台湾の半導体サプライチェーンの境界は、地理的な位置だけで定義されるべきではない。メディアテック(MediaTek、2454)の蔡力行(リック・ツァイ)副会長兼CEOは2日、「グローバル台湾サプライチェーン(Global Taiwan Supply Chain)」という概念を打ち出し、台湾とは島内だけを指すのではなく、世界各地の生産能力、人材、パートナーによって構成されるものだと強調した。
メディアテックはファブレスIC設計企業であり、製造業のように巨額の設備投資を工場建設に投じる必要はないものの、米国での人材採用を拡大し、国境を越えた協業によって技術力を補完している。
蔡氏はまた、台湾の中核的な位置付けは依然としてハードウエアインフラの供給者にあると率直に指摘した。ソフトウエアの能力がハードウエアと同程度まで進展できるかについては、現時点では見通せないという。ヒト型ロボットを例に挙げ、台湾はチップの設計・製造から成る「頭脳」には自信を持つ一方、センサー分野では必ずしも同様の優位性を持っているとは限らず、世界のパートナーとの協業によって不足する能力を補完する必要があるとした。
蔡氏は「SEMICON Taiwan 2026」のマスターズ・フォーラム(CEO Summit)を締めくくる対談で、こうした考えを示した。対談は日月光半導体(ASE)の呉田玉CEOと台湾半導体産業協会(TSIA)の侯永清理事長が共同で司会を務め、鴻海(ホンハイ)の劉揚偉会長、欣興電子(ユニマイクロン)の簡山傑会長も加わった。
PC、インターネット、携帯電話からAIまで 台湾は常にその場にいた 台湾と世界のテクノロジー産業との30年余りにわたる関係を振り返り、蔡氏は、パソコン、インターネット、携帯電話から今日のAIに至るまで、最終製品をめぐる大きなイノベーションの波が起きるたびに台湾はその場におり、今後も必ず関わり続けるとの見方を示した。
台湾は長年にわたり世界の顧客やエコシステムパートナーを支えてきただけでなく、自らも技術力と付加価値を高め続けてきた。その範囲は、システム統合、ファブレスIC設計、ウエハー製造、パッケージング・テスト、パッケージ基板など、さまざまな領域に及ぶ。
蔡氏は、台湾はイノベーターや起業家、ブレークスルーを生み出す企業との間で、非常に高い文化的な親和性を持っていると分析する。
同氏は米国で長年働き、生活した経験から、台湾の産業は柔軟性、知恵、勤勉さを併せ持っており、こうした組み合わせは世界的に見ても珍しいと指摘した。
AI時代の本当の難題は、顧客のスケジュール通りに量産を立ち上げること AI時代に入り、市場価値と需要はいずれも極めて大きくなっている一方、顧客が求める技術・供給面の要求水準も同時に高まっている。
蔡氏は、こうした要求はシステムアーキテクチャー、チップ、プロセス技術、先端パッケージング、各種の主要部品にまで及ぶと指摘した。本当に難しいのは、顧客が求める量産立ち上げのスピードが、かつては想像もできなかった水準に達していることだという。
ウエハー製造やパッケージング・テストを手掛ける企業は、これまでにない生産能力のランプアップを迫られている。
蔡氏は、台湾の本当の価値は、顧客やパートナーと協力しながら、相手が求める量産立ち上げのペースと納期に沿って、AI時代に必要な規模へと拡大できる点にあると述べた。
また、台湾のサプライチェーンを「一つの大家族」のようなものだと表現し、長年にわたり世界の顧客とともに信頼関係を築き、台湾、顧客、エコシステムパートナーの三者がともに利益を得る関係を形成してきたと語った。
台湾はロボットの「頭脳」を作れる センサー技術は今後の課題 エージェント型AI、ロボット、地政学的な変化に直面する中、呉氏は、台湾がこれまでハードウエアサプライチェーンによって築いてきた価値を今後も維持できるのか、それとも別の方向へ進む必要があるのかと問いかけた。
蔡氏は、台湾は現時点でも依然としてハードウエアインフラの供給者であり、「この位置付けが正しいか間違っているかにかかわらず、それが事実だ」と率直に述べた。
台湾がソフトウエア分野でハードウエアと同程度の進展を遂げられるかについては、自分にも分からないとしながらも、ソフトウエアがAI時代の重要な要素であることは間違いないと語った。
それでも、台湾のシステム企業はさらにシステムアーキテクチャーの領域へ進むことができ、その応用範囲はデータセンターだけでなく、ヒト型ロボットにも及ぶという。
蔡氏は、ロボットに必要な能力を大きく2つに分けた。
第一は「頭脳」で、チップの設計と製造に関わる部分だ。台湾はチップを設計でき、製造することもできる。「この点について、私はまったく疑っていないし、非常に自信を持っている」と述べた。
第二はセンシングだ。ロボットには大量のセンサーが必要だが、台湾はこの分野でチップと同じ水準の優位性を持っているとは限らない。ただ、世界規模の協業を通じて適切なパートナーを見つけることはできるという。
精密機械については、台湾はすでに相当に強固な産業基盤を備えているとの見方を示した。
蔡氏は、台湾は既存の技術力を維持しつつ、世界規模の協業によって自らに不足する部分を補うべきだと指摘した。
「すべてが台湾で行われる必要はない。世界各地で能力を展開し、規模を拡大していくことができる」と語った。
メディアテック、米国で人材採用を拡大 工場建設ではなく人的資本に投資 「台湾は島内だけが台湾なのではない。世界に広がる台湾だ」
蔡氏は、このグローバルなサプライチェーンを構築するには、資金だけでなく大量の人的資本を投入する必要があり、この点について世界の顧客やパートナーにも理解してもらう必要があると語った。
メディアテックを例に挙げると、ファブレスIC設計企業はTSMCや日月光、欣興電子のように巨額の資本を投じて工場を建設する必要はないものの、人材への投資を続けなければならない。
メディアテックは米国での人材採用を拡大しており、現地のテクノロジー人材と協業することで自社の能力を高め、その力を世界の顧客の支援につなげたい考えだという。
蔡氏はまた、世界の顧客やエコシステムパートナーに対し、「あなた方がいなければ、我々も存在しない」と語った。
台湾のサプライチェーンと世界の顧客は、ほぼ相互依存に近い関係にある。現在、サプライチェーンが大きな圧力にさらされている中でも、各工程では引き続き工場の建設、新たな能力の構築、人材の確保が進められているという。
蔡氏は、AIがもたらす利益は一部の企業や地域だけが享受するのではなく、世界全体の社会に広がるべきだと強調した。
これも「グローバル台湾」が意味するもう一つの側面だ。台湾は世界の人材との協業を通じて競争力を維持すると同時に、自らが蓄積してきたハードウエアの能力を、より多くの市場で展開していく必要があるという。
「SEMICON Taiwan 2026」のマスターズ・フォーラム。左から、SEMIグローバルボード会長の呉田玉氏、台湾半導体産業協会(TSIA)理事長の侯永清氏、メディアテック副会長兼CEOの蔡力行氏、鴻海(ホンハイ)会長の劉揚偉氏、欣興電子(ユニマイクロン)会長の簡山傑氏。(写真/中央社提供)