メディアテックのAIグラス、来年末に登場へ 新型ウェアラブル市場に照準
メディアテックのAIグラスは来年末までに登場する見通しで、パーソナルAI市場に照準を合わせている。(写真/魏鑫陽撮影)
台湾の半導体大手、聯發科技(メディアテック)がIT見本市「コンピューテックス(Computex)」の開幕を前に開催したメディア・アナリスト向け交流会の終了後、市場の関心はAI(人工知能)スマートグラス、新型AIデバイスのエコシステム、そして米NVIDIAとの協業がさらに進化する可能性に集まっている。メディアテックの経営幹部は会合後の共同取材に応じ、スマートグラスの展開について、AR(拡張現実)グラスとAIグラスの双方で開発を進めており、中でもAIグラスは来年末までに具体的な進展が見込まれると明らかにした。一方、エヌビディアによるメディアテックへの出資の可能性について、最高財務責任者(CFO)兼共同最高執行責任者(COO)の顧大為(デビッド・クー)氏は「現時点でそのような議論はない」と否定し、当面は既存の協業プロジェクトで確実な成果を上げることが最優先であると強調した。
メディアテック、ARとAIの両輪で開発を推進 AIグラスが個人向けAIの重要な入り口に
AIグラスに関し、同社幹部はスマートグラスを2種類に分類できると説明した。一つはディスプレイとAR機能を備えたARグラスであり、もう一つは比較的軽量なAIグラスである。AIグラス単体での演算能力は限られているため、スマートフォンとの連動が必要となる可能性が高く、製品設計やシステム連携の仕組みはフル機能を持つARデバイスとは異なる構造になるという。
メディアテックは、ARグラスとAIグラスの両製品群で開発を進めており、特にAIグラスについては「来年末までに」何らかの進展を披露できる機会があるとの見方を示した。ただし、一部のAIグラスは特定顧客との共同開発であるため、具体的な発表時期や発売日の明言は避けた。これは、同社がAIグラスを単なる半導体チップ単体の製品としてではなく、スマートフォン、パーソナルAI、および新型ウェアラブル端末を包括するエコシステムの一環として位置付けていることを示唆している。
これに先立つパネルディスカッションで、同社のスマートライフ事業群総経理を務める游人傑(ジョー・チェン)氏も、AIグラスがパーソナルAIの重要なプラットフォームになり得ると言及した。使用者の目や耳の代わりとなり、見たものや聞いた情報を直接取り込むことで、プロアクティブなパーソナルAI体験を提供できるためである。しかし、AIグラスを本格的に普及させるためには、バッテリー駆動時間や筐体サイズ、常時センシング(Always-Sensing)といった技術的課題の克服が不可欠であると指摘している。
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エヌビディアとの協業領域が持続的に拡大 AI時代が新たなデバイスエコシステムを創出
AIグラスに加え、メディアテックとエヌビディアの協力関係が、製品レベルの協業から資本提携へと発展する可能性についても報道陣から質問が飛んだ。これに対し顧氏は「現状では議論されていない」と回答。両社間では既に複数のビジネス協力が進行中であり、将来的にもさらなる協業機会が見込まれるものの、現段階での最重要課題は、着手済みのプロジェクトを製品化し、確かな実績として市場に投入することだと述べた。
メディアテックとエヌビディアの協業は、車載用SoC(システム・オン・チップ)やAIワークステーション、さらにはデータセンター向けのNVLink Fusionエコシステムなど、多岐にわたる分野に拡大している。メディアテックの幹部によれば、車載プラットフォームにおいては、エヌビディアのGPU技術と同社のCPUおよびSoC開発能力を融合させることで、高度な演算能力とCUDAエコシステムをサポートしており、これが同社にとって期待の大きい製品分野となっている。また、コンピューティングデバイス分野における「DGX Spark」などの新型デバイスの登場は、AI時代における演算製品の形態がより一層多様化していくことを示している。
AIモデル開発企業が独自のスマートフォンや新デバイスを開発するとの市場の観測に対し、同社幹部は特定顧客や業界の噂への言及を避けつつも、AI時代において新たな製品やエコシステムが台頭することは確実だと指摘した。これらの新デバイスは、単なるハードウェアにとどまらず、その背後にあるユーザー体験、サービス内容、開発者コミュニティ、そしてビジネスモデルを構築できるかが鍵となる。消費者が対価を支払い、開発者が収益を得られる仕組みが整えば、新たなAIエコシステムが形成される好機となるという。
会合後の共同取材では、先端パッケージング技術やサプライチェーンの動向にも話題が及んだ。顧客がパッケージング技術を選定する際、コストと生産能力のどちらを重視するかという問いに対し、同社幹部は「コスト、生産能力、技術仕様、顧客ニーズ、サプライチェーンの状況などを総合的に勘案するものであり、単一の要因で決定されることはない」と説明した。特にカスタムシリコン(ASIC)の分野においては、ベンダーの選定自体が顧客の戦略に大きく依存する傾向にあると述べている。
台湾サプライチェーンの優位性がメディアテックの後ろ盾に アリゾナ工場での生産は顧客ニーズ主導
TSMCが米国に建設中のアリゾナ工場でのウェーハ投入時期について、メディアテック側は「米国での生産は、大部分が顧客の要望に左右される」と回答した。生産拠点によってコスト構造が異なるため、顧客からの要請があれば、該当製品の生産を手配する体制を整えており、全体としてはビジネス主導(ビジネス・ドリブン)の判断となると説明した。これはAI向けASICやカスタムチップ事業にも反映されており、地政学的リスクへの対応、サプライチェーンの冗長化、顧客の所在地といった要素が、将来の先端プロセスおよびパッケージングの意思決定において重要なファクターになるとしている。
米インテル(Intel)の先端パッケージング技術「EMIB(埋め込みマルチダイ・インターコネクト・ブリッジ)」での協業については、EMIB自体は全く新しい技術ではなく、インテル自身の製品でも複数世代にわたり採用されていると補足した。同技術を特定顧客の製品に適用する場合、顧客の機密情報や製品仕様に直結するため、量産時期や導入スケジュールについての詳細な言及は避けた。
AIデバイス革命の到来 メディアテックが次なる成長カーブを見据える
メディアテックの株価動向や長期的企業価値に関する投資家からの関心に対し、同社幹部は株価の水準についてはコメントを控えるとした上で、中長期的な株主の視点から2つの点に注目すべきだと語った。第一に、企業が安定したキャッシュフローと株主還元能力を有しているか。第二に、産業の転換期において継続的に新たな成長機会を捕捉できるかである。メディアテックの年間売上高は、初期の30億〜40億米ドル規模から段階的に100億米ドルへと拡大し、近年では200億米ドルの大台に達している。この成長の鍵は、幾度となく訪れた産業パラダイムシフトの波を的確に捉えてきた点にある。
AIグラス、AI PC、スマートコックピットからデータセンター向けASICに至るまで、メディアテックが今回発信したメッセージは、AIがもたらす変革が単発的な製品サイクルにとどまらず、デバイスの形態やエコシステムの抜本的な再編という新たなフェーズに突入したことを示している。メディアテックにとって今後の課題は、競争力のある単独の半導体チップを市場に投入できるかという点にとどまらない。新型AIデバイスの開拓、エコシステムの構築、先端パッケージング技術の確保、そしてクラウドインフラ分野において、次なる成長カーブのポジションをいかに早期に確立できるかが最大の試金石となる。
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