トップ ニュース 「TSMCの強みは複製困難」メディアテック蔡CEOが説く、台湾半導体の底力と地政学の虚実
「TSMCの強みは複製困難」メディアテック蔡CEOが説く、台湾半導体の底力と地政学の虚実 トランプ米大統領は「アメリカ・ファースト」政策を推進し、製造業の国内回帰に注力している。(写真/AP通信提供)
世界的な半導体サプライチェーンの再編と米中技術覇権争いが激化する中、メディアテック(聯発科技)の蔡力行(リック・ツァイ)執行役員(CEO)は、地政学的な情勢に対して感情を排し、極めて冷静な分析を示した。
同氏はポッドキャスト番組『A Bit Personal with Jodi Shelton』に出演し、近年の「ローカル製造」「サプライチェーンのリージョン化」「ソブリン・テクノロジー(技術主権)」といった動きは「グローバル化の終焉」のシグナルと見なされがちだが、自身はそうは考えていないと断言。むしろ、先端製造が長期にわたって台湾に過度な集中を見せた反動で、「振り子が反対側に振れている(揺り戻し)」状態にあるとの見方を示した。
この指摘は、単なるトレンドの予測に留まらず、半導体は完全に「脱グローバル化」できる産業ではないという警鐘でもある。設計、製造、装置、材料から最終市場に至るまで、この産業の本質は国際的な分業の産物である。蔡氏は、近年米国が国内生産を積極的に推進しており、将来的にサプライチェーンの分布に調整が生じる可能性は高いと認めつつも、世界が数十年前のような閉鎖的な「地産地消モデル」へと逆戻りすることはないと見ている。半導体産業にとって、グローバル化は単なる歴史的背景ではなく、運営ロジックそのものなのである。
台湾半導体躍進の背景、正しい時期に正しい方向を選択 さらに蔡氏は、仮に外部が本当に台湾海峡リスクを懸念しているのであれば、台湾の先端製造比率が9割超から8割超へ低下したとしても、リスクの本質が根本的に変わることはないと指摘した。したがって、焦点を生産能力シェアの小幅な変化に当てるよりも、真に重要なのは依然として衝突の回避であると認めるべきだとの考えを示した。インタビューでは、自身として深刻な対立に向かうとはみていないとも率直に語り、米国、台湾、中国の指導者はいずれも冷静さを保ち、協力の余地を見いだすべきだと述べた。世界には、なお対処を要する問題があまりにも多いからだという。
視点をさらに広げると、蔡氏が「台湾半導体の奇跡」をいかに再解釈しているかが非常に興味深い。同氏によれば、今日の台湾が築き上げた産業的地位は、単一の企業が彗星のごとく現れた結果ではない。それは、政府の政策、タイミングの選択、そして人材の強靭さ(レジリエンス)が幾重にも積み重なって生み出された歴史的な成果である。1960年代から70年代にかけての繊維や製靴といった輸出志向型産業から、オイルショックを経てハイテク製造業へと段階的にシフトし、1976年に半導体プロジェクトが始動した。台湾はまさに「正しい時期」に「正しい方向」を選択したのである。
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繊維産業もまた、段階的に台湾経済の飛躍をけん引した。(写真/『新新聞』提供)
中でも、最も決定的な一歩となったのが、当時のRCA技術導入計画においてCMOS(相補型金属酸化膜半導体)路線を採用したことだ。蔡氏は、当時の視点に立てば、それは決して直感的でも、最も確実な選択肢でもなかったと指摘する。しかし、後にCMOSは半導体の主流技術へと登り詰め、振り返れば、この技術選定こそがその後の数十年にわたる台湾の産業的運命を決定づけたと言える。こうした背景があるからこそ、蔡氏は「台湾半導体は単に運が良かったのではない。重要な局面で稀に見る『正しい選択』を積み重ねてきた結果なのだ」と断言しているのである。
台湾の強みの本質「方向性の一致」と「執行への集中」 しかし蔡氏は、この奇跡を成立させた真の要因は、やはり「人」にあると強調する。台湾には、勤勉で教育を重視し、海外留学を厭わないエンジニア人材が豊富に存在する。彼らの多くは米国でトレーニングを受け、産業経験を積んだ後に台湾へ戻り、その能力と広い視野を地元に還元してきた。さらに重要なのは、台湾企業の仕事のスタイルには規律と柔軟性が共存しており、特にシリコンバレーの起業家と協力することに長けている点だ。こうした人材のレジリエンス(強靭さ)と産業の適応力こそが、政策の萌芽から世界的な競争力へと台湾半導体を成長させた核心である。
また、台湾の優位性に対する蔡氏の解釈は、一般的な説とは一線を画している。同氏は、台湾の成功が単に「台湾人が最も賢いから」だとは考えていない。むしろ強調するのは、「方向性の一致 」と「執行への集中(フォーカス) 」である。米国には極めて優秀な人材が数多く存在するが、個々が異なる方向へ進むことでエネルギーが分散してしまうことも少なくない。一方、資源の限られた台湾は、限られた力を少数の重要な目標に集中させ、長期間にわたって継続し、深掘りしていく術を知っている。この揺るぎない執行力こそが、奇跡を支える真の基盤能力なのだ。
台湾では優秀なエンジニア人材が大量に育成され、TSMCなどテクノロジー企業が世界で競争する土台となっている。(写真/顔麟宇撮影)
中国市場と輸出規制については、産業界のベテランらしい現実的な視点を示した。蔡氏は問題を単一の立場に単純化するのではなく、巨大な市場と豊富な人材を抱える社会が外部からの制限に直面した際、ある種の「予期せぬ結果」が生じるのは不思議ではないと指摘した。つまり、制限は必ずしも相手の歩みを鈍らせるだけでなく、逆に自主開発への強い動能を刺激する可能性もあるということだ。異なる社会の文化、政策ロジック、市場構造を理解しなければ、結果を見誤ることになりかねない。
グローバル化は消滅せず、振り子が揺り戻しているだけである 蔡氏は、今日の企業がビジネスの力だけで政治情勢を逆転させることは極めて困難であり、最終的な方向性を決定づけるのは政策とリーダーであると認めている。しかし、少なくとも企業や産業のマネージャーという立場においては、自らの視点のみで世界を見るのではなく、可能な限り開放的で理解ある態度を維持すべきだと説く。
こうした観点から見れば、蔡氏が述べる「グローバル化は消滅したのではなく、振り子が揺り戻しているだけである」という言葉は、現在の半導体地政学の変局に対し、より長期的な解釈を提示している。サプライチェーンの調整、製造拠点の分散、政治リスクの上昇は避けられない。しかし、技術選定、政策の遂行、人材の回流、そして長年の規律によって共に築き上げられた「産業のレジリエンス」を複製することは、依然として極めて困難である。それこそが、台湾半導体の成功が今日まで完全な形で再現され得ない理由なのである。
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