台湾・頼総統が進める社会全体の防衛レジリエンス向上、元国安会秘書長がその背景を語る
元国家安全会議秘書長の邱義仁氏(写真)は、頼清徳総統の中台政策は蔡英文前総統の路線を踏襲し、現状維持を目指すものだと指摘した。(資料写真/柯承恵撮影)
台湾の国家安全会議(国安会)元秘書長、邱義仁氏は、頼清徳・台湾総統の両岸(中台)政策が蔡英文・前総統の路線を継承するものだと述べ、「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」との立場の下、両岸の現状維持を図る構えだと指摘する。中国が台湾への浸透工作を拡大し、さらには台湾内に武装勢力を構築しようとする動きまで見せる中、全国民が安心して暮らせる社会を実現するため、頼総統は軍民が一体となって国家と社会のレジリエンス(強靭性)を高めることを目指しているとの見方だ。
トランプ米大統領が訪中日程を終えた後、「台湾独立」問題が再び国際社会の注目の的となっている。現在、与党・民進党のシンクタンク「新境界文教基金会」の副董事長を務める邱氏は、台湾の通信社、中央社とのインタビューに応じ、前述の見解を示すとともに、一部で囁かれる「韌性台独(レジリエンス高めることで実質上の独立を図るとの見方)」との言説を否定した。
邱氏によると、頼氏の両岸政策の核心的立場は一貫して「中華民国台湾は主権独立国家である」「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」というものであり、これまで何度も「現状維持」を再三強調してきた。就任後は、中国による対台湾浸透工作に対処するため、台湾における全社会防衛レジリエンスの強化に尽力しているという。
邱氏は、シンクタンクで海外からやってくる多くのゲストと接する際、最も頻繁に尋ねられる質問が2つあると語る。1つ目は「頼総統は台湾独立を推し進めるのか」、2つ目は「頼政権が注力する『レジリエンス』とは一体何なのか」というものだ。同氏の見解によれば、これら2つの議題はしばしば意図的に混同され、さらには「韌性台独」という不当なレッテルを貼られており、それが多くの批判を招く原因となっているという。
邱氏は、頼氏が当選から就任、そして執政2周年に至るまで、蔡前総統の路線を継承する旨を繰り返し表明してきたと指摘する。いわゆる「蔡英文路線」とは、「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」とし、台湾の未来は2300万の台湾人民が共同で決定するというものだ。
防衛レジリエンス向上の推進は中国の浸透工作拡大が原因
頼政権が社会全体の防衛レジリエンス向上を積極推進している点について、邱氏は、近年の中国による対台湾への浸透工作の継続的拡大に関係があると分析している。
邱氏は台湾の国家安全当局の統計を引用し、中国のために台湾でスパイ活動を行ったとして2024年に起訴された人数は64人に上り、2021年の3倍以上に増加したと指摘。そのうち、「中華統一促進党(統促党)」や「復康連盟党」、「中華民国台湾軍政府」といった団体が関与した事案では、中国の意向を基に組織を拡大し、武装勢力を構築しようとする動きまで見られたという。「自由と民主主義を重んじる社会において到底考えられないことだが、これは現在の台湾社会に紛れもなく実在する脅威だ」と警鐘を鳴らした。
邱氏によると、頼総統は中国による台湾への浸透と影響力が著しく拡大し、極めて深刻な問題になっていると認識しており、「これらの問題に対処しなければ、国家は崩壊しかねない」という強い危機感を抱いている。これはまさに、頼政権が発足後、厳粛に向き合わざるを得なかった試練だと強調した。
邱氏はまた、中国が近年、台湾軍に対する浸透工作やスパイ活動を継続しているだけでなく、中国のパスポート(旅券)を発給したり、利益をちらつかせて台湾住民に居住証や定住証、身分証の申請を促したりする手法を通じて、台湾人民の国家アイデンティティを曖昧にしようと企てていると語った。
官民を切り離せば台湾の防衛体制は機能しない
社会レジリエンスの向上と全市民による防衛概念について触れた邱氏は、台湾社会においてこれまで国防は軍人の責任であると見なされがちであったと指摘。「しかし、これほど強大な中国の脅威に直面する中で、いかにして安心して暮らせる社会を築くのか。軍と民が共に協力しなければ、平穏な生活など到底望めない。率直に言えばそういうことだ」と語った。
同氏は、軍と民間、あるいは公的部門と民間部門を切り離してしまえば、台湾の全体的な防衛体制を機能させることは不可能だと述べ、強大な中国と対峙する台湾は、軍民の力を統合し、総合的な国力を発揮してこそ、抑止力と防衛力を向上させることができると強調した。
そのため、頼総統は就任直後に総統府直属の委員会、全社会防衛靭性委員会(全社会防衛レジリエンス委員会)を設立し、自ら召集人を務めるとともに、季連成氏を専任の政務委員(無任所相に相当)に起用した。
邱氏は、従来、全社会のレジリエンス業務を専任で担当する政務委員は存在せず、この人事は、頼氏が国家のレジリエンス向上を極めて重要かつ喫緊の課題と捉えていることを示していると指摘。季氏の政府内における役割は、軍民の資源を統合し、各省庁と民間部門の力を調整しつつ、レジリエンス向上に向けた各種施策を推し進めることにあると説明した。
今年は台湾で初めて総統直接選挙が実施されてから30周年の節目に当たる。台湾はこれまで3度の政権交代を経験しており、民進党出身者としては、陳水扁氏、蔡氏、そして頼氏が総統に就任した。邱氏は、陳氏は初の政権交代を成し遂げ、蔡氏は年金改革や労働基準法改正(週休2日制導入)、同性婚の合法化、兵役制度改革など数多くの重大な改革を推進、そして、頼氏が就任後に最も鮮明に打ち出している施政が、よりレジリエンスを備えた台湾の構築だと指摘した。
2期8年の総統の任期において2つの重大な改革を完了させるだけでも相当な困難を伴う中、蔡氏が在任中に4つの重大改革を推進したことは至難の業だったと邱氏は評価する。そして、頼氏が現在直面する最重要課題は、中国の脅威が継続的に高まる中、国家と社会の全体的なレジリエンスを強化し、リスクや危機に対する台湾の対処能力を引き上げることだとしている。
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