行政学および地方自治論を専門とする一橋大学名誉教授の辻琢也氏は2026年9月17日、日本記者クラブの企画シリーズ「なぜ今、特別市なのか?」の第2回に登壇し、人口減少社会における自治体経営と大都市制度のあり方について見解を示した。
辻氏は、秋田県や富山県の事例を交えながら、日本の全地域が直面するインフラ維持の危機と、新たな行政枠組みの必要性を説明した。
人口減少を前提とした街づくりが必要に
現在の人口減少の主要因は、若者の流出などの社会減ではなく、死亡数が出生数を上回る自然減に移行している。この傾向は過疎地である秋田県のみならず、経済的に比較的豊かな富山県や、将来的には神奈川県などの大都市圏においても不可避な課題となっている。
少子化対策を実施しても、人口減少に歯止めがかかるのは2050年頃と予測されており、今後四半世紀は人口が減り続ける前提で街づくりを行う必要がある。さらに、人口減少が進む中でも居住エリアは完全には縮小せず、郊外に分散して住み続ける傾向があるため、広範囲にわたる公共公益施設の維持や更新が極めて困難になっている。
特に深刻なのが、道路、橋梁、上下水道などの都市インフラの老朽化と維持管理の問題である。インフラの更新には多額の費用がかかる上、近年は物価高騰の影響も重なっている。
これに加え、インフラを管理する都道府県や市町村の技術職員、さらには民間業者の人材不足が深刻化しており、募集をかけても必要な人員を採用できない状況に陥っている。現状のままでは、将来的に各自治体が単独で適正な維持管理を行うことは困難になる。
自治体の垣根を越えた広域連携が課題に
この課題に対する解決策として、市町村と都道府県の垣根を越えた広域的な連携や事業の統合が挙げられた。成功例として、香川県と県内の市町が一体となって設立した広域水道企業団の取り組みがあり、長期間の調整を経て水道事業の統合を実現している。
また、民間企業が主導して複数自治体の事業を事実上広域化するケースや、地方共同法人を通じて地方税や料金収納のシステム化を図るケースも有効な手段として示された。しかし、地方自治体間で政治的合意を形成し、最終的な責任の所在を明確にすることはハードルが高い。
大都市の新たな選択肢として「特別市」を提起
こうした背景の中で、大都市圏における新たな選択肢として提起されているのが特別市制度である。特別市制度は、都道府県の機能と市町村の機能を完全に一体化させ、中間組織を省くことで、基礎自治体が住民や国と直接向き合う体制を構築するものである。
これにより、調整業務や事務手続きの無駄を削減し、時間や予算、組織の有効活用が可能となる。東京都のような特別区制度とは異なり、行政区を維持しながら基礎自治体としての法人格を持たせるため、住民生活への直接的な影響や混乱を最小限に抑えつつ、スマートな行政運営を実現できるメリットがある。
質疑応答では、規模拡大に伴う市町村の廃止論や財源の偏在化に対する懸念、中核市の役割、そして道州制との関連についても議論が交わされた。
辻氏は、特別市制度は単に豊かな都市が税財源を独占するためのものではなく、自治体が長期にわたり自立した経営を行い、受益と負担の関係を住民に見えやすくするための基盤改革であると強調した。また、災害時のインフラ復旧などにおいては、大都市の部隊が中心となって広域に出動する体制が実質的な道州制の機能に近づいていく可能性にも言及した。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp
編集:小田菜々香


















































