ロシア・ウクライナ戦争から中東における米国・イスラエルとイランの戦争まで、無人機(ドローン)は劣勢側が優勢側に対抗し、戦局を左右し得る重要な兵器であることが証明されてきた。2026年の台湾軍事演習「漢光42号演習」でも、ドローン作戦は重要な演習項目の一つとなった。しかし、無人システム関連条例案をめぐる立法院での与野党協議は、いまだ結論に至っていない。
近年、台湾軍と民間の軍需企業は新たな戦闘の潮流に対応し、ドローン分野に多額の資源を投入してきた。ただ、台湾の軍需産業は攻撃用ドローンの開発では大きな成果を上げている一方、対ドローン技術ではいまだ突破口を開けていない。
2025年初めに陸軍の固定式対ドローンシステムの入札案件を落札した創未来科技は、機材の納入後、性能検査と再検査を3回連続で通過できず、軍当局は契約解除の手続きに入ることを決めた。これは台湾軍の対ドローン戦力構築の日程を遅らせるだけでなく、国産対ドローンシステムの開発が重大な挫折に直面したことを意味する。
台湾軍が構築を計画している対ドローンシステムは、固定式、車載移動式、個人携行式の3種類に分かれる。創未来科技が受注したのは、金門・馬祖、澎湖などの離島や台湾本島の軍事拠点に配備する固定式システムで、陸軍は総額9億8781万台湾元の予算を投じ、同社が開発した26セットを調達する計画だった。
ある軍関係者によると、陸軍が定めた合格基準は、低空で接近する小型ドローンを6キロ先で探知し、4キロ先で複数の来襲ドローンに対して信号妨害を行い、阻止に成功することだったという。ロシア・ウクライナ戦争におけるドローン戦の実例に照らせば、この性能基準は実戦のニーズに即したものだったが、創未来科技のシステムはそれでも基準を満たせず、国防部は契約を解除し、再入札に踏み切らざるを得なくなった。
ロシア・ウクライナ戦争や米国・イラン戦争を経て、ドローンは非対称戦における重要な兵器であることがすでに実証されている。写真はドローンを飛行させる準備をするウクライナ兵。(資料写真/AP通信)
中国軍ドローンへの対処成否 台湾軍の戦力温存を左右 野党の議員は創未来科技について、この新興中小企業には与党・民進党寄りの背景が色濃く、技術力も十分ではないのではないかとの疑問を呈してきた。
ただ、こうした政治的な疑問をひとまず脇に置き、現在の対ドローン技術の発展状況だけに目を向けると、軍事情勢に詳しい関係者は率直に、米国や欧州、イスラエルといった軍事大国でさえ、微小型の自爆型ドローンを効率的に迎撃する方法をなお模索している段階だと指摘する。
この関係者は、中国がドローン分野で紛れもない超大国であり、人民解放軍が長年にわたりドローン作戦に力を注いできたと強調する。台湾海峡での防衛作戦において、中国軍のドローンにいかに対処できるかは、台湾軍が戦力を効果的に温存し、台湾が持久戦に耐えるレジリエンスを維持できるかどうかを左右するという。
そのため、台湾軍が対ドローン戦力を構築する際には、技術の先進性や華やかな機能よりも、システムの信頼性と実効性を追求することの方がはるかに重要だとする。方向性を誤り、役に立たない装備を大量に調達すれば、戦時には壊滅的な代償を払うことになるという。
同関係者によると、対ドローン手段は「ソフトキル」と「ハードキル」の2つに大別され、合理的な資源配分では両方をバランスよく組み合わせる必要がある。しかし、台湾軍は現状、ソフトキルに偏りすぎているようだという。
これは米軍がソフトキル方式を特に好む影響を受けている可能性があるが、実際にはソフトキル路線がすべての国に適しているわけではない。特に資源の限られた軍隊がソフトキル技術の開発・運用に固執すれば、労多くして功少なく、最終的には多額の費用をかけても効果を得られない恐れがあると指摘する。
中国はドローン分野ですでに世界有数の大国となっている。写真は中国DJI製ドローン「Inspire 1」を操作する米国の消防隊員。(資料写真/AP通信)
ドローン攻撃は容易 飽和攻撃への防御は難度高く この関係者によると、ドローンの攻撃と防御は極めて非対称だという。
FPVドローンや徘徊型弾薬(ロイタリング・ミュニション)といった微小型攻撃ドローンは、開発・生産・改良のコストが極めて低く、ソフトウェアの修正やファームウェアの追加だけで、自動航法、画像認識、周波数ホッピングなどの機能を持たせることができる。これだけでも、防御側が巨費を投じて開発した対ドローンシステムを無力化するには十分だという。
一方、ドローンを効果的に阻止するには、まず低空で接近する飛行物体を事前に発見・探知し、それが微小型ドローンなのか、それとも鳥なのかを見極める必要がある。そのうえで初めて、ドローンの周波数帯の信号を探知し、電磁妨害を行うことができる。
しかし、現在の商用・軍用ドローンの多くは高速の周波数ホッピング機能を備えており、妨害速度が追いつかなければ対ドローンシステムは機能を失い、逆に攻撃用ドローンの標的にされかねない。
さらに、現在はますます多くの微小型攻撃ドローンが、自律航法や事前に設定した飛行ルート、画像認識などによって飛行している。目標を捕捉して攻撃する際に外部からの信号を受信しない場合、電磁妨害を行う余地はない。
ロシア・ウクライナの戦場で使用されている光ファイバー式攻撃ドローンについても、信号の伝送に物理的な光ファイバーを使うため、電磁妨害は完全に無力となる。
攻撃側はさらに、多数のドローンを投入して飽和攻撃を仕掛けることもできる。そうなればソフトキル型対ドローンシステムは対応しきれず、防衛線を容易に突破され、標的への攻撃を許すことになるという。
軍事情勢に詳しい関係者は、ドローンをめぐる攻撃と防御は極めて非対称だと指摘する。写真は中国人民解放軍の大型ドローン。(資料写真/AP通信)
米国の高性能ソフトキルシステム 中国軍の大量ドローンに対応できるのか ソフトキル路線を採用した国産の固定式対ドローンシステムが成功しなかったにもかかわらず、軍当局は車載移動式対ドローンシステムの構築方針を見直すには至っていないようだ。
公開されている情報によると、国防部は2026年度から2028年度の特別予算を投じ、米国製の携行型対ドローンシステム635セットを調達する計画だという。
総額約96億7000万台湾元に上るこの調達案件は、1セット当たりの平均単価が1523万台湾元に達し、陸海空軍と資通電軍に配分される。
この防御システムは、典型的な米国製装備にみられる高性能・高価格志向の設計で、先進的なソフトキル技術を基盤としている。受動探知距離4キロ、360度全方位防護、能動妨害距離2キロ超という性能に加え、同時に10以上の低空目標を妨害できるほか、敵ドローンの制御を強制的に奪う能力も備えるという。カタログ上の性能や仕様だけを見れば、高額であるだけの理由があるようにも見える。
関係者によると、このソフトキル型対ドローンシステムは、最近台湾軍や軍需産業との関係を深めている米シリコンバレー発の新興国防企業アンドゥリル(Anduril)が供給するものとみられる。
台湾軍はすでに同社からALTIUS-600M対装甲ドローン291機を購入しており、今後、同社の先進的な対ドローンシステムを追加導入するのも十分に考えられるという。
アンドゥリルの創業者パルマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏は広報手腕の高さで知られ、派手なプレゼンテーションや、AIがドローン群を迎撃する特殊効果映像を駆使して自社製品を宣伝することに長けている。
同社がドローン戦のために開発し、高性能をうたう戦場管理プラットフォーム「Lattice AI」は、台湾軍が導入に強い関心を示しているだけでなく、米軍もすでに調達し、戦場での試験に投入しているという。
ある軍関係者によると、台湾国防部が100億台湾元規模の予算を投じ、アンドゥリル社のドローン用ソフトキルシステムを導入しようとしていることについて、軍内部では異論も少なくない。
理由は、この高性能システムが高額すぎるだけでなく、対ドローン能力にも大きな疑問があり、さらに重要なのは台湾海峡の戦場に必ずしも適しているとは限らない点にあるという。
同社が強調する妨害・制御奪取の中核能力は、主にデータベースとのリアルタイム照合によって、来襲する自爆型ドローンの周波数信号を解析するものだとされる。
米シリコンバレー発の新興国防企業アンドゥリル(Anduril)は、台湾軍との関係を深めている。写真は顧立雄国防部長(国防相)にドローンの模型を贈るアンドゥリル創業者のパルマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏(左)。(資料写真/台湾国防部提供)
先進的に見える米国製装備にも弱点 100億台湾元超の維持整備費も 米国製の携行型対ドローンシステムの購入に強く反対する軍関係者は、米国製システムは単価が高すぎるため、台湾軍が購入できる数量は必然的に限られると指摘する。
仮に最初の635セットの調達を終えた後、意思決定を担う上層部が数百億台湾元を追加し、さらに2000~3000セットを調達したとしても、各軍種に配分される数量では、台湾全土のレーダー基地、空港、自走砲、ミサイル発射車両など、数多くの作戦資産を十分に防護するには足りないという。
さらに、仮にアンドゥリル社の高価な対ドローンシステムがうたう「1セット当たり探知距離4キロ、能動妨害距離2キロ」という性能が事実だとしても、防護面積に換算すればわずか12.5平方キロメートルにすぎない。台湾海峡全体の戦場に配置しても、「点防御」の効果しか得られないという。
中国軍が大中小さまざまなタイプのドローンを何千機も投入してくれば、一見先進的なソフトキル型対ドローンシステムは、システムでカバーできない防御の穴から大量に流れ込むドローンの飽和攻撃に飲み込まれ、機能を失うことになると指摘する。
この軍関係者は、数百億台湾元をかけてこうした「見かけ倒し」の対ドローン装備を購入したうえ、さらに100億台湾元を超える維持整備費まで負担することになれば、台湾軍が割を食う格好になり、米政府を喜ばせ、軍需企業の懐を潤す以外には、台湾軍の対ドローン戦力構築にさほど役立たないと批判する。
軍事情勢に詳しい関係者も、米国のドローン作戦の発想は依然として多額の資金を投じ、華やかな機能を積み上げるものであり、ロシアやウクライナのように、効果的に敵を殺傷し、生存を優先する実戦の論理とは異なると懸念を示す。
アンドゥリル社が高性能をうたうドローン用ソフトキルシステムを冷静に検証すれば、その機能がいかに強力であっても、ウクライナの戦場で広く使用されている光ファイバー式自爆型ドローンに遭遇した場合、どれほど高度な電磁妨害・制御奪取能力を持っていても、信号を一切捕捉できず、すべてが無力化されてしまうという。
こうした高性能システムの防護に頼るミサイル車両や陣地は、その時にはドローンが突入してくるのをただ見ているしかなく、破壊されることになると指摘する。
さらに厄介なのは、いったん最初の予算を投入して高価な米国製システムを採用すれば、米国の技術路線を受け入れたことに等しくなり、その後は抜け出せなくなる可能性がある点だという。他の固定式や個人携行式の対ドローンシステムについても、結局すべて米国製装備を調達せざるを得なくなる恐れがある。
米軍は世界で最も兵員の生命を重視する軍隊であり、これまでドローン作戦を重視してこなかった弱点を補うため、戦闘員一人ひとりに個人用の生存装備を整えるべく巨額の資金を投じている。
米軍やNATO部隊が採用を計画する「Flytrap(フライトラップ)」構想では、前線の兵士や分隊・小隊級部隊に個人携行型の対ドローン装備を配備する計画で、自爆型ドローンの接近を警告する個人装着型検知器、バックパック式・手持ち式の電磁妨害銃、スマート照準支援スコープなどが含まれる。1個分隊に最低限必要な装備をそろえるだけでも、少なくとも12万ドルの費用がかかるという。
台湾のドローン戦略では、巨額の資金を投じて高度な機能を積み上げる米国型の路線を取るのか、それともロシアやウクライナのように、効果的な攻撃と生存を優先する実戦重視の路線を選ぶのか、慎重な検討が求められる。写真はドローン妨害銃。(資料写真/蘇仲泓撮影)
高価な先端装備の調達 「非対称戦」の原則に逆行する罠 台湾軍が米側から米軍と同等の防護基準への準拠を求められた場合、開戦初期に動員可能な常備・予備役兵力を約10万人、1個分隊を10人として計算すると、1万個分隊となり、総支出は12億ドル、台湾元に換算して約380億元に達する。
軍事情勢に詳しい関係者は、この金額はあくまで装備そのものの購入費用であり、検知器や妨害銃の予備バッテリー、ソフトウェア・ハードウェアの保守更新、部品補充などの費用は含まれていないと強調する。こうした資金力に物を言わせる支出のやり方は、台湾の限られた国防予算では到底負担できないという。
作戦区司令官を務めた経験を持つ退役将官も、台湾軍のドローン攻防はウクライナのような低コストで生存を優先するモデルを取るべきであり、米国型の高性能・全面制圧路線を追うべきではないと考えている。
もちろん、高価な米国製装備を購入して自衛への決意を米側に示し、米国の軍需企業に利益をもたらすことは、一定程度避けられないという。実際、台湾軍はすでに極めて高価なMQ-9B「シーガーディアン」ドローンを調達し、ALTIUS-600M対装甲ドローンも相当数を購入している。
ただし、導入する米国製システムはこうした高額な先端装備に限定すべきであり、台湾軍将兵の生命を守る携行型対ドローン装備など、その他の分野では米軍の路線に追随すべきではないとする。
そうしなければ、ドローン戦において、高価で数の少ない対ドローンシステムで、中国軍の安価で大量の自爆型ドローンに対抗するという、非対称戦の原則に逆行する罠に陥りかねないという。
台湾軍は高額なMQ-9B「シーガーディアン」無人機をすでに調達している。写真は米国で行われた最初の2機の引き渡し式典に出席した徐斯倹・国防部副部長(左から2人目)。(資料写真/台湾国防部提供)
台湾の科学技術水準なら 短期間でハードキル装備の開発も可能 この退役将官によると、ウクライナ軍とロシア軍が行う対ドローン作戦はいずれも、ソフトキルとハードキルの両方を組み合わせている。
ソフトキルについても、数キロ先で来襲ドローンを発見・妨害するといった非現実的な性能を追求してはいないという。
例えばウクライナ軍の個人携行型対ドローン装置「Olga(オルガ)」は、単価200ドルにも満たない安価な民生用センサーチップを使用し、ドローンが数百メートルまで接近した段階で、速やかな退避や防御行動を促す警告を発する仕組みだ。
ハードキル手段については、レーダーや光学誘導式の速射砲がより広い範囲のドローン防御に用いられる一方、兵士個人には半自動式散弾銃や低コストのネット銃が多く配備されている。
ウクライナの戦場での実戦経験によれば、散弾銃はFPVドローンや光ファイバー式ドローンへの対抗手段として効果が高いといい、台湾軍が各分隊に散弾銃やネット銃を2、3丁配備できれば、費用はさほどかからない一方、いざという時には兵員の生命を救い、重要な作戦装備の保全にも役立つ可能性があるという。
軍関係者は、米国が進めるドローン用ソフトキルシステムについて、台湾として技術蓄積のために参画を目指し、サプライチェーンに加わって商業的利益を得る努力をするのは当然だとする。
ただし、こうした高性能な米国製システムを台湾海峡の戦場で使用する場合、コストパフォーマンスは高くないという。低強度の衝突であれば数機のドローンの侵入には何とか対応できる可能性があるものの、戦時に大規模な飽和攻撃を受ければ、機能不全に陥り、ただの飾り物と化す可能性が極めて高いと指摘する。
台湾軍としてはむしろ予算を、高出力レーザー、高発射速度の近接防御機関砲、ドローン群に対応できる高出力マイクロ波(HPM)兵器といった物理的なハードキル手段の開発に投じる方がよいという。
台湾の科学技術水準であれば、短期間で性能の良いハードキル装備を開発することも、前線の兵士に安価な警告装置や散弾銃を配備することも難しくないはずだとしている。
あとは、軍当局の責任者が対ドローン戦力の構築において明確な判断力を持ち、米側からの圧力に耐える覚悟を持って、正しい選択をし、正しい道を進めるかどうかにかかっているという。