米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト(USS Theodore Roosevelt、CVN-71)」は9月27日、カリフォルニア州サンディエゴを出港し、太平洋を横断している。しかし、その目的地はインド太平洋ではなく中東だ。
日本の横須賀基地を母港とする空母「ジョージ・ワシントン」が8月に中東へ派遣されて以来、西太平洋には米空母が1隻も常時展開していない。今回、ルーズベルトも西太平洋を通過して中東へ向かう見通しで、この「空母の空白期間」は少なくともさらに2カ月以上続くことになる。
イランとの戦闘が8カ月目に入る中、米軍の空母はインド太平洋と中東の間で相次いで配置を変更している。「エイブラハム・リンカーン」は南シナ海から中東へ転用され、300日を超える展開を経て帰還の途についた。「ジョージ・ワシントン」も横須賀を離れ、「ジョージ・H・W・ブッシュ」はアラビア海での任務を終えてタイへ向かった。
米空母は西太平洋を行き来しているものの、同海域にとどまる空母はない。
2026年の第30回環太平洋合同演習(リムパック)に参加するため、ハワイ・真珠湾に停泊した米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」。格納庫甲板には大型の星条旗と、同艦の愛称「The Big Stick(大きなこん棒)」と書かれた旗が掲げられている。(中央通信社)
第3の空母打撃群を派遣、9千~1万人を増派 米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が10月1日に報じたところによると、米戦争省(旧国防総省)は第3の空母打撃群を中東へ派遣し、水陸両用艦艇を含めて同地域に9,000~1万人を増派する計画だ。すべての艦艇、航空機、将兵は11月末までに到着する予定とされる。
中東の衛星テレビ局『アルジャジーラ』も米当局者の話として、同様の内容を報じた。中東にはすでに約5万人の米軍が駐留している。
米軍事メディア『タスク・アンド・パーパス(Task & Purpose)』によると、ルーズベルトは2月28日の開戦以来、対イラン作戦に投入される5隻目の空母となる。乗組員らには、少なくとも8カ月は帰宅できない想定で準備するよう伝えられているという。
ルーズベルト空母打撃群(第9空母打撃群)は計5隻で構成され、ミサイル巡洋艦「チョーシン(USS Chosin)」とミサイル駆逐艦3隻が加わる。
その翌日には、「マキン・アイランド(USS Makin Island)」水陸両用即応群もサンディエゴを出港し、第13海兵遠征隊の海兵隊員2,000人以上を乗せて展開を開始した。
2026年の第30回環太平洋合同演習(リムパック)に参加するため、ハワイ・真珠湾に停泊した米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」。飛行甲板には主力艦載戦闘機F/A-18「スーパーホーネット」が並ぶ。(中央通信社) 『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、ドナルド・トランプ米大統領は最近、11月3日の中間選挙後にイランへの爆撃を再開することを検討していると側近に語ったという。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』もトランプ氏の発言として、満足のいく合意が得られなければ、イランへの攻撃を強化する「可能性がある」と伝えている。
一方、『アルジャジーラ』は米戦争省とホワイトハウスの情報筋の話として、今回の増派は外交交渉がどのような結果になっても、トランプ氏が軍事的な選択肢を維持できるようにする狙いがあると報じた。
ピート・ヘグセス戦争長官は、部隊はすでに「準備ができている」と述べたが、米戦争省は現時点で攻撃再開を正式には発表していない。
日本メディアの多くは、今回の増派を「イランへの圧力」と「選挙後の再攻撃」という文脈で報じている。
時事通信社は10月2日、「米国が第3の空母を中東へ派遣、中間選挙後にイラン再攻撃の可能性」と報道。『読売新聞』もルーズベルトを見出しに掲げ、中間選挙後にトランプ氏がイランを再び攻撃する可能性を伝えた。
ただ、米軍事メディア『ザ・ウォー・ゾーン(The War Zone、TWZ)』は、ルーズベルトの任務はジョージ・ワシントンを交代させることにあると強調している。
仮に米空母3隻が一時的に中東へ集中しても恒常的な態勢ではなく、交代が完了すれば2隻規模に戻るとの見方を示していた。
その後、ジョージ・H・W・ブッシュはアラビア海を離れ、10月4日にタイ南部のプーケットへ寄港した。現時点でイランをめぐる戦闘地域に展開していることが確認されている米空母は、ジョージ・ワシントンとなっている。
米空母はどこへ向かうのか
エイブラハム・リンカーン:南シナ海から中東へ、300日超の展開を経て帰還 空母「エイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln)」は2025年11月に出航した。当初は南シナ海へ向かう予定だったが、中東での作戦支援のために配置を変更された。
9月上旬には洋上で286日間を過ごした後、補給のためタイに寄港し、一時的にインド太平洋へ戻ったが、その後、帰還が決まった。
TWZの集計によると、9月30日時点でリンカーンの展開期間は314日に達し、ハワイ近海から東へ向かい、サンディエゴへ帰還中だった。空母「ジェラルド・R・フォード」が記録した326日に2週間弱まで迫る長期展開となった。
共同通信社は9月末、今回の展開中に乗組員による自殺未遂が8件発生したと報じた。
2026年9月2日、タイ東部チョンブリ県のレムチャバン港への入港を控える米海軍の原子力空母「エイブラハム・リンカーン」。(AP)
ジョージ・ワシントン:唯一の前方配備空母も西太平洋を離脱 「ジョージ・ワシントン(USS George Washington)」は、米海軍唯一の前方配備空母で、通常は横須賀を母港としている。
8月中旬に横須賀を出港し、時事通信社は8月21日、帰還予定のリンカーンを交代させるため中東へ入ったと報じた。
ルーズベルトが11月末までに到着して任務を引き継いだ後に帰還する見通しで、航程を考慮すると、横須賀への帰港は早くても年末前後になる。
横須賀を母港とする米海軍の原子力空母「ジョージ・ワシントン」。(2025年7月10日、楊舒媚撮影)
ジョージ・H・W・ブッシュ:中東を離れ、タイ・プーケットへ 同艦はその後もアラビア海で中東作戦を支援していたが、10月4日にタイ・プーケットへ寄港した。中東で約5カ月にわたり任務に就いた後、アラビア海を離れた形となる。
2026年3月31日、米バージニア州のノーフォーク海軍基地を出港する米海軍の原子力空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」。(AP)
ロナルド・レーガン:大規模改修を終え艦隊復帰、サンディエゴへ かつて横須賀を母港としていた「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan)」について、TWZは9月23日、大規模改修を終えて艦隊に復帰したと報じた。
同艦は9月30日にワシントン州ブレマートンを出港し、10月5日にサンディエゴへ到着した。ただ、大規模改修を終えてから実戦配備可能な状態に戻るには一連の訓練や認証が必要で、現時点で短期間のうちに西太平洋へ展開するとの情報はない。
空母 母港 最新位置 今後の動向 セオドア・ルーズベルト(CVN-71) サンディエゴ 太平洋を西進中 11月末までに中東へ到着し、ジョージ・ワシントンと交代する見通し エイブラハム・リンカーン(CVN-72) サンディエゴ 太平洋を東進、帰還中 母港へ帰還 ジョージ・ワシントン(CVN-73) 横須賀 中東 ルーズベルトとの交代後、横須賀へ帰還予定 ジョージ・H・W・ブッシュ(CVN-77) ノーフォーク タイ・プーケット 中東での任務後に寄港、その後の動向は未公表 ロナルド・レーガン(CVN-76) ブレマートン サンディエゴ 訓練・認証を進める見通し、展開情報はなし
高橋浩祐氏「太平洋優先」の方針はまだ有効か 米外交・安全保障専門誌『ザ・ディプロマット(The Diplomat)』の東京特派員、高橋浩祐氏は、最近の米軍の動きについて、「米国が本当にインド太平洋を最優先地域として位置付け続けることができるのか、疑問を抱かせる」と指摘している。
ジョージ・ワシントンが中東へ転用された後、サンディエゴ以西には米空母打撃群が存在しない状態となったためだ。
高橋氏は『フォーブス・ジャパン(Forbes JAPAN)』の見方を引用し、少なくともルーズベルトが出航するまでは、西太平洋に中国を抑止する空母が存在しないと指摘していた。
しかし、そのルーズベルトも出航後、西太平洋にとどまるのではなく中東へ向かっている。
2026年3月3日、米中央軍が公開した写真。対イラン作戦を支援するため、原子力空母「エイブラハム・リンカーン」(CVN-72)の飛行甲板で弾薬を運ぶ米海軍兵士。(米海軍/AP) さらに中東では、トマホーク巡航ミサイル、パトリオット迎撃ミサイル、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の迎撃弾が大量に消費されており、アジアで有事が発生した際に十分な兵器在庫を確保できるのかという問題も浮上している。
トランプ氏はさらに、米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムシールド」の規模縮小を命じた。
空母「遼寧」を中核とする空母編隊は、南シナ海と西太平洋で40日を超える遠洋訓練を実施し、過去最長となった。水陸両用強襲揚陸艦との合同訓練に加え、艦載機による空中給油訓練も行った。
米戦争次官(政策担当)のエルブリッジ・コルビー(Elbridge Colby)氏は「第1列島線」を重視すると繰り返し強調しているが、実際の兵力配分は中東情勢によって大きく左右されている。
高橋氏は、これは米国が複数の戦域で同時に抑止力を維持できるかという問題であり、同盟国の米国に対する信頼にも関わると指摘する。
同氏は、日本は米国の抑止力に過度に依存せず、弾薬の備蓄や長射程ミサイル、ミサイル防衛を強化し、自国の継戦能力を高める必要があると結論付けている。
米戦略国際問題研究所(CSIS)のグレッグ・ポーリング(Greg Poling)氏も、トランプ政権の行動について「中東から兵力を引き揚げるという既定方針とは正反対だ」と懸念を示す。
「空母空白」はいつ解消されるのか 現在の米軍のローテーションを前提とすれば、西太平洋に再び米空母が常時展開するのは、早くてもジョージ・ワシントンがルーズベルトとの交代を終え、横須賀へ戻ってからとなる。
8月中旬から数えれば、この「空母空白」は4カ月を超える可能性がある。
ただし、このスケジュールには、イランをめぐる戦闘がこれ以上激化しないという前提がある。
トランプ氏が中間選挙後に爆撃を再開し、米戦争省が空母をさらに長期間中東にとどめることになれば、ジョージ・ワシントンの帰還時期が後ろ倒しになる可能性もある。
一方、米海軍協会(USNI)が9月28日に発表した艦隊動向 によると、水陸両用強襲揚陸艦「トリポリ(USS Tripoli)」は長崎県佐世保に停泊し、日本を拠点とするミサイル駆逐艦「ミリアス(USS Milius)」「ヒギンズ(USS Higgins)」「ラファエル・ペラルタ(USS Rafael Peralta)」なども第7艦隊で活動を続けている。
つまり、西太平洋から米軍の戦力そのものが消えたわけではない。
不在なのは、最も象徴性が高く、同時に大量の戦力と資源を伴う前方展開戦力である「航空母艦」だ。
台湾にとって、これは「有事の際に米空母による増援を期待できる」というカードが、今年の秋から冬にかけて一時的に弱まっていることを意味する。
ここ数カ月、西太平洋を通過する米空母は少なくない。
しかし、今のところ1隻も同海域にとどまってはいない。