「日本は悪い国」中国で蔓延する言論の正体 東大教授が指摘する「監視社会の病理」と「文革の影」

厳格な情報統制下にある中国の現状を指摘する東京大学の阿古智子教授。情報が錯綜する中で市民が公式のナラティブ(物語)から逃れることは困難であり、反日言論が蔓延していると分析する。(資料写真/黄信維撮影)

『週刊文春』1月4日号は、中国社会で急速に広がる「日本は悪い国」という言論の背景について、現代中国研究の権威である東京大学大学院の阿古智子教授のインタビュー記事を掲載した。

阿古氏は、この現象を習近平政権下が構築した高度な「監視社会」の産物であると分析。「言論統制下で人々は相互監視と検閲に晒されており、現在の中国は日本の常識が通用する相手ではない」と警鐘を鳴らしている。

フェイクニュースを信じる市民、遮断された情報

​記事の中で阿古氏は、悪化する日中関係を背景に、中国の知人から届いた悲痛な声を紹介している。ある友人は家族から「日本に行けばどんな目に遭うか分からない」と渡航を強く反対されたという。また、SNS上のフェイクニュースを真に受け、「日本で大地震が発生し多数が死亡した」と信じ込んでいる高齢者もいる。

阿古氏は、情報が遮断され、政府のナラティブ(物語)だけが増幅される環境下では、一般市民が客観的な情報に触れることは難しく、反日感情の連鎖から逃れるのは困難だと指摘する。

言論統制が生む「恐怖」と「沈黙」

報道によると、こうした現象の根源は習政権が完成させた徹底的な監視社会にある。SNSで政権に批判的な投稿を行えば、即座に削除されるだけでなく、警察の訪問や職場での懲戒処分、最悪の場合は家族の安全まで脅かされるリスクがある。

この恐怖政治の下では、国民は本音を語れず、メディアも萎縮し、体制を称賛するか、あるいは「安全な攻撃対象」である日本を批判することでしか、自らの安全を確保できない構造になっている。

文化大革命の再来か

阿古氏は現在の中国社会の空気を、1960~70年代の「文化大革命」になぞらえて危惧する。毛沢東が発動した文革では、紅衛兵が実の親を「反革命分子」として告発し、約2000万人が犠牲になったとされる。その記憶が生々しい世代や、歴史を知る人々にとって、権力への過剰な忠誠や同調圧力に従うことは、過酷な社会を生き抜くための処世術でもある。

高市首相への過剰反応、背景に政権の焦り

中国当局の対外強硬姿勢について、阿古氏は「習政権の行き詰まりの裏返し」と分析する。不動産不況による経済低迷や軍内部の腐敗により、国内には鬱屈した不満が溜まっている。

当局は厳密な監視網でこれらを抑え込む一方、国民の不満の矛先を「外敵」に向けることで求心力を維持しようとしている。『週刊文春』は、高市早苗首相の発言に対する中国側の激しい反応も、国民を団結させるための意図的な過剰反応であり、国内の引き締めを図る狙いがあると報じている。

編集:梅木奈実

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