【コラム】台湾・台北市長選の「洋流」は自然発生か 沈伯洋氏本人の認知戦理論から読み解く選挙動員

民進党主席の頼清徳総統は4日午後、同党の台北市長候補、沈伯洋氏の選挙対策本部設立集会に出席し、沈氏こそ首都市長に最もふさわしい候補だと支持を訴えた。(中央通信社)
民進党主席の頼清徳総統は4日午後、同党の台北市長候補、沈伯洋氏の選挙対策本部設立集会に出席し、沈氏こそ首都市長に最もふさわしい候補だと支持を訴えた。(中央通信社)

「洋流」(オーシャン・カレント)とは本来、さまざまな力によって生じる海水の持続的で大規模な流れを指し、その土地の気候をも変える力を持つ。だが、2018年の台湾・高雄市長選で韓国瑜氏が中間層や「物言わぬ多数派」を掘り起こした「韓流」ブーム以降、こうした「現象型」の選挙モデルは、多くの候補が意識するものとなった。今年の台湾・台北市長選に出馬する民進党の沈伯洋氏も例外ではない。

「洋流」は、沈氏の名前の「洋」と「流れ」をかけた造語で、沈氏を取り巻く支持の広がりを指す言葉として使われている。

だが、メディア関係者であれ、政治・国際問題の観察者であれ、社会科学の研究者であれ、今年の台北市長選で政治的な「洋流」が本当に起きているのかについては見方が分かれている。

この興味深い問いについて、筆者の古い友人で、現在米国に住むベテラン技術者が、専門的な立場から人工知能(AI)ツールを使って公開資料を調べたうえで、見解を寄せてくれた。本人は名前を明かすことを望まないため、その了解を得て、ここで考察を紹介したい。

沈伯洋氏の理論を学ぶ

2026年の統一地方選は、投票まで2カ月を切った。今回の台北市長選は、2028年の総統・立法委員選挙の「前哨戦」とも位置付けられている。

民進党の沈伯洋候補をめぐる政治的な熱気には最近、「洋流」という名前がついた。一方、沈氏は台湾で「政治動員がいかに作られるか」を研究してきた学者でもある。2021年には台湾で最も体系的な「中国の認知戦」に関する研究論文を発表し、同じ年に民間防衛教育団体「黒熊学院」を創設。2024年には『打台湾不如騙台湾(台湾を攻撃するより台湾をだませ)――中国の対台湾認知戦Q&A』も出版した。

つまり、かつて他人に「政治動員」の構造をどう読み解くかを説いてきた人物が、今回の選挙では別の「政治動員」の中心に立っていることになる。

筆者の友人は沈氏の過去の学術著作を丹念に読み込んだうえで、沈氏が2022年にテレビ番組で語った率直な発言も見つけ出した。

「内容は実は私たちが最も気にしないものだ」

「私たちが見るのは、それをあなたが発信したかどうかだけだ」

「これらの要素のうち、最も重要なのは経路だ」

平たく言えば、ある情報が本当かうそかにこだわる前に、それがどのような経路で自分の目の前まで届けられたのかを見るべきだ、ということだ。

沈氏の研究によれば、情報を届ける経路は三つの「流れ」に分けられる。

心から信じ、無償で「拡散を手伝う」人たちは「人流」だ。沈氏は「SNSを武器化するのではなく、人を武器化する」と表現している。

金銭を受け取って動く側は「金流」。普段からチャンネルを運営し、まず視聴者の信頼を育てておくのが「資訊流(情報の流れ)」で、沈氏は「いったん信頼が形成された後、その経路を通じて伝える」と説明している。

一つは、「最も防ぎにくい攻撃」は、内容に一言も「うそ」がないものだということだ。多くの物議を醸す情報はフェイクニュースではなく、「認知の枠組みを伴ったナラティブ(物語)」だからだ。

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