者との交流はより多くの課題に直面することになる。
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林泉忠は、この信頼の欠如が石破茂の対米外交に「先天的な欠陥」をもたらし、日米関係の友好と安定を求める際により大きな障害に直面すると考えている。トランプの外交思考は一対一の交渉を好み、各国指導者との直接対話で問題を解決できると考えているのに対し、石破茂が強調する「アジア版NATO」の概念は集団防衛に焦点を当てている。トランプは多国間協力の枠組みを好まず、石破茂の集団防衛構想とは相容れない。反対に、現職のバイデン政権は民主主義国家との同盟関係を構築し、中国とロシアからの挑戦に共同で対応することをより支持しており、そのため石破茂の「アジア版NATO」構想はバイデン政権の政策方針とより一致している。
トランプ再選 石破茂の集団防衛政策は推進困難か
林泉忠は、トランプの再選により、石破茂の集団防衛政策が推進困難に直面し、日本の安全保障戦略に深い影響を及ぼす可能性があると述べた。石破茂は対米交渉において、まず在日米軍費用の増額問題に直面することになる。過去、トランプ政権は同盟国の費用負担比率の引き上げを何度も要求しており、日本はトランプが再選されなかったことで、一時的に巨額の支出圧力を免れた。しかし、将来アメリカが日本に駐軍費用の倍増を要求した場合、これは石破茂政権に深刻な財政圧力をもたらし、特に日本経済が完全に回復していない状況下では、内政に間接的な影響を及ぼす可能性がある。
林泉忠は、日米同盟へのこれらの圧力により、石破茂は内政と外交の両立が困難になる可能性があると考えている。さらに、安倍在任中に「インド太平洋戦略」における四カ国安全保障対話メカニズム、すなわち日本、アメリカ、インド、オーストラリア間の多国間協力を成功裏に促進したと指摘した。このメカニズムは当初、外相級会談を中心としていたが、バイデン就任後は首脳級に格上げされた。このような多国間安全保障メカニズムはバイデン政権下で強化されたが、将来アメリカの政策が一国主義に傾けば、このような集団防衛協力は不安定になる可能性があり、石破茂の「アジア版NATO」推進の見通しもより不透明になるだろう。
「安全保障対話」が三者不在に?日本の地域安全保障メカニズムに潜む懸念
林泉忠は、日本の地域安全保障メカニズムにおける懸念、特に「四カ国安全保障対話」(Quad)の継続性について詳しく説明した。Quadというメカニズムは日本が最初に提案し、その後アメリカが引き継いで主導し、インド太平洋戦略の重要な柱となっている。しかし、トランプが政界に復帰した場合、Quad会議に自ら出席しない可能性があり、さらには外相級に格下げする可能性もあり、これは日本に懸念を抱かせることになる。日本はこの多国間安全保障枠組みの安定性を非常に重視しており、特に増大する地政学的圧力に対応するためのアメリカの継続的な支持を期待している。
Quadメカニズムに加えて、林泉忠は日米韓三カ国関係の継続性も重要な鍵であると指摘した。この関係はバイデン就任以来徐々に改善され、それ以前は日韓関係が11年間悪化していた。バイデン政権は日韓関係の修復に努め、アメリカを主導とする日米韓安全保障枠組みを構築した。しかし、トランプが再び就任すれば、日韓米の緊密な協力は後退する可能性があり、さらに東北アジアの安定性に影響を与える可能性がある。日米とフィリピンの安全保障協力も重要な意味を持ち、特に東南アジア地域において、これにより日本は南シナ海、台湾海峡、東シナ海という三つの重要な地域で安全保障上の利益を維持することができる。
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トランプとの関係構築 石破茂が速やかに祝意を表明
林泉忠は、「日本から見れば、中国はこれらの地域で挑発を続け、現状を変更しようと絶えず試みており、日本に大きな圧力をもたらしている」と述べた。そのため、これらの共同対応メカニズムは日本が地域の現状を維持する上で極めて重要である。日本は特にトランプ就任後、これらの共同対応メカニズムに対して後退的な態度を示し、アメリカおよび地域同盟国との多国間安全保障協力を弱体化させることを懸念している。もしアメリカがこれらのメカニズムから撤退するか弱体化させれば、日本の国家安全保障に深刻な課題をもたらし、中国の東アジアと南シナ海における影響力をさらに拡大させることになる。同時に、石破茂は現段階でトランプとの関係構築にも課題を抱えており、特に現在トランプは正式な大統領ではないため、交流には多くの制限が存在する。
林泉忠は、トランプの外交における安倍への信頼は、安倍が適時に対応し、さらには身分にこだわらずトランプとゴルフをするなど、柔軟かつ迅速な対応の姿勢を示したことに基づいており、これによってトランプは安倍に対して良い印象を持つようになったと指摘した。石破茂が同様の効果を達成することは容易ではなく、特にトランプ就任前には、石破茂はトランプといかなる実質的な合意も達成できない。石破茂がトランプとの交流で成果を得たい場合、3段階の戦略を採用することができる。まず電話連絡であり、報道によれば石破茂はすでにこのステップを迅速に完了している。次に、石破茂は南米でのAPECとG20サミット後、ニューヨークを経由して帰国する機会を利用してトランプと会談することができる。
日米関係の深化を指摘 林泉忠:石破茂は速やかに訪米を調整すべき
林泉忠は、実現すれば、これは安倍が当時トランプを訪問した戦略を踏襲することになると述べた。最後に、トランプが1月20日に正式に大統領に就任した後、石破茂は速やかに訪米を調整し、正式な日米首脳会談を行うべきである。石破茂がこれら三つのステップを順調に完了できれば、トランプとの個人的な信頼関係を初期段階で構築し、将来の実質的な問題に関する議論の基礎を築くことができる。しかし、石破茂がこれらの行動を適時に開始できなければ、日米関係における彼の努力は効果が半減し、日本の将来の外交方針と安全保障政策に不確実性をもたらすことになる。
林泉忠は、石破茂が内政が混乱している状況下で、外交でブレークスルーを達成して不足を補うことができれば、それは好機となるだろうと指摘した。しかし、彼はこれが容易なことではないと強調し、特に日米関係の課題に直面する際にそうであると述べた。教授の分析によると、日米関係は現在安定を保っているかもしれないが、石破茂はトランプからの様々な外交・軍事要求に直面することになり、在日米軍費用の増額を含め、これは財政が逼迫している日本政府にとって大きな負担となるだろう。日中関係について述べる際、林教授は、日本の対中政策は大幅な変更が困難であると指摘した。
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米中関係が日中関係の発展を左右 トランプは台湾を外交カードとして使用
林泉忠は、日中関係の発展は相当程度米中関係に影響されると述べ、例えばバイデンが4年の大統領任期中に中国を訪問していないことがその一例であると指摘した。トランプ就任後は、「先礼後兵」の戦略を採用したとしても、米中関係の全体的な発展傾向は現在よりもさらに緊張し、さらなる悪化に向かうと予測される。トランプは対中関税の引き上げなどの手段で圧力をかけ、中国経済により大きな課題をもたらす可能性がある。トランプは選挙戦中に台湾に関して多くの否定的な発言をしたものの、台湾問題が北京にとって重要であることを深く理解しており、引き続き「台湾カード」を切り、台湾問題を中国との交渉の切り札として利用する可能性がある。
台米関係について、林泉忠は2016年にトランプが当時の蔡英文総統からの電話を最初に受けたことに触れ、今回大統領職に復帰した場合、台湾問題を利用して中国と駆け引きを行う可能性があると指摘した。トランプは台湾問題に関する過去の戦略を継続する可能性があり、例えば台湾指導者からの電話やビデオ通話を受けることを検討したり、2018年のトランプ政権下で可決された「台湾旅行法」に基づき、賴清德総統のワシントン訪問を許可したりする可能性がある。これらの行動はすべて中国の怒りを買い、台湾にさらなる圧力をもたらす可能性がある。トランプ就任後の国家安全保障チームメンバーは、台米関係の方向性に重要な影響を与えることになる。過去にトランプは台湾問題の強力な支持者ではなかったものの、その政策は依然として台湾に有利なものとみなされていた。
林泉忠はまた、しかしトランプの政策志向と新たに任命される国家安全保障チームメンバーの下では、台湾はより大きな軍事的・経済的圧力に直面する可能性があり、例えばより高額の軍事装備購入要求などが予想されることだと述べた。最後に、林泉忠は、トランプ就任後、すべての国にとって新たな課題となると総括した。台湾、日本、さらには世界全体が将来の米中関係に直面する際、この不安定な環境に慎重に対応し、状況に応じて戦略を調整し、場合によってはソフトランディングを考慮する必要があり、変動する情勢の中で比較的安定した外交方針を見出すことが求められる。