国連事務総長「超大国の力には限界」 米国主導の一極体制が後退、多極化に「第1次大戦」の警鐘
2024年1月17日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)に出席したアントニオ・グテーレス国連事務総長。(AP通信)
国連を約10年にわたり率いてきたアントニオ・グテーレス国連事務総長(António Guterres)は今年末に退任する。同氏は英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』の単独インタビューに応じ、米軍による対イラン軍事作戦の膠着や、ロシアによるウクライナ侵攻の挫折などを含め、「超大国」の限界が露呈していると明言した。
グテーレス氏はさらに、米国主導の一極支配体制が多極化へ移行する中、グローバル・ガバナンスの枠組みが国力の変化を反映して直ちに改革されなければ、国際社会は全面的な対立という深淵に滑り落ちる恐れがあると警告した。
現在77歳の元ポルトガル首相であるグテーレス氏は、今年12月31日をもって2期10年に及ぶ事務総長の任を退く。ニューヨークの国連本部38階にある執務室で取材に応じた同氏は、「今こそ超大国が自らの力の限界を直視すべき時である。昨今の情勢から見ても、強大国が様々な局面で自らの意志や武力を押し付けようとする能力は、既に著しく制限されている」と指摘した。
米露の挫折が裏付ける強大国の限界
グテーレス氏は、超大国が「自ら選択した戦争」において立て続けに挫折を味わっており、これが深刻な教訓を残していると指摘する。
同氏はロシア・ウクライナ戦争および米国・イラン間の戦局を例に挙げた。モスクワは当初、全面侵攻の開始後数日で勝利を収めると予想していたが、2022年から2026年となった今日に至るまで双方は依然として交戦を続けている。また、米軍が今年2月に対イラン軍事作戦を発動した際も、最高指導者の殺害によりテヘランが即座に屈服すると目論んでいた。しかし半年が経過した今もイラン政権は頑強に抵抗しており、米軍は世界のエネルギー供給網を左右するホルムズ海峡の封鎖を未だに突破できずにいる、と同氏は説明した。
グテーレス氏は、「超大国は情勢が既に変化し、各国の影響力もかつてとは異なる事実を認識しなければならない」と強調した。
ドナルド・トランプ米大統領が昨年設立し、多国の首脳にイスラエル・ハマス紛争の調停を呼びかけた「平和委員会(Board of Peace)」が国連安全保障理事会(安保理)に取って代わる意図があるかについて、グテーレス氏は、同委員会がガザ地区で何の進展ももたらしていないと一蹴した。「率直に言って、憂慮すべきは国連ではなく、他の者たちが自らの行いに対して懸念を抱くべきだ」と述べた。
安保理の機能不全が助長する「不処罰」の蔓延
グテーレス氏は、拒否権を握る米国とロシアが安保理でそれぞれ身勝手に振る舞うことで、安保理が「実質的な機能不全」に陥っていると率直に認めた。その結果、スーダン内戦などの危機において、外部の「攪乱者」が付け入る隙を与えていると指摘した。
「現在、国際社会には一種の『不処罰(免責)』の空気が蔓延している」とした上で、安保理が規則違反の国家に対して「ルールを守らなければ処罰される」と強制できないことが、国連の調停力を大幅に削いでいると述べた。
一方でグテーレス氏は、国連が紛争調停から後退しているとの見方を断固として否定し、60年にわたり分断が続くキプロスへの最近の訪問を例に挙げた。「現在の調停作業は極めて困難であり、成果も限定的だが、我々は決して諦めない」と語った。
危機に際して国連の存在感が薄れているとの外部からの批判に対し、グテーレス氏は反論した。ウクライナ戦争や、2023年10月7日のハマスによる「おぞましい攻撃」、そしてイスラエルによるガザへの「到底容認できない」軍事的報復に関して、自身が誰よりも明確に発言してきたと主張。イスラエルが国連に体制的な偏見があると非難していることについても厳しく退け、「我々は常に歴史の正しい側に立ち、両民族の平和的共存に不可欠な基盤を守り抜く」と強調した。
新興勢力を取り込まなければ安保理は分断へ
トランプ政権が複数の国連機関や計画への資金拠出を停止し、巨額の分担金や平和維持活動(PKO)経費を滞納していることによる圧力に直面しても、グテーレス氏は国連が崩壊していない事実を指摘した。40億米ドルに上る膨大な滞納という窮地においても、国連は依然として運営を維持していると強調し、「2026年度予算において、我々は定員の22%を削減した。これほどの削減を実現できる公的機関は世界中どこにもない。また、昨年のPKO部隊の兵力も25%削減した」と語った。
グテーレス氏は過去10年間で、インドなどの「グローバルサウス」の大国や、ペルシャ湾岸の裕福な産油国といった「中堅国(ミドルパワー)」が台頭している点に言及した。同氏はこれを前向きな傾向であると捉えており、国際通貨基金(IMF)や世界銀行(World Bank)など、第二次世界大戦後に設立された機関は、現在の力の均衡を反映させるべく改革を行わなければならないと主張した。
安保理の5大常任理事国のうち、3枠を欧州が占めている現状について、グテーレス氏は既に「持続不可能」であると断言した。「第一次世界大戦前の欧州も多極体制であったが、多国間ガバナンス体制が欠如していたため、最終的に大戦の勃発へと至った事実を忘れてはならない」と警鐘を鳴らした。一方で、常任理事国の枠拡大には強い抵抗があると率直に認め、「権力とは決して与えられるものではなく、自ら勝ち取るものだ」と述べた。
10年の任期を回顧、「書記と将軍」の均衡と功績
後継者争いが白熱し、中には「改革を行わなければ国連は『緩やかな死(slow death)』に直面する」と警告する候補者も現れる中、グテーレス氏が次期事務総長に送る唯一の助言は、「自分らしくあり、自分が正しいと信じる事を貫き通せ」というものだ。
同氏はまた、国連が「国際連盟」のように歴史の彼方へと消え去る運命にあるとの悲観論を退け、国連の過去80年間における最大の貢献こそ、超大国間における直接的な全面戦争の勃発を見事に回避した点にあると強調した。
約10年にわたる任期を振り返り、グテーレス氏は、歴代の事務総長が常に、内部管理に注力する「書記(セクレタリー)」と、世界的な大局を見据える「将軍(ジェネラル)」の役割との間で均衡を模索しなければならなかったと語った。ポピュリストの指導者たちが気候変動の脅威を軽視する中で、自身が気候変動問題を一貫して擁護してきたことに誇りを感じているという。
グテーレス氏は最後に、「事務総長に実権はなく、あるのは発言と召集の影響力のみだ。権力とはまた別の問題であり、我々に権力はないが、この声が封殺されることは決してない」と締めくくった。
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