【深層分析】中国ステルス機「殲20」開発の父・楊偉氏が失脚か 軍需産業を蝕む「構造的腐敗」と粛清の波紋

横領と収賄容疑で逮捕された中国航空工業集団の譚瑞松・元董事長。(写真/中国中央テレビ網より)
横領と収賄容疑で逮捕された中国航空工業集団の譚瑞松・元董事長。(写真/中国中央テレビ網より)

中国の軍需産業界において、わずか2週間の間に過去に例を見ない「院士(最高位の研究者)」クラスの大規模な粛清が行われたことが明らかとなった。まず、技術分野の最高研究機関、中国工程院の公式ウェブサイトから軍需分野のトップ院士3人の略歴が密かに削除され、同時に中国科学院(中科院)もステルス戦闘機「殲20(J20)の父」と呼ばれる楊偉氏の院士資格が抹消された。

さらに、中国航空工業集団(AVIC)の元董事長(会長)、譚瑞松氏は7億元(約140億円)超を不正に得たとして汚職、収賄罪で執行猶予付きの死刑判決を受けた。両氏は15年近く共に仕事をしており、今回の粛清は中国が誇る第5世代ステルス戦闘機の中心的開発チームを直撃している。

今回の粛清の波は、2023年のロケット軍における反腐敗運動から続くもので、過去3年間で両院(中国工程院と中科院)院士が少なくとも9~10人除名されており、その多くが航空・宇宙、ミサイル、核兵器、レーダー分野の出身である。表面上は「厳格な組織統治」を掲げているが、その背景には、長年にわたり軍需産業の利権を食い物にしてきた構造的な腐敗が存在する。これにより、中国共産党が声高に主張する軍の近代化は、単なる机上の空論に過ぎないのか、またはすでに腐敗によって蝕まれているのではないかという疑念が広がっている。

表面化する事態の深刻さ:軍需高官の一斉摘発と院士の失脚

譚氏の事件は、その手口の悪質さが際立っている。2003年から2024年にかけ、同氏は職権を乱用して企業の合併・買収(M&A)やプロジェクト受注に絡み、6億1300万人民元の賄賂を受け取ったほか、8993万人民元を横領、インサイダー取引や機密漏洩にも関与していた。裁判所は「軍需産業を食い物にした」と断定したが、この20年にわたる腐敗は、ハルビン東安汽車発動機時代から、殲20などの核心的プロジェクトを直接掌握したAVICのトップ時代に至るまでを含んでいる。

楊氏のケースはさらに象徴的な意味を持つ。航空機設計の専門家である63歳の同氏は、「殲10(J-10)」、「梟龍(FC-1 Xiaolong)」、そして「殲20(J-20)」の開発を主導し、2017年に中科院院士に選出され、2018年からはAVICの副総経理を務めていた。しかし、2025年1月にはAVICの公式サイトから同氏の略歴が削除され、さらに2026年3月17日に中科院院士名簿が更新された際、その名前と個人ページが完全に消去された。当局からの公式な説明は一切ないものの、譚氏と15年にわたる上司・部下の関係にあったことから、事件への連座は明らかだとみられている。 (関連記事: 中国、軍工重鎮3人を一斉解任 張又俠氏に続く「大粛清」か、習政権の強軍目標に暗雲 関連記事をもっと読む

今回の粛清の対象はこの2人にとどまらない。最近では、中国工程院が呉曼青氏(レーダー専門家・元副院長)、趙憲庚氏(核兵器専門家)、魏毅寅氏(ミサイル誘導専門家)を相次いで除名しており、中科院でも劉国治氏らが除名された。2022年の中国共産党第20回党大会以降、少なくとも10人の両院院士が除名処分を受けている。その専門分野は航空、核兵器、ミサイル、レーダーといった国防の生命線に及び、中国の十大軍需国有企業のトップクラスをほぼ網羅している。同時に、中将や少将を含む11人の将官が調査を受けていると伝えられており、その多くが装備調達を巡る利権に関与していたとされる。

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