ガザ、レバノン、イランへの多正面作戦 四方に戦火を広げる「ネタニヤフ・ドクトリン」の限界

イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏。(写真/AP通信提供)
イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフ氏。(写真/AP通信提供)

2023年10月7日のハマスによる大規模攻撃以降、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、その後の武装衝突において「完全なる勝利(Total victory)」を収めることを誓った。しかし、それから2年余りが経過した現在、イスラエルを取り巻く敵対勢力は甚大な打撃を受けつつも依然として健在であり、逆にイスラエル自身が多正面作戦という重圧に直面している。

ハマスとその武装勢力は今なおガザ地区の半分を統治下に置き、ネタニヤフ氏が「粉砕した」と宣言したヒズボラも、レバノン南部からイスラエル北部へのロケット弾攻撃を継続している。そして、同氏が対イランの「歴史的勝利」を公に宣言してから1年も経たない今日、イスラエルと米国は再びこのイスラム共和国との交戦状態に陥っている。

One battle after another: Netanyahu’s new security doctrinehttps://t.co/EhesFBdOX7

— Financial Times (@FT)April 1, 2026

胎動する「ネタニヤフ・ドクトリン」

英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』の分析記事は、近年のイスラエルによる一連の対外行動規範を、未成熟ながらも「ネタニヤフ・ドクトリン(Netanyahu doctrine)」と呼び、多くの専門家や学者がこの概念に同意を示している。この国家ビジョンには、主に以下の3つの方向性が含まれる。

  1. 潜在的な脅威に対する「先制攻撃」の断行:いかなる脅威に対しても、先手を打って軍事行動を起こす。
  2. 隣国領土の奪取による「緩衝地帯」の構築:敵勢力と自国の民間人を隔てるため、隣国から領土を確保する。
  3. 継続的な武力配備: 武力の行使と展開こそが、国家安全保障を維持する唯一の保障であると見なす。
2026年3月26日、エルサレムのヘルツルの丘軍事墓地にて、レバノンでの戦闘で戦死したイスラエル軍兵士オリ・グリーンバーグ(Ori Greenberg)軍曹の葬儀に参列する人々。(AP通信)
2026年3月26日、エルサレムのヘルツルの丘軍事墓地にて、レバノンでの戦闘で戦死したイスラエル軍兵士オリ・グリーンバーグ(Ori Greenberg)軍曹の葬儀に参列する人々。(写真/AP通信提供)

決定的な勝利を約束する代わりに、ネタニヤフ首相は歴史の推移や脅威の変遷、そして地域の「力の均衡(パワーバランス)」の変化について語ることが多い。これらはすべて、危機に満ち、終わりのない衝突が続く未来に対し、同氏がイスラエル国民に覚悟を促していることを示唆している。

受動的な防衛から先制攻撃への転換

ネタニヤフ首相は最近行われた軍士官学校の卒業式での演説で、自身の戦略思想を明確に示した。もはや「脅威の抑止(抑え込み)」という概念は存在せず、「ジャングルの中の別荘(Villa in the jungle)」――つまり、壁の後ろに隠れて捕食者を避けるといったナイーブな考えも捨て去ったというのだ。「現実の社会情勢はその正反対だ。自分からジャングルに入っていかなければ、ジャングル(脅威)が向こうからやってくることになる」と彼は強調した。 (関連記事: 【独占】トランプ「対イラン勝利」の真意、真の標的は中国か 台湾有事の「時間窓」が判明 関連記事をもっと読む

テルアビブ大学の研究者で元軍事情報当局者のマイケル・ミルシテイン(Michael Milshtein)氏は、こうした手法を一種の「トラウマ後の国家安全保障学説」であると分析する。10月7日の襲撃後に形成された、防衛本能に基づく概念であり、深い戦略的基礎に欠けていると指摘する。

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