台湾初の国産潜水艦「海鯤」下半期就役へ AIP未搭載で実戦能力に課題も 台湾初の国産潜水艦「海鯤」は度重なる波紋や複数回の試験を経て、今年下半期に引き渡される見通しだ。(写真/顔麟宇撮影)
建造から進水、海上公試に至るまで幾多の困難に直面してきた台湾初の自主建造潜水艦「海鯤」(SS-711)だが、ここ数カ月で試験の進捗は順調な軌道に乗りつつある。特に5月上旬に実施された演習用魚雷による発射試験の成功により、戦闘システムの統合運用に問題がないことが初期段階で実証された。これは、今年下半期に予定されている台湾海軍への引き渡しおよび就役に向けた極めて重要な一歩と言える。海鯤のプロトタイプ艦が順調に就役すれば、台湾の国防自主化において歴史的なマイルストーンとなることは疑いようがない。
しかし、潜水艦としての実際の戦闘力に目を向けると、将来の台湾海峡における高強度の作戦環境に対応できるのか、さらには後続艦7隻の建造や改良といった多くの現実的な問題が山積しており、海軍にとっての真の試練はこれから始まると言える。
海鯤は全長約70メートル、全幅約8メートル、排水量2500〜3000トンと推定される。国際的な最新鋭潜水艦で主流となっているX舵を採用し、全体的な設計はオランダのズワールトフィス(Zwaardvis)級潜水艦をベースに改良されたものと見られる。また、米国製の高度なデジタル戦闘システムやアクティブ・パッシブソナーを搭載し、高性能な米国製「Mk48 Mod6 AT」重魚雷および「UGM-84」潜水艦発射型ハープーン対艦ミサイルを装備している。カタログスペック上の戦闘力は非常に高く見えるが、台湾は潜水艦の建造経験が全くない。
そのため、プロトタイプ艦建造の失敗リスクを低減すべく、軍当局は技術仕様や装備において「まずは完成させ、その後に改良を重ねる」という安全策を取った。その結果、近代的な通常動力型潜水艦の標準装備とされる非大気依存推進(AIP)システムや吸音タイルは採用されなかった。
台湾の軍関係者は、海鯤の建造総予算が379億台湾元(工場や建造設備を除いた直接的な建造費は約256億台湾元)に上ることを認めた上で、海軍は「絶対に失敗が許されない」という重圧を抱えていると率直に語った。頻繁に浮上して充電する必要がなく、長期間の潜航を可能にするAIPシステムを搭載すれば、設計や建造の複雑さが増すだけでなく、建造費も大幅に跳ね上がる。吸音タイルを採用しなかったことも、同様に予算と技術的な制約が理由だ。世界的な軍事情報界で著名な潜水艦専門家のH・I・サットン氏も、海鯤の設計が保守的であることは認めつつ、「初の自主建造潜水艦であることを踏まえれば、台湾軍の選択は非常に合理的であり、理解できる」と指摘している。
潜水艦の専門家も指摘するように、海鯤の設計は比較的保守的である。(写真/顏麟宇撮影)
保守的なアプローチでプロトタイプ艦の就役へ、水中での隠密性は犠牲になる恐れも 海軍が採用した安全で保守的な路線は、多くの困難を乗り越えてきた海鯤を就役へと導く可能性が高い。その一方で、水中での隠密性低下という代償を伴うことは避けられない。将来的に海鯤が台湾海峡周辺の海域で高強度の作戦任務を遂行できるかどうかについては、軍事専門家のみならず、台湾軍内部でも確固たる自信を持つ者は少ないのが実情だ。
ある海軍関係者は、今年下半期に海鯤が海軍に引き渡された後、艦を受領する第256潜水艦戦隊の将兵がいかに優秀であっても、単なる「潜航可能な状態」から「敵を撃滅できる実戦状態」に引き上げるには、1〜2年間の運用と訓練が必要になるだろうと語る。AIPや吸音タイルが未搭載であり、性能の劣る鉛蓄電池を採用していることから生じる「静粛性の欠如」「隠密性の低さ」「長期潜航の不可能」という弱点は、高度な米国製戦闘指揮システムや強力な攻撃兵器だけで補えるものではない。
AIPシステムの欠如は、なぜ実戦において劣勢を招き、戦場での生存率を大幅に低下させるのか。前出の海軍関係者は、海鯤が搭載する鉛蓄電池の蓄電量は極めて限定的であり、水中での低速潜航における航続力は、AIPやリチウムイオン電池を搭載した欧州や日本の最新鋭通常動力型潜水艦に遠く及ばないと指摘する。
これにより、 将来的に海鯤が事前に設定された待ち伏せ海域に進入し、武力侵攻を図る中国軍の艦艇を奇襲しようとしても、長期間水中に留まることができない。多くの場合、2〜3日おきにシュノーケル深度まで浮上し、ディーゼルエンジンを稼働させてバッテリーを充電する必要がある。これは待ち伏せ任務の遂行に支障を来すだけでなく、シュノーケル使用中は潜水艦にとって最も脆弱な状態であり、位置を特定される危険性が非常に高い。
同関係者はさらに、中国人民解放軍(以下、中国軍)が台湾海峡周辺の海中にAIP搭載の通常動力型潜水艦だけでなく、原子力攻撃潜水艦を展開させていると強調する。上空には固定翼対潜哨戒機や対潜探知機能を備えた長距離無人機が飛行し、アクティブ・パッシブソナーを装備した水上艦艇とともに極めて緻密な対潜網を構築している。海鯤がバッテリー切れにより浮上充電を余儀なくされた際、ディーゼルエンジンの排熱や騒音、水面に突き出たシュノーケルは、中国軍のソナー・赤外線センサー・レーダーによって探知されるリスクが極めて高い。浮上充電中に捕捉された場合、台湾側の潜水艦は事実上の標的となり、生き残るチャンスはほぼ皆無に等しい。
海軍関係者は、海鯤がバッテリー切れによりリスクを冒して浮上充電を余儀なくされた場合、中国軍の航空機や艦艇に「捕捉」されるリスクが非常に高いと指摘している。(写真/台湾国際造船提供)
「吸音タイル」未装備の海鯤、中国軍に探知されやすい懸念 吸音タイルが装備されていないことの影響も深刻だ。国際的な最新鋭の原子力潜水艦や通常動力型潜水艦は、ほぼ例外なく船体外殻に吸音タイルを敷き詰めている。敵方の艦艇や航空機が発するアクティブソナーの音波を吸収する一方、潜水艦内部の騒音が外部に漏れるのを防ぐためだ。吸音タイルを装備した潜水艦は、敵の探知能力を少なくとも50%、場合によっては70%低下させることができる。しかし海鯤のように吸音タイルを持たない潜水艦は、中国軍 が保有する最新のアクティブ・パッシブソナーによって遠距離から探知される可能性が高い。
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潜水艦作戦において最も重要な原則は「敵より先に発見し、先に攻撃し、そして離脱する」ことだ。敵に先に位置を把握されることは、先制攻撃を受け逃げ場を失うことを意味し、実質的な死を宣告されるに等しい。
当然、海鯤が海軍に就役した後も、軍当局は継続的に改良を施していく方針だ。静粛性の向上と水中滞在時間の延長を図るため、吸音タイルの追加やリチウムイオン電池への換装が行われる可能性があるという。さらに海鯤プロトタイプ艦の運用経験に基づき、後続艦7隻について海軍は「2+3+2」の3段階方式で14年間にわたり建造する計画を策定している。最初の2隻はプロトタイプ艦の設計を小規模に変更し、続く3隻で性能をさらに向上させた量産型を建造、最後の2隻は先行する6隻の運用経験を集約した完成版とし、戦闘力を最高水準まで引き上げる予定だ。しかし潜水艦に精通する軍事情報関係者は、この計画が現実の技術的困難を軽視しすぎており、いささか楽観的に過ぎると警告する。
国際的な最新鋭の原子力潜水艦や通常動力型潜水艦は、ほぼ例外なく船体の外殻に吸音タイルを敷き詰めている。写真は横須賀港に到着した原子力空母ジョージ・ワシントン。(写真/AP通信提供)
後続艦での改良なるか?エンジン換装は艦内全体に影響 前出の軍事情報関係者は、海鯤や後続艦の将来を悲観しているわけではなく、目の前にある現実的な課題は決して避けて通れないと指摘する。海鯤のプロトタイプ艦は船体形状や内部配置の設計が既に確定しており、エンジンやバッテリーシステムを含む全装備の重量配分も精密な計算に基づいている。たとえ内部構造に手を加えず、船体外殻に吸音タイルを追加するだけであっても、既存の流体力学データや重量増が潜航時の安定性に与える影響について再計算とテストが必要となる。ましてや鉛蓄電池を重量や体積が異なるリチウムイオン電池に換装するとなれば、電源管理システム自体を刷新する必要があり、潜水艦のあらゆるコアパラメータを根本から調整し直すことを意味する。
潜水艦における空間と重量は極めて緻密なバランスを維持しなければならず、不適切な増減は壊滅的な結果を招きかねない。海鯤をベースに建造される後続艦にリチウムイオン電池を搭載する場合、元の設計をそのまま踏襲することはできず、内部構造やシステムの調整は一箇所に手を入れれば連鎖的に全体へ影響が及ぶ。少しでも判断を誤れば、性能に欠陥を抱えた潜水艦を生み出す恐れがある。特に海鯤のプロトタイプ艦は、軍用エンジンの調達が困難であったため、出力の小さいスウェーデン製民間商用船舶エンジン6基を並列搭載する妥協案を選ばざるを得ず、騒音や信頼性の面で軍用エンジンと比べて既に劣っているのが現状だ。
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関係筋によると、台湾当局の働きかけによりドイツ製大型軍用ディーゼルエンジンの輸出許可を既に取得したと見られ、後続艦の建造時にはプロトタイプ艦の小出力エンジン6基に代わり、大出力の軍用エンジン2基が搭載される見込みだという。しかし同関係者は、エンジンの換装自体は一般的な設計変更の範疇に属するものの、潜水艦においては内部構造に手を加える大掛かりな改修工事になると警告する。機関室の配管レイアウトやエンジンの防振ラフトなどを部分的に改修・再設計する必要があり、重量配分も再計算しなければならない。船体の寸法や形状まで変更を要するという外部の懸念ほどではないにせよ、艦内空間の調整だけでも技術的に失敗するリスクは依然として存在している。
軍事情報関係者は、潜水艦の内部構造に及ぶ大規模な改修工事には、技術的な失敗リスクが一定程度存在すると指摘している。イメージ画像。(写真/顏麟宇撮影)
技術面・政治面ともに課題山積、それでも「現存艦隊効果」は現実の抑止力 たとえ海鯤のプロトタイプ艦の性能が不十分であっても、後続艦の建造には克服すべき技術的リスクと政治的課題が立ちはだかる。野党が過半数を占める立法院(国会)が後続艦の予算を承認するかどうかは依然として不透明だ。
しかし海鯤のプロトタイプ艦が真の作戦プラットフォームであり、潜水艦としての戦略的価値を十分に備えていることに変わりはない。性能が完全ではないからといって、台湾海峡の防衛作戦において機能しないわけではない。軍関係者は、海鯤が出港して潜伏するだけで、その不確実性と不可知性により中国軍 艦隊に強力な牽制と多大な心理的圧力を与え、対潜作戦に膨大な資源を割かせることになると指摘する。これこそが「現存艦隊効果」であり、海鯤に搭載された18発の「Mk48 Mod6 AT」重魚雷および「UGM-84」潜水艦発射型ハープーン対艦ミサイルは、中国軍 の艦艇にとって現実かつ重大な脅威となることは間違いない。
一方、海鯤のプロトタイプ艦が現在持つ能力では、台湾北東部または南西部海域の深海エリアにおける待ち伏せ作戦にのみ適しており、米国製の戦闘システム・ソナー・兵器の優位性を発揮できる範囲はそこまでが限界だと軍関係者も認めている。より遠方の南シナ海への展開や第一列島線縁辺部への進出、さらには中国軍 潜水艦との直接交戦となれば、現状では力不足と言わざるを得ない。台湾軍の潜水艦部隊が遠海での阻止・打撃能力を備えた確固たる抑止力となるためには、リチウムイオン電池へのアップグレード、エンジンの換装、吸音タイルの敷設といった後続艦の性能向上計画が順調に完了することが不可欠だ。
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