米国のドナルド・トランプ大統領は9日、いわゆる「解放日」関税の大部分を突然撤回した。実はこの日が「解放日」関税の全面実施初日でもあった。この決定により米国株は急騰。英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』は、今回の政策の方向転換は市場、ウォール街、そして議会からの圧力によって、トランプ氏が妥協を余儀なくされたことを示していると分析した。
トランプ氏が4月2日に強気で打ち出した多方面にわたる貿易戦争は、わずか数日で経済的、財政的、政治的に持続不可能であることが露呈した。トランプ氏は9日、突如として中国以外の貿易相手国への「対等関税」の徴収を停止すると発表(ただし10%の基礎関税は維持)し、90日間の猶予期間を設けることで、市場に一時的な安堵感をもたらすと同時に、今後の貿易交渉に向けた余地を確保した。
『フィナンシャル・タイムズ』は、この政策転換はトランプ氏にとって明らかに大きな挫折であると指摘する。トランプ氏はこれまで、関税政策によってアメリカを「解放」し、世界の不公正な貿易体制を打破すると主張してきた。そして、自身こそがその構造を再編する勇気を持つ唯一の米大統領であると語っていた。しかし、9日の突然の譲歩は、トランプ氏にとって最も象徴的な政治的公約すら、投資家、議会、そして大口献金者たちの反発から逃れることはできなかったことを示している。

トランプ氏は、ここ数日間、関税停止を検討していたと述べ、9日朝に最終決定を下したと語った。彼は、市場の恐怖感が自身の態度を変えた最大の要因であると率直に認めた。「人々は少し怯えていた。私は皆が少し過剰に反応していたと思う。感情的になりすぎていた」と語り、関税の一時停止は「心からの判断」であったと強調した。
資産運用会社SLCの責任者であるデック・マラキー氏は『フィナンシャル・タイムズ』の取材に対し、「今回の出来事は、トランプ氏がいまだに市場を注視しており、自分が行き過ぎたことに気付いたことを示している。市場の抑止力としては良い兆候だ」と述べた。とはいえ、米国株式市場は、トランプ氏が一時的に強硬姿勢を取ったことで激しい売り圧力にさらされていた。トランプ氏はフロリダ州でゴルフを楽しんだ週末を過ごした後、動揺する貿易相手国に対し極めて高い交渉条件を突き付けた。
しかし、圧力が次第に高まる中で、共和党の盟友たちは公然とトランプ氏の貿易政策を批判し始め、民主党はこの機会を逃さず、貿易戦争をトランプ批判の突破口として利用し、国民の利益を損なう可能性があると糾弾した。また、投資家や大口献金者(イーロン・マスクを含む)からの反発も日に日に強まっていた。
トランプ氏は7日から戦略を見直し、日本や韓国との貿易交渉を開始し、ウォール街から最も信頼を得ている人物とされるスコット・ベッセント財務長官を起用して貿易相手国との交渉を主導させた。 (関連記事: トランプ氏、相互関税を90日延期も市場は警戒継続 エコノミスト誌が「3つの懸念」を指摘 | 関連記事をもっと読む )

トランプ氏の貿易政策顧問であり、関税強硬派として知られるピーター・ナバロ氏は、その影響力を一部失った模様だ。ナバロ氏は以前『フィナンシャル・タイムズ』への寄稿で、「トランプ氏は交渉しているのではなく、不公正な体制に直接圧力をかけている」と主張していた。一方、ベッセント氏は、「政府は本格的な交渉を試みている」と述べ、トランプ氏が関税の一時停止を検討する際にベッセント氏や他の顧問とは話し合っていたものの、ナバロ氏には言及していなかったことが明らかになった。