台湾の最大野党・国民党の鄭麗文主席は就任後、両岸(中台)交流を継続的に推進している。4月10日には北京の人民大会堂で中国の習近平国家主席と正式に会談した。
「鄭・習会談」を経て、中国側は12日、両岸交流の促進を目的とする10項目の政策措置を発表した。国民党はこれを会談の成果の一つと位置づけ、以降も代表団を中国本土へ派遣するなど、両岸交流を進めている。
こうした中、あまり知られていない事実がある。国民党と中国本土の対話が再開して以降、各地の台湾企業関係者(台商)や台湾人が中国本土で直面するトラブルの相談が、同党に殺到しているのだ。
その中には、中国刑法第300条違反の疑いで捜査を受けた台湾の宗教団体「一貫道」信徒の救援要請も含まれる。だが国民党は、この一貫道関連の救援対応で難航を極めているという。その背景を追った。
鄭麗文氏(右端)と習近平氏の会談後、国民党には台湾企業関係者からの陳情が相次いで寄せられた。(資料写真/劉偉宏撮影)
習近平氏との会談後、支援要請が「殺到」 台湾で初の政権交代が起き、民主進歩党(民進党)の陳水扁氏が総統に就き国民党が初めて野党に転落した際、国民党は独自に台湾企業関係者への支援業務を始めた。
その後、馬英九氏が政権を奪還した期間中、この業務は本来の枠組みに戻り、海峡交流基金会(海基会)が担当するようになった。
2016年の総統選挙で国民党は再び野党となり、呉敦義氏が党首に就任した。呉氏は中国側との間で台湾企業支援業務の再開を望んだが、中国側が同氏の路線に疑念を抱いていたため実現しなかった。
続く江啓臣氏、朱立倫氏の両主席は親米路線を強めていたため、台湾企業との接触はあったものの、支援業務の積極的な再開には至らなかった。
台湾企業向けの支援業務は、鄭氏が主席に就任して初めて正式に再開された。「鄭・習会談」以降、支援要請の案件は急増しているという。
台湾で初の政権交代が実現し、民進党の陳水扁氏(左)が政権を握った後、両岸関係が悪化する中で、国民党は台湾企業向けの支援を始めた。(総統府公式サイトより)
王滬寧氏、宋涛氏と事前合意 国共は「党対党」の対話へ 関係者によると、「鄭・習会談」に先立ち、国民党は上海で中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)主任の宋涛氏と会談した。その後、両岸シンクタンクフォーラムを開催している。
さらに中国人民政治協商会議全国委員会(全国政協)主席の王滬寧氏とも会談し、その際に台湾企業支援業務の再開が合意されていたという。会談後、各地の台湾企業から寄せられる支援案件は数え切れないほどに上っている。
各地の台湾企業は、国民党関係者に対し、中国の各省レベルの台湾事務弁公室、あるいは中央の国台弁との調整を依頼してきた。ルートが多岐にわたったため、最終的に国民党と中国共産党は「党対党」の対話枠組みに戻すことで合意したという。
現在の国民党大陸事務部主任、張雅屏氏は海基会の理事も務めている。海基会との意思疎通に問題はなく、双方の連携が円滑に行われているもようだ。
関係者によれば、すでに数百件に上る台湾企業の支援案件で中国側との調整が進んでいる。台湾企業と中国の国有企業間の商業トラブルは、ほぼすべて解決可能だという。ただし民間企業間のトラブルは、引き続き法的手続きを踏む必要がある。
台湾企業が希望するチャーター便の増便についても、各地の台湾企業協会から要望が出されている。ただ現在は、台湾の交通部民用航空局(民航局)の規定により休日のみに限られ、平日の運航は認められていない。
「鄭・習会談」以降、中国側は国民党の台湾企業支援に全面的に協力しており、多くの台湾企業がその恩恵を受けている。
鄭麗文氏と習近平氏の会談に先立ち、国民党は上海で中国国務院台湾事務弁公室の宋濤主任(写真)と会談していた。(資料写真/楊騰凱撮影)
一貫道信者の法的トラブル、国民党の主要業務に 台湾企業の支援に加え、国民党が中国側と協議するもう一つの主要業務がある。中国本土で布教活動を行い、現地の法規に疎かったために中国刑法第300条に違反したとして拘束された、台湾の一貫道信者の救援だ。
同条項は「道門、邪教組織の組織・利用、または迷信を利用した国家法律・行政法規の実施破壊罪」を規定する。一般的に3年以上7年以下の有期懲役および罰金が科され、情状が特に重い場合は7年以上の有期懲役となる。
関係者によると、現在国民党は100件近い一貫道関連の救援要請を受けている。台湾の「中華一貫道全球総会」が鄭氏と面会した際に提出した救援リストの内容は、家族から寄せられた陳情案件とほぼ一致するという。
一貫道の信者は菜食を実践するが、中国の刑務所では菜食が提供されず、台湾のように面会時の差し入れ規定もない。拘束された信者の多くが慢性疾患を抱えていることも懸念材料だ。
現段階で可能な対応は、刑務所側と交渉し、家族からの送金を許可させ、台湾人受刑者が刑務所内で菜食やより良い医療サービスを受けられるようにすることにとどまっている。
中国では宗教活動が厳しく統制されており、合法的な宗教団体でなければ布教活動を行うことはできない。一貫道の信者が拘束された理由は、布教活動に加えて、台湾特有の宗教的慣習も影響しているとみられる。
台湾では民間信仰、一貫道、仏教、道教を問わず、寺院や道場の建設のために寄付を募ることが一般的だ。この行為が中国では「違法な資金調達」と見なされ、重大な犯罪として扱われるという。
ただし両党間に一定の共識があるため、事情が単純な案件については「人道的な理由」により懲役1年以下、執行猶予の判決が下され、早期に台湾へ帰還できる見通しだという。
一貫道の信者が中国で布教活動を行う際、現地の法規に不慣れなため、中国刑法第300条に抵触するケースがある。写真はイメージで、記事中の事例とは関係ない。(資料写真/甘岱民撮影)
中国公安の懸念、国家安全保障レベルに発展 しかし協議の過程で、国民党側は想定外の事態に直面した。単なる一貫道の布教問題だと思われていた事案が、国家安全保障上の問題に発展したのだ。
関係者によると、一貫道の救援案件における交渉相手は、台湾事務弁公室系統ではなく中国の公安当局だという。
公安側は、「すでに多数の一貫道信者が逮捕され、台湾政府も中国での布教を控えるよう繰り返し警告しているにもかかわらず、なぜ彼らは飛んで火に入る夏の虫のごとく中国本土へ向かうのか」と強い疑念を抱いているという。
状況をさらに複雑にしているのが、頼清徳総統が推進する「全社会防衛強靭化(レジリエンス)委員会」の存在だ。同委員会の委員には、一貫道を代表して台湾玉山宝光聖堂董事長の王宝宗氏が就任している。
台湾の軍事演習では、宗教施設が軍の拠点や弾薬庫、補給・休息所として利用されるケースが多い。このため中国側は、一貫道の布教活動が「組織的ネットワークの構築」を目的としているのではないかと警戒しているという。
中国へ布教に赴いた一貫道信者の中には退役軍人も含まれ、諜報機関に所属していた者もいるとされる。これにより、中国の公安当局は一貫道の布教活動の裏に別の意図があるとの疑いを深めているという。
当初は単純な救援活動と考えられていたが、中国側の国家安全保障レベルの懸念を引き起こしたことで救援の難易度は跳ね上がった。国民党にとっても予想外の展開となっている。