中国政府 は6日、日本とフィリピンの海域境界をめぐる動きを口実に、海警局や海巡部門の公船を台湾東部の花蓮・台東沖に派遣した。船隊は台湾本島の南側から東側、さらに北側へと回り込み、周辺を航行する国際商船に無線で呼びかけ、船名や航行情報の確認を求めた。
中国側はこれにより、台湾周辺海域全体に対する法執行権限を誇示した形だ。その後、中国国営メディアは、台湾海峡はすでに「中国の内海」だと主張した。
北京は、主権をめぐる対立を正面から扱うのではなく、台湾周辺海域で一方的に管轄権を行使することで、正式な統一宣言を伴わない「不統而統(統一なき統一:正式な統一宣言を行わないまま、実質的に統一に近い状態を作り出す構想を指す)」の新たな戦線を広げようとしている。
民進党が台湾で政権を担ってから10年が経ち、米中関係の変化も重なって、中台関係は悪化を続けている。中国から台湾への観光客や留学生の往来は大きく減少し、北京が掲げる「統一の大業」は依然として遠い目標のようにも見える。
しかし、表面上は冷え込む中台関係の背後で、北京は別の統一戦略を進めつつある。中国の重要な対台湾研究機関である中国社会科学院台湾研究所の朱衛東所長は先日、「不統而統」という概念を公に示し、統一に向けた大きな環境をつくるべきだと強調した。
トランプ米大統領が訪中後に「台湾の独立は望まない」と述べたことや、中国海警局が台湾本島周辺海域を法執行範囲に組み込もうとしていることも、北京が発する「不統而統 」という政治的シグナルと重なって見える。
「不統而統( 統一なき統一 ) 」とは何か 朱衛東氏は第12回「両岸青年学者フォーラム」の開幕式であいさつし、統一について「急ぎすぎてもならず、遅らせてもならず、ただ待つだけでもならない」と述べた。
その上で、「開渠引水(水路を開いて水を引き込む )」と「水到渠成(条件が熟せば事は自然に成就する )」、つまり環境を整えることと、条件が熟して自然に実現することの関係を正しく処理する必要があると指摘。情勢を見極めて積極的に行動し、「不統而統」の大きな流れを形成すべきだと訴えた。
中国社会科学院台湾研究所は、中国共産党中央の背景を持つ台湾問題研究機関であり、その発言は中国の対台湾政策を読み解く上で重要な意味を持つ。朱氏の「不統而統」発言が明らかになると、台湾内でも中台関係に関心を持つ専門家の間で、中国の対台湾政策に新たな変化があるのか、この概念が何を意味するのかに関心が集まった。
全国台湾研究会副会長で、中国社会科学院台湾研究所所長の朱衛東氏は、「不統而統(統一なき統一)」という新たな路線を打ち出した。(写真/中評社提供) 対外的には、「台湾独立」の国際的な余地を封じ、中国側の法執行範囲が台湾周辺に及ぶ状況をつくる。対内的には、中台の人々の融合的発展を進め、経済、文化、社会の各分野で交流を深める。政治的に正式な統一宣言を行わなくても、社会の実際の運用が統一状態に近づくことを目指すという。
専門家によれば、最近の北京による対台湾アジェンダの推進には一貫した流れがある。習近平氏との会談後にトランプ氏が「台湾の独立は望まない」と発言したこと、米国の対台湾武器売却をめぐる再考論が浮上したこと、中国海警局の公船が台湾周辺海域で巡視を行ったことなどは、いずれも国際社会に対して「一つの中国」を強調し、台湾独立を主張する勢力の国際的な活動空間を狭める動きだとみられている。
中国中央テレビ(CCTV)の微信公式アカウント「玉淵譚天」は、中国海警局が台湾東部海域で巡視を行ったことを示す図を公開し、台湾周辺海域の統治体制を構築する姿勢を強調した。(写真/CCTV微信公式アカウント「玉淵譚天」より)
「不統而統( 統一なき統一)」は第三の道なのか 「不統而統」という言葉を最初に提起したのは、台湾・香港・マカオ法研究センター(台港澳法研究中心)執行主任の李暁兵氏とされる。李氏は2018年、海外華字メディア『多維新聞』のインタビューで、統一問題の理解には一定の誤解があると指摘した。
当時、李氏は、中国大陸と台湾の往来はすでに非常に緊密で頻繁であり、実質的には統一と大きく変わらないと述べた。違いは、政治的な表明がまだ行われていないことだけだという見方だった。
李氏はまた、国家統一の問題では固定観念を打ち破る必要があると述べた。仮に2035年までに中台の人々の生活水準が近づき、各分野の交流がさらに深まり、感情面でも理性的な回帰が実現した場合、明確な統一宣言がなくても、実質的には統一が達成されたとみなすことができるという。
この概念について、台湾・淡江大学中国大陸研究センターの張五岳主任は台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の取材に対し、「北京は統一問題において台湾政府に何の期待も抱いていない。台湾の主流民意も統一を望んでいない。では北京が統一の意図や手段を放棄するのかと言えば、答えはノーだ」と語った。
張氏によれば、中国は自らのペースで中台の融合的発展を進め、国際社会では対立点を管理していく。とりわけ米国との間では、台湾独立に反対する方向で相違を管理しながら、最終的には中国自身の国力を背景に、統一プロセスを着実に進めるとみられる。台湾内部の動向に左右されることはない、というのが張氏の見方だ。
各方面の見方を総合すると、「不統而統」が北京の新たな対台湾戦線であるならば、今後、中国は台湾の国際空間に対する圧力をさらに強める可能性がある。対外的にはより強硬に、人的交流や経済交流ではより柔軟に臨む、いわば「硬」と「軟」を同時に使い分ける戦略だ。
「不統而統(統一なき統一)」について、淡江大学両岸関係研究センター主任の張五岳氏は、中国大陸が自らの実力を背景に統一プロセスを進めており、台湾内部の動向には左右されないとの見方を示している。(写真/顔麟宇撮影)
中国による台湾東部海域巡視の常態化 中国の「不統而統」 戦略は、徐々に輪郭を現しつつある。頼清徳総統は米本土経由の外遊を実現できず、国際舞台で発信する機会も大きく制約されている。
2022年、ナンシー・ペロシ元米下院議長が台湾を訪問した際、中国は軍用機や艦艇を展開し、台湾海峡の中間線を境界としてきた従来の慣例を崩した。2026年には、日本とフィリピンの海域境界をめぐる動きを受け、中国が海警局の公船を台湾東部海域に派遣し、巡視と法執行を行った。台湾の国際空間は、さまざまな形で圧迫を受けている。
張五岳氏は、ペロシ氏の訪台をきっかけに北京が台湾海峡の中間線を無力化したと指摘する。今回については、日本とフィリピンの排他的経済水域(EEZ)をめぐる動きを口実に、中国側が台湾東部海域に対する管轄権の行使を試みたとの見方を示した。
管轄権とは公権力そのものである。張氏は、これまで中国海警局などの公船による警戒・巡視活動は主に台湾北部、中部、南部の西側海岸に集中していたが、今後は台湾東部沿岸も対象範囲に組み込まれる可能性が高いとみる。さらに、こうした動きは常態化し、海警局を通じて管轄権の行使を示すことになると分析した。
一方で張氏は、現段階の中国側の行動は、対外的に一方的な統一の既成事実化を迫る水準にはまだ達していないとも説明する。中国国内に対する説明と、台湾に対して威嚇能力を持つことを対外的に示す狙いがあるという。
ただし、国際社会がこれをどう認識するかは別の問題だ。張氏は、中国側が今後も段階的に法執行措置を強化する可能性があるため、台湾の国家安全部門は中国 の動きに対応する戦略と戦術を整える必要があると警鐘を鳴らす。
民主党のナンシー・ペロシ元米下院議長は2022年に台湾を訪問し、北京の強い反発を招いた。中国側はその後、軍用機や艦艇の活動を通じて、台湾海峡の中間線を形骸化させた。(写真/AP通信提供)
中国海警局が米国の対台湾武器輸送を押収する可能性は 張氏によれば、中国海警局は現在、台湾周辺海域を航行する船舶に対し、まずは無線での呼びかけという低強度の措置から始めている。今後、海上での進路妨害や、管制海域の設定要求に発展する可能性もある。最悪の場合、乗船検査に至ることも想定されるが、各段階で台湾に与える影響は大きく異なる。
外部からは、中国の海警局や海巡部門が台湾周辺海域の貨物船に対して乗船検査を行った場合、米国から台湾へ輸送される武器弾薬が押収される可能性はあるのか、との疑問も出ている。
これについて張氏は、乗船検査は最も深刻な段階であり、ほぼ「準戦争状態」に等しいと指摘した。現時点でそこまで発展する可能性は低いとみているが、「仮に乗船検査が行われれば、ある意味では台湾封鎖とほぼ同じだ」と述べた。
張氏はまた、台湾周辺海域を航行する国際船舶に対し、中国側が並走したり、航行警報を発出したりする可能性にも触れた。必要に応じて特定の船舶に差別的な措置を取ることも考えられるという。例えば、事前届出の要求、ドローンや衛星を使った「遠隔での確認」などである。
その上で張氏は、台湾の国家安全部門は中国が段階的に圧力を強める現状を前に、戦略と戦術を根本から見直すべきだと訴えた。国家安全局、国防部、海巡署などの関係機関は横の連携を強化するだけでなく、図上演習やシミュレーションを徹底すべきだという。
中国海警局の船舶が初めて台湾東部海域で法執行を目的とした巡視を行ったことで、台湾周辺海域を「内海化」しようとしているのではないかとの見方も出ている。米国の対台湾武器輸送が中国側に押収される可能性を懸念する声もある。(写真/中国海警局の微信公式アカウントより) 最後に張氏は、「率直に言って、日本とフィリピンが交渉を開始した際の外交部の初動対応は、十分だったとは言い難い」と指摘した。
中国が圧力を強め、グレーゾーンでの行動を拡大する中、国防部、外交部、国家安全局、大陸委員会、内政部などの各部門は、多様なシナリオを想定した対応策を準備する必要があると強調した。
「事態が起きてから対応を協議するようでは、相手に主導権を握られることになる」張氏はそう警告している。