草間彌生さんはなぜ水玉と「かぼちゃ」を描き続けたのか 幻視を世界的アートへ

日本を代表する前衛芸術家の草間彌生さんが死去した。1929年、長野県生まれ。水玉や「かぼちゃ」、「インフィニティ・ネット」、インフィニティ・ミラールームなどで知られ、幼少期の幻視や幻聴を独自の芸術表現へと昇華させた。ニューヨークの前衛芸術界から世界へ活動を広げ、亡くなる直前まで創作を続けていた。(写真/AP通信)
日本を代表する前衛芸術家の草間彌生さんが死去した。1929年、長野県生まれ。水玉や「かぼちゃ」、「インフィニティ・ネット」、インフィニティ・ミラールームなどで知られ、幼少期の幻視や幻聴を独自の芸術表現へと昇華させた。ニューヨークの前衛芸術界から世界へ活動を広げ、亡くなる直前まで創作を続けていた。(写真/AP通信)

日本を代表する前衛芸術家の草間彌生さんが8月14日、東京都内の病院で多臓器不全のため死去した。97歳だった。訃報は27日に公表された。

草間さんは、無数の水玉模様や「インフィニティ・ネット(無限の網の目)」、かぼちゃ、「インフィニティ・ミラールーム」などで世界的に知られる。一方、こうした特徴的な表現は、幼少期から経験してきた幻視や幻覚と深く結びついていた。草間さんは、幼いころから自身を悩ませてきた視覚体験をどのように芸術へと変え、世界的な芸術家として評価されるようになったのか。

「水玉の女王」草間彌生氏。(写真/Wikipediaより、日本文部科学省撮影/CC BY 4.0)
「水玉の女王」として知られる草間彌生さんが、多臓器不全のため97歳で死去した。(写真/Wikipediaより)

幼少期の幻視が独自の表現へ

​草間さんは1929年3月22日、長野県松本市に生まれた。幼いころから絵を描くことに関心を持ち、青年期には京都市立美術工芸学校で日本画を学んだ。一方、伝統的な技法にとどまらず、自分自身の表現方法を模索していった。

草間さんは幼少期から、視覚や聴覚に関する異常な感覚を繰り返し経験したと語っている。周囲の物や空間が無数の花柄や水玉で覆われていくように感じることもあり、その恐怖を伴う光景を絵に描くようになった。それが次第に、草間さんを象徴する独自の表現へとつながっていった。

作品の中でも特に知られているのが、無数に繰り返される水玉模様だ。その背景には草間さん自身の体験がある。

模様を見つめていると、その柄が壁や天井、自らの身体、さらには周囲の空間へと広がり、自分自身が無限の中にのみ込まれていくように感じたという。こうした感覚は後に「自己消滅」という重要な概念へとつながり、水玉や網目を繰り返すことで、個と周囲の境界を曖昧にする表現へと発展した。

草間さんにとって水玉は単なる装飾ではなく、自らの恐怖や世界、自己の存在と向き合うための表現でもあった。

若き日の草間彌生氏は大胆かつ前衛的なアプローチで、1960年代のニューヨークに芸術革命を巻き起こした。(写真/城市美学新態度)
若き日の草間彌生さんは大胆かつ前衛的な表現を展開し、1960年代のニューヨークで数々の実験的な芸術活動に取り組んだ。(写真/城市美学新態度より)

27歳で渡米、ニューヨークの前衛芸術界へ

​1950年代後半、草間さんは日本を離れ、米国へ渡った。まずシアトルで作品を展示し、その後ニューヨークへと拠点を移した。

当時の美術界は男性中心で、日本から渡米した女性芸術家が注目を集めることは容易ではなかった。その中で草間さんは、無数の網目を反復させる「インフィニティ・ネット」シリーズで徐々に注目されるようになり、ソフトスカルプチャーやインスタレーション、パフォーマンスへと創作の幅を広げていった。

ドナルド・ジャッド、エヴァ・ヘス、ジョゼフ・コーネルらと交流し、アンディ・ウォーホルなどが活動していた1960年代のニューヨーク前衛芸術界でも、自らの存在感を高めていった。

草間さんの芸術活動を象徴する出来事の一つが、1966年の第33回ベネチア・ビエンナーレで発表した「ナルシスの庭(Narcissus Garden)」だ。

当時、正式な招待作家ではなかった草間さんは、イタリア館の外に多数の銀色の鏡面球を敷き詰め、現場で観客に安価で販売しようとした。この行為は主催者側に制止されたものの、大きな注目を集めた。

後に、芸術の商品化や市場の仕組み、芸術家の「価格」を問い直す行為として捉えられるようになった。27年後の1993年には、日本代表として正式にベネチア・ビエンナーレに参加した。

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