2026年サッカー・ワールドカップ(W杯)が開幕し、ピッチ上のスター選手の攻防だけでなく、ユニフォームを支えるサプライチェーンにも注目が集まっている。かつてペットボトル再生糸で国際スポーツブランドの供給網に食い込んだ台湾の繊維産業は、今や「服から服へ(Textile-to-Textile、T2T)」の循環へと歩みを進めている。
台湾の化学繊維大手、新光合成繊維(新繊)が長年取り組んできたT2T再生繊維技術は今回、米スポーツ用品大手ナイキ(Nike、NYSE:NKE)がスポンサーを務める代表チーム向けユニフォームのサプライチェーンに加わった。台湾の環境配慮型機能性繊維は、「ペットボトルから服へ」から「服から服へ」という新たな段階に入りつつある。
今大会でナイキは、ブラジル、フランス、イングランド、オランダ、クロアチア、米国、カナダ、オーストラリア、韓国、ノルウェー、トルコ、ウルグアイの計12カ国の代表チームをサポートしている。キリアン・エムバペ、ビニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガム、ソン・フンミンらがピッチを駆け抜ける一方、そのユニフォームの背後では、サステナブル素材、機能性生地、低炭素サプライチェーンをめぐる国際ブランドの戦略が動いている。
新繊が提供した資料によると、同社のT2T再生繊維技術は、関連するサステナブル・ユニフォームのサプライチェーンに組み込まれている。台湾繊維産業にとって、W杯は競技場の外でも技術力を示す重要な舞台となっている。
台湾繊維産業、W杯ユニフォームの「隠れた主役」 台湾の繊維サプライチェーンは長年、ナイキや独アディダス(adidas、FWB:ADS)など国際スポーツブランドに対し、機能性素材や環境配慮型糸を供給してきた。遠東新世紀(遠東新)、新繊、南亜塑膠工業(南亜)、力麗企業(力麗)などの大手企業は、それぞれ異なる形で世界のスポーツウェア素材供給網に関わっている。
過去のW杯でも、台湾企業はペットボトル再生糸、機能性生地、吸湿速乾、軽量化素材などを武器に、各国代表ユニフォームの背後を支えてきた。表舞台に立つことは少ないが、国際スポーツブランドの製品づくりに欠かせない重要なサプライヤーとしての地位を築いている。
同社はこれまでに、W杯関連の受注が第1四半期末から段階的に出荷ピークに入り、第2四半期の受注・出荷が強まっていると説明している。受注の見通しは現在、第4四半期初めまで伸びているという。聚陽実業(聚陽)もW杯関連商品の出荷が第1四半期から徐々に増え、第2四半期が主な出荷期となった。大会前のブランド顧客向け出荷が一巡した後は、秋冬向け新製品が下半期の業績を支える見込みだ。
遠東新も、今大会で本大会に出場する12カ国の代表チームが同社の機能性生地を使ったユニフォームを採用していると明らかにしている。環境配慮型の機能性素材は、国際ブランドにとって重要な選択肢になっている。
W杯は単なるスポーツイベントではなく、世界のスポーツブランドが素材技術やサプライチェーンの強靱性、サステナビリティへの取り組みを示す場でもある。台湾繊維産業が蓄積してきた環境配慮型ユニフォームの実績は、今回の大会を通じて改めて注目されている。
ペットボトル再生糸から次の段階へ 過去15年、ペットボトル再生糸は世界のスポーツブランドにとって最も身近なサステナブル素材の一つだった。回収したペットボトルを洗浄し、ペレット化して糸にし、スポーツウェアへと再加工する仕組みによって、台湾繊維産業は機能性生地のサプライチェーンで優位性を築いてきた。
この仕組みは、台湾企業が国際ブランドのサステナブル調達にいち早く対応する基盤となった。「環境配慮型ユニフォーム」は、台湾繊維産業が大規模国際大会で存在感を示す象徴的な実績でもあった。
ただし、ペットボトル再生糸は循環型経済の最終形ではない。近年、欧州連合(EU)はペットボトルを衣料品へ転用するのではなく、優先的に「ボトルからボトルへ(Bottle-to-Bottle)」の循環へ戻す考え方を強めている。一方で、飲料ブランドも自社のペットボトル回収に力を入れており、再生ペットボトル原料の確保は競争が激しくなっている。
繊維産業にとってこれは、これまで回収ペットボトルを環境配慮型素材の主な原料としてきたモデルが、政策、原料調達、ブランド基準の変化に同時に直面していることを意味する。
そこで、国際スポーツブランドとサプライチェーンは次の課題に向き合い始めている。ペットボトルがペットボトルに戻るべきなら、服は服に戻せるのか。T2T技術が注目される背景には、この問いがある。
新繊が注力するT2T、「服から服へ」の循環 ペットボトル再生糸が「ペットボトルから服へ」であるのに対し、T2Tの考え方は「服から服へ」だ。最大の違いは原料の出どころにある。ペットボトル再生糸は回収された飲料用ボトルを使うが、T2Tは廃棄衣料、生産時の端材、古い繊維製品などを原料にする。
T2Tでは、化学リサイクル技術を使い、ポリエステル繊維を分子レベルまで分解する。その後、再び高品質なポリエステル原料として重合し、新たなスポーツウェアを製造する。
台湾繊維産業にとっても、環境配慮型素材をめぐる競争は、単なるリサイクル原料の調達から、回収システムと再生品質の能力を問う段階へ移っている。
今回、新繊がT2T再生繊維を通じてナイキの代表チーム向けユニフォーム供給網に加わったことは、国際ブランドのサステナブル素材戦略における台湾繊維産業の役割が広がっていることを示している。これまで台湾企業は、機能性生地、再生糸、アパレル製造能力でブランド需要を支えてきた。今後は、製品設計の段階から将来の回収と再製造を見据えた循環設計にも関わることが求められる。
台湾の繊維サプライチェーンは長年、ナイキやアディダス(adidas、FWB:ADS)など国際スポーツブランドに対し、機能性素材や環境配慮型糸を供給してきた。遠東新世紀(遠東新)、新光合成繊維(新繊)、南亜塑膠工業(南亜)、力麗企業(力麗)などの大手企業は、それぞれ異なる形で世界のスポーツウェア素材供給網に関わっている。(写真/新繊提供)
Neolastが補う課題、スポーツウェア回収の難所は弾性繊維 本当の意味で「服から服へ」の循環を実現するには、ポリエステル繊維だけでは不十分だ。繊維産業にとって長年の難題の一つが、スポーツウェアに多く使われる弾性繊維である。
多くのスポーツウェアには、約5〜15%の弾性繊維が含まれている。比率としては高くないように見えるが、衣類を回収する際には、分解や分離を難しくし、再利用価値を下げる要因となる。リサイクル可能とうたわれる衣類でも、実際には「服から服へ」の循環が難しい理由の一つがここにある。
新繊が現在取り組むもう一つの材料が、次世代弾性繊維「Neolast」だ。Neolastは米化学大手セラニーズ(Celanese、NYSE:CE)が開発した素材で、リサイクル可能なエラストエステル(Elastoester)ポリマーを使って製造される。
Neolastは、スパンデックスに近い伸縮性、耐久性、吸湿速乾性を備える一方、無溶剤の溶融プロセスで生産できる。従来の弾性繊維の製造工程で使われる化学物質を減らせるほか、将来の循環型リサイクルとの相性も高められる。
スポーツウェアにとってNeolastの意義は、T2Tのクローズドループにおける重要な課題を補うことにある。ユニフォームの主体がポリエステル繊維で、弾性繊維も回収・再生の仕組みに組み込めれば、素材設計の段階から「一着の服を回収し、再び別の服にする」循環へ近づくことができる。
単一素材設計、リサイクル可能な弾性繊維、T2Tの化学リサイクルは、国際ブランドが次世代のサステナブル・スポーツウェアを進める上で、重要性を増している。
W杯は舞台、競争は次世代素材の標準へ 台湾繊維産業にとって、W杯の意味は短期的な受注やブランド露出にとどまらない。国際ブランドがサステナブルなサプライチェーンをどう再定義するのかを示す場でもある。
遠東新、新繊、南亜、力麗などの素材サプライヤーから、儒鴻、聚陽などのアパレル受託製造企業まで、台湾企業は長年にわたり、世界のスポーツウェア供給網で重要な役割を担ってきた。
一方で、ブランド側はリサイクル素材、二酸化炭素排出量、循環設計、サプライチェーンの透明性に対する要求を高めている。かつて台湾企業の強みだったペットボトル再生糸も、より高度なクローズドループ素材技術へ進化させる必要がある。
過去のW杯は、台湾のペットボトル再生糸を国際ブランドに認知させる契機となった。今、新繊がT2TやNeolastを進めていることは、台湾繊維産業が単なるリサイクル素材の供給から、循環型素材の提案へと役割を広げつつあることを示している。
環境配慮型ユニフォームの競争は、もはや「どれだけ再生素材を使ったか」だけでは語れない。回収し、再製造し、再びサプライチェーンに戻せるかが問われる時代に入りつつある。台湾繊維産業が次世代のサステナブル機能性生地の標準をつかめるかどうかは、W杯後の長期的な競争力を左右することになる。