半導体の新材料や新プロセスは、大学の研究室でブレークスルーを達成しても、そのままファウンドリ(半導体受託製造工場)に導入されるわけではない。
装置への適合、プロセス統合、量産検証という段階を経て初めて、実際の生産現場にたどり着く。
米半導体製造装置大手のアプライド・マテリアルズ(Applied Materials、NASDAQ:AMAT)は、米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)が研究パートナーとして、シリコンバレーに設立する「装置・プロセス・イノベーション・商業化(EPIC)センター」に参画すると発表した。
これにより、学術研究者が産業レベルの半導体製造装置を利用できるようになる。AI半導体向けの材料やプロセス技術が、研究室から量産化に至るまでの期間を短縮する狙いだ。
産学が装置を共有、技術の商業化を加速
協力計画に基づき、UCバークレーの研究チームはアプライド・マテリアルズの科学者やエンジニアと共同研究を行う。AIコンピューティングに必要な材料工学およびプロセスのイノベーションを推進するという。
一般的な学術研究室と比較して、EPICセンターは半導体メーカーの実際の生産ニーズに近い装置やプロセス環境を提供する。研究者は技術の反復開発、プロセス統合、検証を加速させることが可能になるとしている。
アプライド・マテリアルズは、研究型大学が新材料や新プロセスの構想の発信源となることが多いと指摘する。しかし研究用装置やウェーハサイズ、プロセス条件が商業用ファウンドリと乖離している場合、研究成果を産業に導入する際に再調整や再検証が必要となるケースがあるという。
EPICセンターは、世界の半導体メーカーが採用する装置を学術界が早期に利用できる環境を整え、学術研究と産業における量産とのギャップを縮めることを目指すとしている。
アプライド・マテリアルズの半導体製品事業グループ社長、プラブ・ラジャ(Prabu Raja)氏は、「EPICセンターの設立は、産業の製造ニーズに近い高効率な研究開発環境において、産業界と学術界からトップクラスの人材を集め、次世代半導体技術の研究開発と商業化を共に大幅に加速させることを目的としている」と述べた。
同氏は、現代の半導体製造において、UCバークレーほど深い影響を与えた学術機関は少ないと指摘。EPICセンターを通じた同校との研究協力を拡大し、技術が研究室から量産へと向かうプロセスを強化すると同時に、将来の半導体人材を育成するプラットフォームの構築を目指すとした。
半導体研究開発のモデルが変化
今回の提携は、半導体の研究開発モデルの変化を反映しているといえる。
従来は、学術界、装置メーカー、半導体メーカーが順次技術開発を引き継ぐ形が主流だった。しかしAI半導体が3D構造、ヘテロジニアス・インテグレーション(異種統合)、新材料へと発展する中、材料、装置、プロセスの相互影響はより複雑化している。
各プロセスを独立して開発した場合、量産検証の段階で反復的な修正が必要となり、商業化までの期間が長期化する懸念がある。
EPICセンターが採用するモデルは、学術研究チーム、装置メーカー、産業パートナーがより早期から共同研究環境に参画し、産業レベルの装置上で新材料や新プロセスを検証するというものだ。
その核心的な目標は、大学における基礎研究を代替することではない。学術成果とファウンドリでの量産との間に、統合および検証のためのプラットフォームを追加することにあるとしている。
SPICEやFinFETからAI半導体へ
UCバークレーは長期にわたり、半導体の基礎研究と技術移転に取り組んできた実績を持つ。
同校は1962年に集積回路(IC)のプロトタイプ設計を専門とする研究室を設立した。その後の研究成果には、回路シミュレーター「SPICE」や、世界の先端ロジックプロセスの重要な基盤となった「FinFET(フィン型電界効果トランジスタ)」が含まれる。
SPICEにより、チップ設計者はソフトウェアを通じて回路の挙動をシミュレーションできるようになった。FinFETは立体的なトランジスタ構造を通じて、ゲート制御能力の向上と漏れ電流問題の改善を実現した技術だ。この2つは、設計ツールとトランジスタ構造の両面から、現代の半導体産業に長期的な影響を与えている。
アプライド・マテリアルズは、UCバークレーが過去に蓄積した研究および技術移転の経験が、新技術の産業導入を加速させるというEPICセンターの位置づけに合致していると認識している。ただし、SPICEやFinFETは同校の過去の代表的な研究成果であり、今回のEPIC協力プロジェクトから新たに生み出されたものではない点には留意が必要だ。
UCバークレー工学部長のマーク・アスタ(Mark Asta)氏は、同校の研究者による革新的な成果が半導体技術の進歩を推進し、コンピューティング能力の向上とAI時代の到来をもたらしたと説明。アプライド・マテリアルズが設立するEPICセンターにより、研究型大学が産業界と同期した最新の半導体プロセス装置や技術に早期にアクセスできるようになり、研究成果の商業利用への移行が加速するとの見方を示した。
EPICセンター、2026年稼働へ シリコンバレーの研究連携を強化
EPICの正式名称は「装置・プロセス・イノベーション・商業化センター(Equipment and Process Innovation and Commercialization)」である。
アプライド・マテリアルズの計画によれば、同センターはシリコンバレーに設立され、2026年に稼働を開始する予定だ。主な任務は、ブレークスルー技術が早期研究から本格的な量産に至るまでの商業化の時程を短縮することにあるという。
アプライド・マテリアルズは、EPICセンターが米国における先端半導体装置の研究開発分野で、これまでで最大規模の投資になるとしている。ただし今回の発表では、具体的な投資額や初期の研究プロジェクト、技術導入のスケジュールは明らかにされていない。
UCバークレーとアプライド・マテリアルズの提携は、今回が初めてではない。両者は過去にも、半導体研究プロジェクトや実験室リソースの共有を通じて協力関係を築いてきた。これには、「バークレー新興技術研究センター(Berkeley Emerging Technologies Research:BETR)」や、「社会発展のための情報技術研究センター(Center for Information Technology Research in the Interest of Society:CITRIS)」に関連するプロジェクトが含まれるという。
さらに、多数のUCバークレーの卒業生が現在、アプライド・マテリアルズでエンジニアや科学者、管理職として勤務している。同社は毎年、同校から人材の採用を継続しているという。両者が共にシリコンバレーに位置していることもあり、研究の構想やエンジニアリング人材、設備リソースがキャンパスと産業界の間で流動する環境が形成されているとしている。
AI半導体にさらなる新材料や3D構造、ヘテロジニアス・インテグレーション技術が導入されるに伴い、半導体イノベーションのスピードは、誰が先に研究構想を打ち出すかだけでなく、装置の検証、プロセス統合、量産導入をいかに迅速に完了できるかにも左右されるようになっている。
UCバークレーがEPICセンターに参画したことで、この産学共同研究開発モデルが、新技術が研究室からファウンドリへと移行するまでの時間を実際に短縮できるかどうかが、今後の注目点となる。