米商務省が半導体への関税導入に向けた意見募集を開始したことを受け、TSMC(台湾積体電路製造)を含む複数のテック企業が抗議の書簡を提出した。米テックメディアによれば、TSMCの書簡は特に強い内容だったとされる。
同社は文書の中で、チップに関税がかけられれば、米国顧客の需要が減り、年次収益に深刻な影響が出ると警告。その結果として、アリゾナ州における1650億ドル(約25兆5千億円)の投資計画の進行が困難になり、最悪の場合は中止もあり得ると伝えている。
同社は「アリゾナ州での投資を円滑に進めるには、TSMCおよび米国内で製造拠点を設ける他企業に対して、関税や輸入規制の免除が必要」と主張。関税による追加コストを自社で負担するつもりはなく、米国の顧客にも転嫁しない方針だという。
The U.S. Commerce Department is asking for comments about its planned tariffs on chip imports.https://t.co/wo9CLwIBug
— Tom's Hardware (@tomshardware)May 22, 2025
TSMCはこれまで、米政府との合意に基づき65億ドル(約1兆円超)を投じてアリゾナ州に3つの半導体ウエハー工場を建設すると発表。うち1つはすでに稼働しているが、残り2つはまだ建設途中だ。さらに追加で1,000億ドル(約15兆5,000億円)を投入し、さらに3工場を建てる意向も表明していた。しかし、もし米国が海外製チップへの関税方針を変えない場合、これらの拡張計画も白紙に戻る可能性がある。
TSMCはアップル、AMD、NVIDIA、インテルといった世界的企業にチップを供給しており、世界最大のウエハー製造企業としての地位を確立している。アリゾナの工場ではアップルのチップがすでに大量生産されており、今後は累計190億個以上のチップを同地で製造する見通しだ。
ただし、TSMCによればアリゾナ工場の生産能力はすでに2027年末までフル稼働が見込まれており、現在の規模では世界的な需要を賄うには不十分。引き続き台湾本国の生産ラインの支援が不可欠だとしている。商務省に送られた書簡では「関税はチップや関連部品の需要を減らす」と明言。米国外で製造された半導体への関税導入に明確に反対する姿勢を示した。

この意見には、デル(Dell)やHPといった米企業も同調している。両社は、「米国内にはまだ十分な製造インフラが整っておらず、今すぐに大規模な供給体制を構築することは困難。企業は依然として海外からの輸入に頼らざるを得ない」として、関税が企業の利益や研究開発力に悪影響を及ぼすと懸念している。
一方、財政難に直面している米インテルは、異なる立場をとっている。インテルは自社の書簡で「米国製半導体と関連製品の保護」を求め、米国がリーダーシップを維持するには国産チップを優遇すべきと主張。

さらに、インテルはオランダのASMLなど海外の装置メーカーを含むサプライチェーンの重要性も認めつつ、そうしたパートナー企業にも関税免除を適用すべきだとしている。
ただし、インテル自身も「短期的にサプライチェーン全体を完全に米国内に移行するのは現実的ではない」とし、一定の柔軟性が必要だという見解を示している。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp (関連記事: TSMCアリゾナ工場の成否は? 台湾大教授「カギは米国人エンジニアの確保」 台湾からの引き抜きには限界も | 関連記事をもっと読む )