ワシントンのシンクタンク「アジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)」の最新の調査によると、フィリピンと日本の間で安全保障協力が一段と緊密化していることへの対応として、中国は台湾以東のフィリピン海海域における軍・警察力の展開を拡大し、同海域に対する管轄権を確立しようとしているという。
ブルームバーグがAMTIの最新報告書を引用して伝えたところによると、日本とフィリピンが5月に海域の境界画定について合意に達した後、北京当局は直ちに「前例のない」軍・警察活動を展開した。これらの活動には、継続的な海上法執行パトロール、海警局の船舶による台湾付近での探査・調査、そして商船約200隻に対する無線での呼びかけや照会が含まれるという。こうした一連の動きを踏まえ、AMTIは報告書のなかで、これらの活動が中国のプレゼンスをより「常態化」させかねないだけでなく、中国が将来的に台湾を隔離ないし封鎖する戦術を試している可能性への懸念を外部に抱かせることになる、と警告している。
日比の海域境界画定交渉に対抗
ワシントンに拠点を置くAMTIは報告書のなかで、中国のこれまでの対応の性質から見て、こうした行動は東京とマニラへの警告発信にとどまるものでは決してない、と強調している。実際のところ、北京は台湾以東の海域に半恒久的な軍・警察体制を構築し、公然と法執行権を主張することを通じて、地域の現状そのものを根本から変えようとしているというのだ。

こうした海上保安活動は、中国と日本、フィリピンとの間の緊張がさらに高まっていることを示すものであり、南シナ海をめぐる紛争ですでに幾度となく見られてきた「グレーゾーン戦術」が用いられている。注目すべきは、これらの行動が展開された時期が、米国のトランプ(Donald Trump)政権が台湾問題に関する発言を控えめにしている最中であり、しかも中国の習近平国家主席が9月にホワイトハウスを訪問する予定になっている点だ。
北京のこうしたやり方に対し、日本とフィリピンも強硬な姿勢で応じている。両国は、同海域で武力衝突が起きれば、台湾をめぐるいかなる戦火にも巻き込まれる可能性が極めて高いと明言しており、こうした発言は当然ながら北京の不興を買っている。このほか日比両国は軍事的な結びつきの強化にも積極的で、二国間関係の格上げや一連の防衛対話の開始に合意したほか、自衛隊から中古の護衛艦を譲り受ける計画も進めている。
6月から8月にかけての動きを振り返ると、中国の海上法執行活動は主に海警局の船舶2隻が担い、台湾以東の、日本とフィリピンの主張する権益が重なり合う海域に集中していた。これに対し、日比が境界画定交渉を発表する前の5カ月間は、同海域で中国海警の姿がほとんど確認されていなかったという。
「近海」管轄権の構築――グレーゾーン戦術の激化と台湾封鎖の試行
日比両国による海域境界交渉をめぐり、中国は8月、こうした協議はすでに「一つの中国原則」に対する重大な挑発行為に当たると警告を発していた。

もっとも北京にとって、アジア太平洋周辺の海域には主権や領海をめぐる係争がほかにも数多く存在する。東シナ海の尖閣諸島(台湾では釣魚台列嶼と呼ぶ)はその一つであり、南シナ海においても、中国とフィリピンの間でスカボロー礁(黄岩島)や南沙諸島など複数の島礁をめぐり、主権と海域権益に関する争いが存在する。
AMTIは報告書のなかで、中国のフィリピン海における最新の動きは、北京がいわゆる「近海」に対して広範かつ前例のない管轄権を確立しようとしていることを示している、と警告している。海警局による法執行の常態化を通じて周辺国の主権を徐々に侵食していくこうした手法は、南シナ海から台湾東方の太平洋海域へと及びつつあり、東アジアの地政学的な情勢に新たな変数をもたらす可能性が高い。
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編集:梅木奈実 (関連記事: 中国海警船の衝突事故が転機か 米国が「グレーゾーン」対策強化、AIT投稿写真が示す変化 | 関連記事をもっと読む )
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