【書評】野島剛『野球與棒球』(上)――受け継がれるDNAと台湾野球自立への歩み

野島剛『野球與棒球』は、嘉義農林から王貞治、そして現代の自立へと至る百年の歩みを通じ、日台を繋ぐ野球のDNAを浮き彫りにした。(写真/鍾巧庭撮影)
野島剛『野球與棒球』は、嘉義農林から王貞治、そして現代の自立へと至る百年の歩みを通じ、日台を繋ぐ野球のDNAを浮き彫りにした。(写真/鍾巧庭撮影)

2024年11月、台北ドームに響き渡った歓声は、単なるスポーツの勝利ではなかった。それは台湾が長年の歴史的呪縛から解放され、新たなステージへと踏み出した「分水嶺」とも言える瞬間だった。野島剛氏の著書『野球與棒球』において、この劇的な勝利を、台湾が日本式の模倣から独自の「棒球(ベースボール)」へと進化し、ついに本家を超越した歴史的転換点として位置づけている。本書が示す通り、台湾において野球は常に政治と結びつき、統治者の道具であると同時に民衆の抵抗の象徴でもあった。​

本書は、ジャーナリストである野島氏が10年に及ぶ取材を経て、日本統治時代から2024年の世界一に至るまでの日台野球交流の百年に光を当てた一級のノンフィクションである。グラウンドの赤土に記憶された歴史を紐解き、野球がいかにして政治や国境を超え、両国民の精神的な絆を形作ってきたかを鮮やかに描き出している。

KANOから始まる日台野球史の原風景

物語の起点は1931年の嘉義農林(KANO)にある。著者はこれを日台野球史の「原風景」と定義した。当時、日本統治下における「一視同仁(すべての人を差別せず、同じように公平に扱うこと)」の成功例と見なされたが、その背後には同化政策の意図があり、野球は日本精神を注入する教育装置でもあった。しかし、差別が交錯する時代の中で、少年たちが民族の壁を越えて白球を追った純粋な熱狂は、今も両国のベースボールの根底に流れている。

1945年の断絶を経ても、台湾に根付いた野球の作法が生き残った事実は極めて示唆に富んでいる。第二章が語るように、マウンドでの一礼や道具を大切にする心といった身体的記憶は、権力の介入を拒む文化の深層として受け継がれた。野球は台湾人にとって規律と倫理を学ぶ「道場」であり、激動の時代を繋ぐ精神的な架け橋であったことが浮き彫りになる。

「国球」へと飛躍する過程と王貞治の存在

第三章では、野球が「国球」へと飛躍する過程が描かれる。1968年の紅葉少棒の勝利は、外交的孤立に直面した国民党政府によってナショナリズムを鼓舞する素材として政治利用された。一方、同章の白眉である王貞治氏に関する論述では、日台の狭間に生きる世界の本塁打王が台湾野球界に与えた影響力と、アイデンティティの葛藤を超越した野球人の矜持に焦点が当てられている。

そして物語は、再び2024年の世界一へと収束する。最終章が示す通り、現代の代表チームは日本の精緻な技術、アメリカのパワー、そして原住民の奔放な身体能力を融合させ、独自の「棒球(ベースボール)」へと昇華させた。日本というかつての「師」を打ち破ったことは、台湾が対等なパートナーとなったことを証明し、植民地支配と権威主義を乗り越えた「国家の成熟」を象徴している。

編集:小田菜々香

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