台湾の最大野党・国民党主席 の鄭麗文(てい・れいぶん)氏は4月10日、中国の指導者・習近平氏と「鄭・習会談 」を行う予定だ。党中央 は今回の訪中について「2026年平和の旅」と位置づけている。台北市長の蔣萬安氏はこれに対し、いかなる中台間の交流も「対等、尊厳、善意、互恵」の原則の上に成り立つべきだと強調した。一方、台中市長の盧秀燕氏は、鄭麗文氏とはそれぞれ別の形で連携して攻勢をかけていると述べた。現時点では、党内では同会談 に対して大きな否定的評価はあまり見られないようだ。
一方、民進党陣営の攻勢は激しい。民進党の王定宇立法委員(国会議員に相当) は、鄭氏が習氏を前に台湾の主権を主張できず、中国に拘束されている台湾人の救出も実現できず、国際参加も勝ち取れないのであれば、この会談は「中国共産党の政治ショー」に成り下がるおそれがあると批判した。国民党が打ち出した「平和でこそ寝そべれる」とする動画についても、民進党の林月琴立法委員が投稿で、「寝そべり」を政治的訴求として用いているのではないかと疑問を呈した。いずれにせよ、国民党・民進党・民衆党の各政党の政治家はいずれも、この「鄭・習会談」 が2026年末の選挙にとって大きな加点となるのか、それとも大きな減点となるのかを注視している。
鄭麗文氏は中国の習近平国家主席(写真)と会談する予定だが、国民党内に目立った批判はなく、民進党が猛攻を仕掛けている。(写真/AP通信提供)
鄭麗文氏が「私には天命がある」と豪語、党内に波紋 国民党では現在、各地で地方議員の党内予備選が激化している。党内では、規律審査中の新人の出馬可否や、若手とベテラン議員の「内紛劇」に関心が集まっている。しかし、今から約3週間前の3月16日、新人向け講座「星火計画」で放たれた鄭氏 のある発言が、党関係者の間で波紋を広げている。
当時、メディアの注目は候補者間の恩怨(おんえん)に端を発する騒動に向けられていたが、講師として登壇した鄭氏は、自身の政治理念を説く中で、近く予定されている習近平総書記との会談について言及した。鄭氏はその場で「私には『天命』がある。会談は必ず成功する」と強調したという。
この発言が外部に漏れると、多くの党関係者や幕僚は絶句した。当時、習氏との会談の成否は、複雑な米中台関係のみならず、緊迫する「アメリカ・イラン紛争」の推移にも左右される極めて不透明な状況だった。外交・安保上の極めて緻密な調整が求められる局面において、「天命」という言葉で片付けようとする鄭氏の自信は、あまりに楽観的すぎると映ったのだ。
関係筋によると、鄭氏もまた、国民党本部ビルの外側に2本の柱を増設する計画を立てていたという。100万台湾ドル(約500万円)以上の費用を要するこの不可解な計画について、党内では「風水的な意図があるのではないか」との憶測が飛び交った。しかし、工事の規模が大きく、台北市の建築管理当局から建築許可が下りなかったため、この計画は現在、一時停止の状態にあるという。
鄭麗文氏は党内講座で「私には天命がある」「鄭・習会談は必ず実現する」と発言し、多くの党内関係者を唖然とさせた。(写真/陳品佑撮影)
民進党が標的にした張勝徳氏ではなく、宜蘭県予備選を制したのは呉宗憲氏 鄭氏 の就任以来、その不可解な政治手法から、党内では2026年の地方選挙(統一地方選)における国民党の劣勢を懸念する声が根強くあった。しかし、事態はここにきて急展開を見せている。宜蘭県と新竹県で行われた党内予備選において、事前の予想を覆す結果が相次いだのだ。
宜蘭県知事選の予備選では、呉宗憲(ご・そうけん)立法委員(国会議員)が意外な勝利を収めた。台湾メディア『風傳媒(ストームメディア) 』は以前、「民進党幹部が張勝徳(ちょう・しょうとく)氏に対し『難を逃れた』と祝意を伝えた」とする内幕を報じている。
王金平(おう・きんぺい)元立法院長(国会議長)が伝えたとされるこのメッセージの真意は、張氏が予備選で敗れたことで、将来的に直面したであろう「司法的リスク(捜査の手)」を回避できたことを指しているという。つまり、もし張氏が公認候補となっていれば、国民党は極めて対処の難しい状況に陥っていた可能性があった。今回の結果により、国民党は「司法の爆弾」を一つ回避した形となった。
北台湾の選挙戦全体に悪影響を及ぼすと懸念されていたのが、新竹県知事選の予備選だ。候補者の一人である陳見賢(ちん・けんけん)副県長を巡っては、過去の犯罪歴や団体との繋がりが次々と露呈していた。
今回の予備選では、世論調査7割、党員投票3割という独自の比率が採用された。この仕組みから、多くの国民党関係者は「陳氏の勝利は確実だ」と見ていた。
宜蘭県議会議長の張勝徳氏(写真)は予備選で呉宗憲氏に敗れたが、逆に民進党幹部からは「難を逃れた」と祝意を伝えられた。(写真/柯承恵撮影)
新竹県で徐氏が逆転勝利、国民党は「司法的 未爆弾」の処理に成功か ある国民党の首長は重鎮議員に対し、私見としてこう語っていた。「私の過去はあくまで個人的なものだが、彼(陳氏)の場合は団体ぐるみの背景がある。もし彼が予備選を通過すれば、芋づる式に多くの人間が摘発の対象になりかねない」。民進党の対抗馬である鄭朝方(てい・ちょうほう)氏との戦い以前に、司法的・政治的なリスクがあまりに大きかったのだ。
しかし、最終結果は徐欣瑩(じょ・きんえい)氏が1.6%という僅差で陳氏を下した。特に党員投票において、陳氏陣営は最低でも65%の得票を見込んでいたが、実際には58%に留まった。開票当日、徐氏の勝利が確定すると、党内関係者のみならず徐氏の陣営からも驚きの声が上がった。
国民党は、陳見賢氏が新竹県長選に出馬した場合、黒い交際によるマイナス効果が台湾全土に波及することを懸念していたが、最終的に同氏はまさかの敗北を喫した。(写真/陳見賢事務所提供)
台北市長選に沈伯洋氏なら国民党は「漁夫の利」? 国民党内の予備選を巡る不安が自然消滅する一方で、ライバルの民進党内部では足並みの乱れが目立っている。かつて、桃園市長選に王義川(おう・ぎせん)立法委員が出馬するとの観測が流れた際、国民党の若手議員らは色めき立った。王氏の「ヘイト値(有権者からの反感)」は決して低くなく、もし彼が候補者となれば、国民党は桃園だけでなく他県市へもプラスの波及効果が期待できるからだ。
最終的に王氏の桃園出馬は立ち消えとなったが、国民党にとってはさらに大きな「サプライズ」が浮上している。民進党が台北市長選に沈伯洋(しん・はくよう)立法委員の擁立を検討しているというのだ。
沈氏を巡っては、父親が中国で巨額の利益を得ているとの疑惑や、リコール運動における過激な発言、さらには「TSMCの世界的成功は、民進党支持者のデモ(青鳥行動)の功績だ」とする主張など、物議を醸す言動が絶えない。国民党にとって、民進党が沈氏を送り込むことは、まさに「棚からぼた餅(強力な武器を手に入れた状態)」に他ならない。
民進党が台北市長選に沈伯洋立法委員を擁立する方針との情報が流れ、国民党陣営は歓喜に沸いている。(写真/劉偉宏撮影)
蔣萬安氏の「全国遊説」が可能に?民進党の自滅を期待する声 民進党が台北に沈氏を擁立した場合、国民党にとって最大のメリットは、最強の応援弁士である蔣萬安(しょう・ばんあん)台北市長を「解放」できる点にある。
党内一のスター性とともに、鍛え上げられた肉体でも人気を博す蔣氏は、選挙戦における最大の武器だ。当初、国民党内では民進党の有力候補・鄭麗君(てい・れいくん)氏との対決を想定しており、蔣氏は台北に足止めされると見られていた。しかし、相手が沈氏であれば、蔣氏は自身の再選を盤石にした上で、全国の候補者の応援に飛び回ることが可能になる。
さらに、台北での沈氏擁立によるネガティブな波及効果は、隣接する新北市の蘇巧慧(そ・こうけい)氏らにも及ぶ可能性がある。国民党にとって、沈氏の台北市長選出馬はまさに「一石二鳥」の展開なのだ。
鄭麗文主席の「天命」は本物か 鄭麗文主席の就任後、国民党を脅かしていた選挙戦の「爆弾」は次々と消滅し、逆に民進党は墓穴を掘るような動きを見せている。鄭氏が切望していた習近平氏との会談も、馬英九基金会の内紛という逆境を逆手に取って開催へとこぎつけた。
この1カ月余りの劇的な変化に加え、習氏との会談で過度に卑屈な態度を見せなければ、国民党内では年末の選挙に対する悲観論は一掃されるだろう。党内関係者の間では、冗談めかしながらも、ある疑念がささやかれ始めている。
「もしや……鄭麗文氏には本当に『天命』があるのではないか?」