米・イスラエルはなぜイランに勝てないのか?海軍戦略の権威が警告する「トランプ政権の傲慢」とガリポリの教訓 2026年4月7日、ホワイトハウスで記者会見に臨むトランプ米大統領。傍らにはヘグセス国防長官(左)とケイン統合参謀本部議長の姿がある。(AP通信)
トランプ米大統領は、イランを交渉のテーブルに着かせるべく「今夜、一つの文明が消滅するだろう」とまで脅迫した。しかし、自ら設定した期限を前に、トランプ氏は突如として2週間の「停戦」を宣言。イラン当局もこれに呼応する形となった。この成果なき軍事打撃について専門家は、トランプ氏が明白な危機を無視し、戦略的常識を完全に失念していたと分析している。
米国はなぜ戦略的泥沼に陥りかけたのか かつて台湾の頼清徳総統を「無謀なリーダー」と批判したこともある、米ブラウン大学ワトソン国際公共事務研究所の中国イニシアチブ主任であり、ワシントンのシンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」のアジア担当主任も務める戦略学者、ライル・ゴールドスタイン(Lyle Goldstein)氏。同氏は停戦前、台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』のメール取材に対し、今回のイラン情勢が「制御不能」に陥ったことは、完全に予想通りだったと指摘した。
ゴールドスタイン氏の分析によれば、国防分析の専門家であれば、イランがホルムズ海峡を容易に封鎖できる能力を持つことは予見できたはずだという。しかし、米国の指導層はこれら明白な警告を無視することを選択した。同氏は、その背景には過去の軍事行動――トランプ政権によるベネズエラでの軍事行動や、2025年6月に実施されたイラン核施設への爆撃「ミッドナイト・ハンマー作戦(Operation Midnight Hammer)」の成功――がもたらした傲慢さと自惚れがあり、その結果「常識の類いはすべて後回しにされた」と推測している。
ゴールドスタイン氏は、米国の指導層に対し、この「愚か」かつ「違法」な戦争を速やかに終結させるよう呼びかけている。また、近刊の『米国海軍協会会報(USNI Proceedings)』に寄せた寄稿 の中でも、イランへの地上軍派遣がさらなるエスカレーションの泥沼を招くリスクについて、強い警告を発している。
米誌『TIME』(2025年10月23日付)に掲載された、シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」のアジアプログラム主任、ライル・ゴールドスタイン氏による分析記事。頼清徳総統を「無謀なリーダー」と評した。(TIME公式サイトのスクリーンショット)
第1次世界大戦の教訓、ガリポリの悲劇を繰り返すな 当時、海軍大臣(後の第2次大戦時の首相)ウィンストン・チャーチルが指揮を執ったこの戦いでは、1915年8月にトルコで両棲上陸作戦が展開された。しかし、主導権の欠如により作戦は失敗に終わり、協約国軍は面目を失って1916年初頭に撤退を余儀なくされた。「この戦いは協約国の戦力を消耗させただけでなく、約15万人もの死傷者を出し、図らずもその血塗られた試練が現代トルコの誕生を促すこととなった」と同氏は指摘する。
ゴールドスタイン氏は、現代においては空軍力の台頭やリモートセンシング技術による精密な情報の入手が可能であり、現在の中東戦局は1915年当時のトルコとは状況が異なると分析する。それでもなお、米軍が豊富な上陸作戦の経験を持ち、近年の紛争から教訓を得ていたとしても、指導者層は「ガリポリの戦い」の歴史的教訓を改めて汲み取るべきだという。
「天然の要塞」ホルムズ海峡の脅威 ゴールドスタイン氏は、地図上ではホルムズ海峡がそれほど攻略困難な場所には見えないことを認めている。航路はそれほど長くはなく、幅も極端に狭いわけではないからだ。しかし、この海域は標高4,000フィート(約1,200メートル)を超える険しい山々に囲まれている。乾燥した起伏の激しい地形には、防衛部隊が身を隠せる隠蔽ポイントが無数に存在しており、同氏はホルムズ海峡を「ガリポリ戦場のような、恐るべき天然の要塞」と形容している。
さらに同氏は、ガリポリでの敗北の本質的な原因は「計画の不備」と「実行の粗雑さ」にあったと分析した上で、現在のイランにおける米軍の動向にも同様の懸念を抱いている。「特に、衝突が勃発してからかなりの時間が経過した後に、海兵隊を慌ただしく現地へ派遣している現状は、組織的な混乱の兆候を示しており、極めて憂慮すべき事態だ」と警鐘を鳴らした。
トルコのガリポリにある戦没者記念碑。(AP通信)
米軍は中東から撤退すべきか 中国語とロシア語に堪能で、現在は韓国語を学習中というゴールドスタイン氏は、ワシントンのシンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」において、リアリズム(現実主義)と抑制的な国防政策を提唱し、アジア太平洋地域における外交・国防戦略の研究を統括している。現職に就く前は、米国海軍大学校(NWC)で20年間にわたり教授を務め、在任中に「中国海事研究所(CMSI)」を創設した経歴を持つ、海軍戦略の権威だ。
ゴールドスタイン氏は『風傳媒 (ストームメディア)』へのメールの中で、トランプ大統領に対して「勝利を宣言」した上で、ホルムズ海峡周辺の諸問題は沿岸諸国や当事者たちに「自己解決」させるべきだという提言に完全に同意すると述べている。さらに同氏は、「近い将来、すべての米軍が中東から撤退する姿をぜひ見たい」と踏み込んだ持論を展開した。
同氏によれば、米国は過去数十年にわたり、中東に対して膨大な人的・物的資源を投入してきたが、「そこにおける米国の実質的な国家利益は極めて微々たるものだ」と指摘する。また、2021年8月のカブール(アフガニスタン)撤退時を振り返り、「当時は『この世の終わり』のような破滅的な事態になると警告されたが、実際にはそのようなことは起きなかった」と述べた。
ゴールドスタイン氏は、アフガニスタンという過酷な局面からの撤退は、結果として無数の米兵の命と資源を救ったのであり、それは動揺が続く中東地域全体にも当てはまると主張する。「米国がいない方が、中東はより良くなると私は信じている。我々はそれらのリソースを、国内の真に必要としている場所へ集中させるべきだ」と結んだ。
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