2026年3月23日、日本記者クラブにおいて「イスラエル・米の対イラン攻撃 背景と影響」と題した記者会見が開催された。登壇した東京大学大学院の鈴木啓之特任准教授は、2月28日に開始されたイスラエルと米国による対イラン合同軍事作戦について、イスラエル側の視点から背景と今後の展開を読み解いた。鈴木氏は、当初「核開発プログラムの阻止」を主眼としていたイスラエルの究極の目標が、圧倒的に優位な戦況を背景に、イランの「現体制転換(打倒)」へとシフトしているとの見方を示した。
指導部40名を殺害、拡大する戦線
軍事作戦は2月28日に開始され、初日の攻撃でハメネイ最高指導者を含む軍・国防の最重要幹部約40名が殺害された。イスラエル軍が首都テヘランや内陸部の軍事施設に攻撃を集中させる一方、米軍はペルシャ湾沿岸地域を重点的に攻撃している。
これに対し、イラン側はイスラエルのみならず、イラク、ヨルダン、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)などの湾岸アラブ諸国に駐留する米軍関連施設や、UAEの民間施設に対しても反撃を行い、戦線は拡大の一途をたどっている。さらにレバノンのヒズボラも対イスラエル攻撃に加わった。この事態を受け、ホルムズ海峡の航行阻害への懸念から原油・天然ガス価格が高騰。中東を経由する国際物流や航空便にも深刻な影響が出ている。
「獅子の咆哮作戦」に込められた決意
鈴木氏は、イスラエルが今回の作戦に建国神話を彷彿とさせる「獅子の咆哮(ほうこう)作戦」という名称を付した点に注目。「国家を挙げた決戦」という位置づけが読み取れると指摘した。
また、3月20日に実施された世論調査の結果、イスラエル国民の39%が戦闘の最重要目標として「イラン現体制の転換」を挙げ、「核開発の完全な破壊(18%)」を大きく上回った。ネタニヤフ首相自身も、過去の演説でペルシャ語を用いてイラン国民に蜂起を促すなど、体制転換への期待を公言しており、国内世論もこれを強く支持している状態だという。
支持率が伸び悩むネタニヤフ政権の苦境
戦況の圧倒的優位や体制転換への世論の支持がある一方で、ネタニヤフ首相率いる与党「リクード」の支持率は伸び悩んでいる。昨年の「12日間戦争」の際とは異なり、内政上の政局に大きな変化は見られない。
鈴木氏はこの理由について、2012年の国連演説や2018年のイラン機密文書公開などを通じて「イランの脅威」を国民に周知させたのはネタニヤフ氏の功績であるものの、今や「イラン脅威論」がイスラエル社会全体の共通認識(コンセンサス)となった点を指摘。攻撃そのものへの支持が、必ずしも現政権への支持に直結しなくなっていると分析した。
「終わらない戦争」への懸念と米軍撤退のタイミング
戦争の終結シナリオについて、鈴木氏は「米軍撤退のタイミング」と「イランの中長距離攻撃能力の温存度」が鍵を握るとの見解を示した。
イスラエルは単独で対イラン戦を継続する負担を避けるため、米軍の駐留を可能な限り引き延ばしたい考えだ。その間にイランの国防能力、ミサイルおよびドローン能力を徹底的に破壊する狙いがある。しかし、戦闘が長期化すればするほど、いずれ訪れる米軍撤退後にイスラエルが単独で行動せざるを得ない状況が生まれる。鈴木氏は、ガザ紛争と同様に「終わらない戦争」へと陥る危険性を孕んでいると警鐘を鳴らした。
ガザ復興計画「平和協議会」への深刻な影
パレスチナ情勢への影響として、鈴木氏は今年1月にトランプ大統領の主導で設立された「平和協議会」によるガザ復興計画の危うさを指摘した。
同計画の執行部にはUAE(アラブ首長国連邦)やカタールなど周辺アラブ諸国のメンバーが含まれている。しかし、今回の戦争により自国が甚大な被害を受けている状況下で、彼らがどこまでガザ復興に協力できるかは極めて不透明だ。鈴木氏は、戦後復興プランそのものが頓挫する可能性も示唆された。
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編集:小田菜々香













































