「イランとの合意は完了した。皆さん、おめでとう。私はここに、ホルムズ海峡の全面的な開放を正式に承認し、同時に米海軍による封鎖を直ちに解除する。世界各国の船舶よ、エンジンを始動せよ。石油を自由に流せ」
トランプ米大統領は6月15日未明、SNSへの投稿で、米国とイランが19日に60日間の停戦合意に署名する見通しだと発表した。これにより、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が再開され、米軍によるイラン港湾への軍事封鎖も解除される見込みだ。
約4カ月にわたって続いた米イラン間の軍事衝突は、数千人の死者を出し、世界経済にも大きな打撃を与えてきた。今回の発表は、停戦に向けた重要な転換点となる。ただし、正式な合意文書はまだ公表されておらず、署名も完了していない。停戦の行方にはなお不透明感が残る。
2月末から始まった湾岸危機
今回の衝突は、今年2月末、米国とイスラエルの連合軍がイランに対して大規模な軍事攻撃を行ったことに端を発する。この攻撃では、イラン最高指導者のアリ・ハメネイ師も死亡したとされる。
米側の強硬な軍事圧力に対し、テヘラン当局は予想に反して降伏せず、激しい反撃に出た。イランはペルシャ湾地域の米同盟国に向けてミサイルや無人機を発射したほか、直ちにホルムズ海峡を封鎖した。
ホルムズ海峡の封鎖により、世界の石油・天然ガス輸送の約5分の1が影響を受け、国際原油価格と天然ガス価格は急騰した。ペルシャ湾地域の貿易や観光業にも深刻な影響が広がった。
パキスタンやカタールなどの調停により、米イラン双方は4月8日に初期段階の停戦で合意していた。しかし、実際には戦闘を完全に停止するには至らず、ホルムズ海峡の輸送量も従来の水準には戻っていなかった。
数カ月に及ぶ秘密交渉とトランプ氏の度重なる発言を経て、パキスタンのシャバズ・シャリフ首相もX(旧ツイッター)で、調停国が今週、米イラン双方の「予備協議」を支援し、技術的な詳細や19日の正式署名に向けた調整を進めると明らかにした。
Following intensive talks, we are pleased to announce that the Peace Deal between the United States of America and Islamic Republic of Iran has been REACHED. Both sides have declared the immediate and permanent termination of military operations on all fronts, including in…
— Shehbaz Sharif (@CMShehbaz) June 14, 2026
60日間の暫定停戦、核問題は先送り
第一に、ホルムズ海峡の段階的な再開だ。合意署名後30日以内に、イラン軍は海峡内に敷設した機雷の撤去を担う。その後、海峡の航行が再開される。60日間の停戦期間中、イランは通過する船舶から通行料を徴収しないことも約束したという。
第二に、軍事封鎖の解除と石油輸出の一時的な容認だ。トランプ氏は、米海軍によるイラン港湾の封鎖を直ちに解除することを承認した。関係者が『フィナンシャル・タイムズ』に明らかにしたところによると、米国は60日間の停戦期間中、イランに一時的な石油販売の適用除外を認め、同国が必要な資金を確保できるよう石油輸出を容認する方針だ。
第三に、核問題の先送りである。これは合意の中で最も不安定で、最も議論を呼ぶ部分でもある。イランは合意の中で、「核兵器を追求せず、開発しない」との立場を改めて示し、国際原子力機関(IAEA)の監督下で、既存の濃縮ウラン在庫を国内で希釈することに同意した。
『フィナンシャル・タイムズ』によると、イランは現在9000キログラムを超える濃縮ウラン在庫を保有しており、そのうち440キログラムは兵器級に近い水準にある。米イラン双方は、60日間の停戦期間中に、これらの核物質の処分方法や、米国による対イラン制裁の段階的解除について協議を続けることで一致した。
つまり、核問題をめぐる根本的な対立は解決されたわけではない。今回の合意は、最大の争点を一時的に棚上げし、今後の交渉に委ねるものだ。
イラン、発表をトランプ氏の誕生日後にずらす
今回の交渉では、発表のタイミングをめぐる駆け引きもあった。
6月14日はトランプ氏の80歳の誕生日だった。『ニューヨーク・タイムズ』が匿名のイラン政府高官2人の話として報じたところによれば、トランプ氏はこの外交成果を自身の「誕生日プレゼント」として米国内にアピールするため、14日中の合意成立を強く求めていたという。
しかし、イラン側はその思惑に応じる姿勢を見せなかった。イランの交渉団はカタールの調停担当者が同席する中、テヘランで17時間にわたる協議を続け、合意発表をテヘラン時間の15日未明までずれ込ませた。
トランプ氏、NYT紙に直接電話 停戦合意を自賛
合意発表後、トランプ氏はホワイトハウスの公邸から『ニューヨーク・タイムズ』に直接電話をかけ、28分間にわたって自らの対イラン政策を説明した。同紙によれば、トランプ氏は電話でかなり高揚した様子だったという。
トランプ氏は、今年2月にイランへの軍事攻撃を決断したことについて、強く正当性を主張した。軍事攻撃と海軍による封鎖があったからこそ、「中東の勢力図を再構築」し、米国に有利な方向へ導くことができたと述べた。
「私はイスラエルが核兵器によって完全に消し去られる運命から救った」とも語り、自身の「最大限の圧力」戦略が成果を上げたと強調した。19日にジュネーブで予定される署名式についても、自身の政治キャリアにおける重要な節目になるとの見方を示した。
ただし、中東専門家の間では、こうした自賛には冷ややかな見方もある。米イラン関係の決定的な悪化を招いた発端の一つは、トランプ氏が第1次政権時にイラン核合意(JCPOA)から一方的に離脱したことにあるためだ。
イスラエルの空爆で交渉破綻の懸念も
『ニューヨーク・タイムズ』は、今回の米イラン合意が土壇場で頓挫する可能性もあったと指摘している。交渉を揺るがしたのは、イスラエルによるレバノン空爆だった。
米国とイランが合意に近づいていた数時間前、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、レバノンの首都ベイルート南郊に対する大規模空爆を命じた。イスラエル側は、親イラン武装組織ヒズボラによるイスラエル北部への無人機攻撃への報復だったと説明している。
この空爆により、和平交渉が決裂するのではないかとの懸念が国際社会に広がった。しかし、イスラエル政府高官2人によると、結果的にはこの危機が最終文書の取りまとめを急がせることになったという。
一報を受けたトランプ氏は、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」でネタニヤフ氏を批判した。イスラエルが受けた攻撃は「極めて小規模で意味のないもの」だったとし、和平合意を壊しかねない大規模空爆で応じるべきではなかったと主張した。
「我々はこの地域、レバノンを含む地域に平和をもたらす合意に極めて近づいている。全員が一歩引くべきだ」とトランプ氏は投稿した。さらに「これは長く美しい平和の始まりかもしれない。誰も台無しにしてはならない」と警告し、イスラエルに対してレバノン領内の「いかなる場所」への攻撃も控えるよう求めた。
『ニューヨーク・タイムズ』の分析によれば、イスラエルは米イラン交渉の当事者ではないものの、停戦合意は「すべての戦線での軍事行動の即時停止」を求めており、その中にはイスラエルとヒズボラの衝突も含まれる。
イスラエル国内では、この合意に対する反発が広がっている。左派から右派まで幅広い政治勢力が、イスラエルを事実上蚊帳の外に置いたまま進められた合意に不満と懸念を示している。米イスラエル同盟に表面化した亀裂は、今後の停戦履行に影を落とす可能性がある。
原油先物は急落、米株先物は上昇
米イラン合意のニュースが伝わると、原油市場は直ちに反応した。
『フィナンシャル・タイムズ』と『ブルームバーグ』のリアルタイムデータによると、国際指標となる北海ブレント原油先物は日曜夜の取引開始後に急落し、約4%安の1バレル=83.92ドルを付けた。米国産WTI原油先物も5%超下落し、1バレル=80.25ドルとなった。
一方、米株価指数先物は上昇した。S&P500種株価指数先物は0.7%高、ナスダック100指数先物も0.8%高となった。
停戦合意は、ホルムズ海峡の再開と原油供給の安定化に向けた一歩となる。しかし、核問題、対イラン制裁、イスラエルとヒズボラの衝突など、多くの火種は残ったままだ。60日間の停戦が恒久的な和平への足がかりとなるか、それとも次の対立までの猶予にとどまるかは、今後の協議に委ねられている。