トランプ米大統領は16日、18日に発効する予定だった「グラム法」に基づく対ロシア制裁の主要措置について、適用を除外する大統領令に署名した。連邦議会の与野党議員は17日、この決定を相次いで厳しく批判したが、上下両院は中間選挙後まで休会しており、短期的には対抗措置を取ることも難しい。
ルビオ国務長官は、トランプ氏が対ロ制裁などによる経済への影響を最大60日間かけて評価する考えだと示唆した。一方、トランプ氏本人は記者団に対し、「皆さんの多くは、私がどんな決定をしたのかまだ知らない」と語った。
署名後に「皆さんはまだ私の決定を知らない」
トランプ氏は米東部時間16日夜、「米国の国益」を理由に、故リンゼー・グラム共和党上院議員の名を冠した対ロ制裁法について、主要措置の適用を除外する大統領令に署名したが、詳細な説明はなかった。
AP通信によると、トランプ氏は先に「無期限で免除する」と述べていた。ところが17日、フロリダ州の私邸で開かれた資金集めの夕食会では、記者団に対し、「皆さんの多くは、私がロシア制裁についてどんな決定をしたのかまだ知らない」と語った。
トランプ氏は「われわれは方法を見つけるし、あなたたちも分かるだろう。だが、これは非常に良い決定で、国のためになる。世界のためにもなると思う」と述べた。その後の追加の質問には答えず、夕食会の残りは報道陣に非公開とされた。
ルビオ国務長官(Marco Rubio)は17日、中央アジアへ出発する前に記者団に対し、トランプ氏がロシアなどへの制裁について、既存の関税とあわせて世界と米国の経済に及ぼす影響を最大60日間かけて評価する考えだと示唆した。ルビオ氏はエネルギー価格やイラン戦争にも触れ、「われわれにはこの全体を検討し、どのような組み合わせが適切かを見極める時間が必要だ」と述べた。
対ロ制裁をめぐるワシントンの最終的な方針が何なのか、公の説明は食い違っている。AP通信はトランプ氏が無期限の適用除外に言及していたと伝える一方、ルビオ氏が示唆したのは最大60日間の評価期間で、トランプ氏本人は「皆さんはまだ私の決定を知らない」と述べている。『ワシントン・ポスト』紙によると、ホワイトハウスは決定の詳細に関する問い合わせにすぐには応じなかった。
与野党が反発も、議会休会で対抗は困難
ジョン・コーニン上院議員(John Cornyn)は、グラム氏が「衝撃を受けただろう」と投稿し、『ナショナル・レビュー』誌のコラムを引用して、トランプ氏がプーチン氏に与えた「支援と便宜」について議会が調査するよう呼びかけた。
コーニン氏はさらに、プーチン氏を利する行為はあまりに軽率で、国家安全保障上の利益を損なうおそれもあると指摘した。プーチン氏はウクライナで止まらず、次に被害を受けるのはNATO(北大西洋条約機構)加盟国だという。
ただ『ワシントン・ポスト』紙は、コーニン、ティリス両氏の任期はいずれも1月に満了すると指摘する。コーニン氏は5月の予備選でトランプ氏が支持するテキサス州司法長官のケン・パクストン氏(Ken Paxton)に敗れ、ティリス氏は昨年、3期目を目指さないと表明している。
共和党のリック・スコット上院議員(Rick Scott)はAP通信に対し、ロシアは明らかに侵略者であり、米国はあらゆる手段でロシアに経済的圧力をかけるべきだと述べ、「だからこれは私が真っ先にやることではない」と語った。
民主党側では、チャック・シューマー上院民主党院内総務(Chuck Schumer)が、トランプ氏は「今年プーチン氏が受け取れる最高の誕生日プレゼントを与えた」と述べ、さらに「トランプ氏の悪魔との取引は、ますます汚れてきている」と批判した。
同法の共同起草者であるリチャード・ブルーメンソール上院議員(Richard Blumenthal)は、今回の適用除外は「国家安全保障とは無関係で、すべてプーチン氏に取り入るためのものだ」と語った。ドン・ベイヤー下院議員(Don Beyer)は、トランプ氏によるプーチン氏への「最新の降伏」であり、ウクライナのパートナーを再び裏切り、議会の立法趣旨を無視するものだと述べた。
適用除外を支持する声は、共和党のトーマス・マッシー下院議員(Thomas Massie)から出た。同氏はXで、トランプ氏が「この愚かな法律のうち、ロシアに関するほぼすべての条項」を適用除外としたことを歓迎すると投稿した。ロシアのキリル・ドミトリエフ大統領特使(Kirill Dmitriev)は、これを「重要で、まさに歴史的な瞬間」と評した。
対抗手段としては、下院外交委員会の筆頭民主党議員であるグレゴリー・ミークス氏(Gregory Meeks)が16日(金)、トランプ氏とプーチン氏によるディーゼル燃料取引を阻止する法案を提出した。
AP通信によると、ミークス氏はグラム法への反対を主導してきた人物で、トランプ氏が法律を無視すると警告していた。ミークス氏はこの取引を「腐敗している」「米国が体現するすべてに反する」と非難し、17日にも「議会は無力ではない」と述べ、行動が必要だと訴えた。
グラム氏の妹のダーリーン・グラム氏(Darline Graham)は、兄の死去後に州知事から任命されて上院議席を引き継ぎ、法案の成立にも尽力した。現在は民主党のアニー・アンドリューズ氏(Annie Andrews)と議席を争っており、接戦となっている。AP通信によると、トランプ氏は来週、同州で選挙集会に臨む予定だ。
ダーリーン氏は17日の選挙集会で、自身はトランプ氏と、戦争を終わらせ、ガソリンと軽油の価格を引き下げるという目標を共有しており、制裁法はトランプ氏が使える手段の一つで、使うかどうかは本人が決めることだと語った。そのうえで「ただ私個人としては、ロシアへの圧力を維持する道を選ぶ。私はプーチン氏もロシアも信用していないからだ」と述べた。
ゼレンスキー氏「すべての支持の声が重要」
ウクライナのゼレンスキー大統領(Volodymyr Zelenskyy)は17日、SNSで声明を出し、「米国は残念ながら、グラム法を完全に無視する決定を下した。この法律は本来、ロシアに実効性のある圧力をかけ、戦争を終わらせるためのものだった」と述べた。
同法は圧力をかける上で「大いに役立ち得た」とし、「今も可能だ」が、そのためには実際に機能させなければならないと指摘。「支持の声の一つひとつが重要だ」と訴えた。
ゼレンスキー氏は今回の決定を遺憾としつつも、トランプ氏への直接的な批判は避けた。「米国による制裁の中断、侵略者への圧力の軽減、プーチン氏に経済的利益を与えることは、すべて彼に攻撃を続けるよう促すだけだ。われわれは譲歩してはならない」「残念ながら、制裁の解除はこれからも続くだろう。『ディーゼル取引』がその第一歩だと私は考えている」と記した。
ゼレンスキー氏は欧州に対しても、モスクワとの独自の交渉ルートを築くべきだと呼びかけた。ウクライナのルステム・ウメロフ首席交渉官(Rustem Umerov)は16日(金)、トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー大統領特使(Jared Kushner)と会談した。米側は、ゼレンスキー氏、トランプ氏、プーチン氏による3者会談の調整を進めており、開催地は中東、欧州、米国のいずれかになる可能性がある。
ディーゼル取引とグラム法の経緯
AP通信によると、グラム氏はこの制裁案についてトランプ氏の同意を取り付けるまでに1年近くを費やし、トランプ氏は1カ月前に署名して成立させた。グラム氏が今夏に死去した後、上院で法案が前進した。議会内には、トランプ氏が署名しても執行しない可能性があると、早くから警告する声があったという。
『ガーディアン』紙によると、同法はロシアの政府当局者や銀行、ロシア産エネルギーを運ぶ「影の船団」を対象とし、ロシア産の石油または天然ガスの輸入量が上位5カ国である国に対し、最大100%の関税を課すようトランプ氏に義務づけている。
トランプ氏は今月初め、エネルギー価格を抑えるため、米国がロシアからディーゼル燃料を輸入すると発表した。米財務省は同時に、ロシア産ディーゼルへの制裁を解除し、4月まで販売を認めた。『ガーディアン』紙によると、トランプ氏は、ロシア側が直ちに30万トン超を供給し、11月に50万トン、その後に100万トンを供給するほか、短期間でさらに300万トンを供給すると述べた。
『ワシントン・ポスト』紙は、この取引は米国の燃料価格をわずかに押し下げる可能性があるものの、取引量は米国の消費量のごく一部にすぎず、価格への影響は限定的とみられると指摘している。トランプ氏は中間選挙を前にガソリンや軽油の価格をめぐる圧力に直面しており、生活費が有権者の最大の関心事となっている。
AP通信は、今回の適用除外をトランプ氏が米ロ関係を近づけてきた一連の動きの最新の一手と形容した。『ガーディアン』紙は、トランプ氏とゼレンスキー氏の激しい対立による新たな余波だと伝えている。
スターリンクの速度制限とエネルギー施設への大規模攻撃
ウクライナ軍が使う軍用ネットワークが速度制限を受けていることも、米・ウクライナ関係をめぐる新たな争点となっている。ゼレンスキー氏によると、キーウ(キエフ)は突然の制限について調査している。
端末の移動速度が時速約160キロを超えると接続が切れるため、ウクライナのドローンは速度を落とさざるを得ず、ロシア側が狙いを定めたり回避したりしやすくなるという。AP通信によると、この制限は事前の警告なく、15日未明に突然始まった。
ゼレンスキー氏は、欧州連合(EU)加盟国には同様の制限はなく、影響を受けているのはウクライナだけだと述べた。ウクライナ側は端末を搭載した車両をEU諸国に送って試験したところ、時速180キロを超えても接続が維持された。ゼレンスキー氏は「つまり、これは計画的な行動だ」と語った。
スペースXのイーロン・マスク氏は、このシステムは米政府が所有・管理しており、使用の判断は米軍と、最終的には大統領にあると述べた。国防総省はAP通信の問い合わせに答えていない。
トランプ氏は16日、「誰かがそうしたのかは分からないが、私ではないし、マスク氏でもないと思う」と述べた。ルビオ氏は17日、「故意ではない。われわれは無関係だ」とし、「米国の誰も、スターリンクの減速を命じていない」「いわば、そうなってしまったということだ」と語った。
AP通信は、制限を受けたのはスターリンク(Starlink)の軍用版「スターシールド(Starshield)」だと伝えている。一方、ルビオ氏は、ウクライナは「現在スターシールドを持っていない」と述べた。ウクライナ側はロシア領内への縦深攻撃のために入手を求めているが、現時点ではアクセス権がなく、「それは別の2つの製品だ」と説明した。
ゼレンスキー氏は、ロシア軍がウクライナのエネルギー施設に大規模な攻撃を仕掛け、発電・送電施設15カ所以上を標的にしたと述べた。ウクライナ空軍によると、ロシア軍は一晩で巡航ミサイル4発と攻撃型ドローン332機を発射し、ミサイル4発はすべて迎撃され、ドローンも大半が迎撃された。
ゼレンスキー氏は、ロシア側の攻撃の規模と持続的な攻勢が、ウクライナのエネルギー部門に深刻な影響を及ぼしていると述べた。