イランの南パルスガス田が18日にイスラエルによる攻撃を受けたことを受け、イラン側はペルシャ湾近隣諸国のエネルギー施設に対して相次いで報復攻撃を敢行した。この影響で、カタールのラス・ラファン工業都市も深刻な被害を受けている。世界最大の液化天然ガス(LNG)生産施設を擁するこの拠点が攻撃されたことを受け、カタール政府はイランの武官追放を発表。国際的な原油・天然ガス価格は再び急騰し、世界のエネルギーサプライチェーンは極めて深刻な危機に直面している。
カタールの「生命線」が標的に
『アルジャジーラ』によると、ラス・ラファン工業都市は首都ドーハの北東約80キロに位置し、面積は約295平方キロメートル(ニューヨーク市の約3分の1)に及ぶ。ここは世界のLNG供給の約20%を担う世界最大の生産拠点であり、文字通りカタール経済の生命線である。
カタール外務省は18日、同拠点への「公然たる攻撃」を強く非難し、施設に重大な損害が出たことを明らかにした。内政省によれば、火災は初期段階で制御されており、幸いにも死傷者は確認されていない。世界最大のLNG生産者であるカタールエナジー(QatarEnergy)も、全従業員の無事を発表した。
しかし、同社が19日未明に出した声明では、最初に被弾した施設以外にも複数のLNG関連施設が標的となり、「大規模な火災とさらなる広範囲の破壊」を招いたことが明かされた。『ブルームバーグ』の報道によれば、シェル(Shell Plc)が運営する同地内の天然ガス液化燃料(GTL)プラントも深刻な被害を受けたという。
イランの報復拡大、ペルシャ湾全域に波及
この衝撃的な攻撃の引き金となったのは、先にイスラエルが行ったイランの南パルスガス田への襲撃だ。『フィナンシャル・タイムズ』は、2月28日に米以連合軍とイランの間で戦端が開かれて以来、イランのエネルギー生産施設への直接攻撃は今回が初めてであると指摘している。
カタールのみならず、サウジアラビアやUAEも攻撃を免れなかった。サウジ国防省は18日、首都リヤドに向かう弾道ミサイル4発と、東部地域に向かう2発を防空システムで迎撃したと発表。『ブルームバーグ』によれば、ミサイルの破片がリヤド南部の製油所付近に落下したという。また、UAE国防省は、イランから計13発の弾道ミサイルと27機の無人機(ドローン)が発射されたと発表。アブダビ当局は、迎撃されたミサイルの破片落下によりハブシャン天然ガス施設が稼働を停止し、バブ油田も標的となったことを認めた。
カタール、イラン武官を追放 米仏首脳も相次いで懸念表明
イランによる激しい攻勢を受け、これまでワシントンとテヘランの間で「調停役」を担ってきたカタールが、異例の強硬姿勢に転じた。カタール外務省は、イランの行動を「危険なエスカレーション」であり、「主権の明白な侵害であり、国家安全保障に対する直接的な脅威」であると激しく非難。同時に、在カタール・イラン大使館の軍事および安全保障担当武官を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)」に指定し、24時間以内の国外退去を命じた。
フランスのマクロン大統領は攻撃発生後、カタールのタミーム首長および米国のトランプ大統領と相次いで電話会談を行った。マクロン氏は、民間インフラを標とした攻撃の即時停止を呼びかけ、「市民の基本的ニーズ、およびエネルギー供給の安全を軍事的エスカレーションから保護しなければならない」と強調した。一方、トランプ氏は、カタールのLNG(液化天然ガス)施設が再び攻撃を受けた場合、米国は対抗措置としてイランの南パルスガス田を爆破すると警告した。
世界のエネルギー市場が震撼 ガス・原油価格が共に急騰
ラス・ラファン工業都市が被弾したとの報を受け、世界のエネルギー市場は即座に激しく動揺した。『フィナンシャル・タイムズ』によると、欧州の天然ガス価格は6%急騰し、1メガワット時(MWh)あたり54ユーロに達した。ブレント原油先物も欧州市場の序盤で4.6%上昇し、1バレル=112.3ドルを記録。ブルームバーグは、ブレント原油先物が木曜日にさらに上げ幅を拡大し、盤中には一時5.5%の大幅上昇を見せたと報じている。
エネルギーコンサルタント会社ウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)の欧州天然ガス・LNG担当ディレクター、トム・マルゼック=マンサー氏は、『ブルームバーグ』に対し「これこそが世界の天然ガス市場が最も恐れていた報復攻撃だ」と指摘。「工業団地のどの部分が損傷したかは現時点では不明だが、いずれにせよ、19日の市場取引開始とともに天然ガス価格を押し上げることになるだろう」と述べた。
実際、カタールは3月2日の時点でドローン攻撃を理由にLNG生産を停止しており、「不可抗力」による出荷不能を宣言していた。今回の事態は、すでに混乱していた世界のLNG市場にさらなる追い打ちをかける形となっている。
「グローバルサウス」に最大の打撃か
新アメリカ安全保障センター(CNAS)のレイチェル・ジエンバ上級研究員は『アルジャジーラ』の取材に対し、ラス・ラファンはすでに生産を停止しているため、短期的には新たな供給ショックが起きる可能性は低いと指摘した。しかし同時に、イランによる空爆は「地域的な電力供給にさらなる圧力をかける」恐れがあり、「価格が長期的に高止まりするリスクを高める」と警鐘を鳴らしている。
アメリカ大学のババク・ハフェジ教授(国際ビジネス)も『アルジャジーラ』に対し、ウクライナ戦争の勃発とノルドストリームの破壊以来、ドイツと欧州連合(EU)はLNGの純輸入国となっていると言及した。LNGに依存する他の国々には日本、トルコ、インドも含まれるが、ハフェジ氏は「経済基盤の弱い『グローバルサウス』の小国こそが、最も深刻な打撃を受けることになるだろう」と分析している。
このエネルギー危機はいつ解決の兆しが見えるのか。MSTフィナンシャルのエネルギーアナリスト、ソール・カボニック氏は『フィナンシャル・タイムズ』に対し、戦争が終結したとしても、石油・ガス供給への影響は数ヶ月から、場合によっては数年に及ぶ可能性があると予測した。
また、コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターのアイラ・ジョセフ特別研究員は、「カタールが今年の夏までに市場に復帰することは現状では想像しがたく、その予測でさえあまりに楽観的すぎるだろう」と断言。事態の長期化は避けられないとの見方を示している。