長崎原爆式典、台湾代表の席次めぐり波紋 李逸洋氏が欠席、日本人記者「政治利用には疑問」 李逸洋・駐日代表は、長崎の原爆平和祈念式典での座席配置が台湾の地位をおとしめるものだとして抗議した。日本政府は一連の対応に「非常に怒っている」とも伝えられ、今後の日台関係への影響が注目される。(資料写真/顔麟宇撮影)
長崎市で8月9日に行われた原爆の平和祈念式典で、台湾の駐日代表を務める李逸洋氏の席が、各国大使ら外交使節団の区画の外に用意されていたことがわかった。李氏はこれを「台湾の国としての地位をおとしめるものだ」として式典を欠席したうえ、SNSや声明で長崎市側への抗議を表明した。これに対し、台湾在住の日本人ジャーナリストからは、犠牲者を悼む厳粛な場のあり方として疑問の声も出ている。
原爆の日と平和祈念式典 1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下され、多数の市民が犠牲になった。3日後の8月9日には長崎にも原子爆弾が投下され、両市を合わせて年内だけで20万人以上が亡くなったとされる。以来、広島・長崎両市は原爆の日にあたる8月6日と9日に、犠牲者を悼み恒久平和を祈念する式典をそれぞれ開いており、長崎では毎年、平和公園で式典が行われている。
2026年8月9日、長崎市の平和公園で原爆投下から81年となる平和祈念式典が行われ、平和祈念像の上空をハトが飛んだ。(AP通信)
式典の経緯 長崎市は今回、台湾代表の席を外交使節団の区画とは別の「海外席」に設けた。これについて李逸洋氏は声明で、長崎市の対応を「中国寄りだ」と批判し、席次の扱いは台湾の主権と尊厳を軽視するものだと主張した。李氏は、去年は式典に初めて参加する機会を得たことを重んじ、同様の席次であっても出席したと説明している。
李氏はさらに、今回の席次について、これまで台湾が日本各地の行事に参加してきた中でも例のない扱いだとしたうえで、こうした対応が結果として「台湾に国家としての地位や主権はない」とする中国側の立場を後押しすることにつながりかねないとの懸念も示した。
「なぜ政治問題化するのか」現地記者が疑問 台湾在住のジャーナリスト、本田善彦氏は取材に対し、犠牲者を悼むことと個人の政治的立場を発信することは本来別の問題だと指摘した。本田氏によると、長崎の式典は伝統的に日本と正式な外交関係を持つ国の代表を招く形で行われてきており、台湾の代表部はもともと招待対象ではなかったという。そのうえで台湾側の参加自体は歓迎すべきことだとしつつ、主催者側が決めた席の配置に異を唱えて式典そのものを欠席する対応には、儀礼の観点から疑問が残ると述べた。
本田氏はまた、式典には中国側の代表も出席していなかった点を挙げ、「二つの中国」や「一中一台」といった構図をめぐる懸念を、この場で持ち出す必要が本当にあったのか疑問だとの見方を示した。
2026年8月9日、長崎市の平和公園で、原爆投下から81年を迎え黙とうする人々。(AP通信)
長崎市長と高市首相、姿勢の違いは 長崎は原爆被害を受けた土地として「非核三原則」を重視する一方、高市政権では核兵器を「持ち込ませず」とする原則をめぐり、従来より柔軟な議論が出ているとした。ただし、日本政府が維持する「一つの中国」の原則そのものに変更はなく、今回の席次も長崎市がその原則に沿って決めたものだという見方を示した。
長崎市の鈴木史朗市長。(鈴木史朗・長崎市長のXより) 早田氏はまた、台湾側が式典への参加を求めたのは去年の被爆80年が初めてで、席の扱いは去年・今年とも同じだったと説明した。去年は初参加だったため受け入れたが、今年は同じ扱いを拒むという李氏側の説明には理解しづらい面があるとも述べた。そのうえで、原爆の犠牲者を悼み世界の恒久平和を祈るための式典は、本来、政治的な主張の場ではないはずだとし、台湾の立場にかかわらず、この機会を政治的なアピールに用いることには慎重であるべきだとの考えを示した。
日本政府内に不快感か 台湾と日本の関係に詳しい関係者は、李逸洋氏の今回の対応について、日本政府内に強い不快感があると明らかにした。外交儀礼をわきまえるべき立場の外交官としてふさわしい行動ではないとの受け止めがあり、今後の台日関係に影響を及ぼしかねないとの見方も示されている。
対日関係に携わった元高官は非公式に、日本政府が李逸洋氏の一連の対応に「非常に怒っている」と明かした。写真は2026年8月9日、長崎市の平和公園で行われた原爆投下から81年の平和祈念式典であいさつする高市早苗首相。(AP通信)
「悲劇はまだ終わっていない」 本田氏は、広島で被爆した経験を持つ漫画家・中沢啓治さんの反戦漫画「はだしのゲン」を例に挙げた。この作品は台湾でも中国語版が出版されており、本田氏自身、中沢さんの妻が台湾を訪れた際に通訳として同行し、台湾の反核運動関係者との交流に立ち会った経験があるという。その経験を踏まえ、日本における反核運動の根底には、核兵器そのものへの反対だけでなく、再び戦争の惨禍を繰り返したくないという強い思いがあると説明した。
1945年8月9日、米軍が長崎に2発目の原子爆弾を投下した後、立ち上る巨大な煙柱。(AP通信)
そのうえで本田氏は、台湾の国際的地位や両岸関係が台湾にとって重い課題であること自体は理解できるとしながらも、原爆投下から81年が経った今も後遺症に苦しむ被爆者やその家族がいる中、犠牲者を悼む式典の場に台湾海峡をめぐる政治的な対立を持ち込むことについては、慎重であるべきではなかったかとの考えを示した。
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