昨今の日本における経営管理ビザの制度改定により、「常勤職員1名以上」の雇用が新たに義務付けられた。 この条件を満たすため、多くの外国籍企業が初めての雇用に乗り出している。 では、「日本で初めて人を雇う際、具体的に何をすべきか?」 初めての採用に関する重要事項をまとめて解説する。
一、 社会保険(厚生年金 + 健康保険)
厚生年金と健康保険は基本的にセットであり、加入手続や窓口は同一だ。法人企業であれば(社長一人の役員報酬のみであっても)、法律上「強制適用事業所」となり、加入が義務付けられている。従業員個人の加入条件は、労働時間が正社員の4分の3以上である場合、加入させる義務が生じる。
申請手順:管轄の年金事務所へ「社会保険新規適用届」を提出する(法人の場合は登記簿謄本の添付が必要)。同時に従業員本人の「資格取得届」を提出する。被扶養者がいる場合は「被扶養者異動届」を提出し、住民票や収入証明が必要になる場合がある。
実務上のポイント:すでに役員報酬を受け取っている一人社長の会社であれば、社会保険の新規適用は完了していることが多いため、基本的には従業員の追加手続のみとなる。法律では、採用から5日以内の手続が規定されており、遅れると従業員が病院で保険証を使えなくなるため、最優先で進めるべき事項だ。
二、 労働保険(労災保険 + 雇用保険)
外国籍企業においては、社会保険の手続だけで安心し、労働保険を失念してしまうケースが多々見受けられる。
労働保険は「労災保険」と「雇用保険」で構成され、原則として従業員を1名でも雇えば、保険関係の成立と保険料の納付義務が生じる。代表取締役は対象外であるため、雇用主にとって初めての経験となることが多い分野だ。
労災保険:業務上の怪我などを補償する保険で、全従業員に適用される(週1時間のアルバイトでも対象)。会社が労災保険を成立させれば、賃金を支払う全従業員が自動的に保護される。
雇用保険:週の労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがある場合に適用される。(※ワーキングホリデービザ保持者は雇用保険に加入できない)
申請手順:
a. 労災保険→労働基準監督署もしくは都道府県労働局:労災保険の「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」を提出する。労働保険料は先払い(概算)し、毎年6月に精算する。これらは雇入れ時から10日以内(成立届)および50日以内(保険料申告書)に完了させる必要がある。
b. 雇用保険→ハローワーク(公共職業安定所):「雇用保険適用事業所設置届」と、該当する従業員の「資格取得届」を提出する。
実務上のポイント:先に労災保険の「保険関係成立届」で「労働保険番号」を取得してから雇用保険の手続きを行う。
三、 労働基準法と法定三帳簿
1.「労働条件通知書」または「雇用契約書」の作成:トラブル防止のため、就業前に必ず書面で労働条件を明示する義務がある。契約期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩時間、残業の有無、賃金の計算・支払方法、退職に関する事項などは必須項目である。労働基準法に違反する内容は無効となるので、作成の際は注意が必要。
2.「法定三帳簿」の作成と管理:法律により「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」の備え付けが義務付けられている。また、改正により「有給休暇管理簿」も必要となった。これらは最低3年間の保存義務があり、入管局の審査や労働基準監督署の調査で提出を求められることがある。外国籍社員の場合、名簿に「在留カード情報」を記載しておく必要がある。また、残業代を適正に計算するため、打刻など客観的な記録による勤怠管理が不可欠だ。
3.「36(サブロク)協定」の締結と届出:残業や休日出勤が発生する可能性がある場合、事前に「36協定」を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要がある。届出なしでの残業は違法となり、雇用主に懲役や罰金が科されるリスクがある。
四、 外国籍社員を雇用する際の必須事項
身分確認を怠ると、雇用主が「不法就労助長罪」に問われ、最高3年の懲役または300万円の罰金となる恐れがある(過失であっても処罰の対象となり得る)。
1. 在留カード原本の確認:コピーや写真だけでなく、必ず原本を確認する必要がある。政府公式の「在留カード等読取アプリケーション」でICチップをスキャンし、偽造でないか確認することを推奨する。
2. 就労制限の確認:表面が「就労不可」(留学生や家族滞在など)の場合、裏面の「資格外活動許可」の有無を必ず確認する。
3. 「週28時間」の厳守:資格外活動許可でのアルバイトの場合、労働時間週28時間を超えてはいけない。
4. ハローワークへの届出:雇用保険の加入有無にかかわらず、外国籍社員を採用・離職させた際は「外国人雇用状況報告」が義務付けられている。
五、 日常・継続的な手続
初期手続きの完了後も、以下の事項を継続して行う必要がある。
1.勤怠管理:労働時間を把握することは雇用主の法的義務である。
2.健康診断:少なくとも年1回、全額会社負担で実施する必要がある。
3.給与計算と源泉徴収:社会保険料や所得税を正しく計算し、住民税の「特別徴収」(給与から天引きして市区町村へ納付)を行う。計算ミスは行政指導の対象となる可能性があり、従業員との信頼関係も損なうため、正確な運用が求められる。
4.賞与支払届:ボーナスを支払った際は、社会保険の「賞与支払届」を提出する。提出なしでの現金支給は脱税と見なされる可能性がある。
5.年次恒例行事:毎年6月の「労働保険年度更新」、7月の「社会保険算定基礎届」、および「36協定」の更新は、会社の決算と同様に毎年極めて重要な業務である。
六、 究極の防御策:早期の「就業規則」策定
会社と従業員を守るため、早い段階での「就業規則」作成を強く推奨する。労基法では従業員10名以上の企業に作成・届出義務があるが、10名未満であっても作成しない場合、以下のようなリスクが生じる。
正当な懲戒・解雇が困難:従業員に重大な違反(金銭の着服など)があったとしても、規則に「懲戒条項」が明文化されていなければ、法的な根拠がなく処分を下せない。
休職・退職トラブル:メンタル不調による長期欠勤の際、「休職規定」がないと、解雇も復職命令も出せない膠着状態に陥るリスクがある。
助成金の申請:多くの政府助成金において、就業規則は必須書類となる。
アドバイス:各手続の必要書類は、管轄の行政機関によって異なる場合がある。また、手続は煩雑な上、複数の窓口に対応しなければならない。本業に専念するためにも、これら一連の手続を日本の専門家である「社会保険労務士(社労士)」に委託することを、効率と安心の面から強く推奨します。