【揭仲コラム】中国海警局が台湾東部へ法執行拡大、日比の海域交渉牽制か 中国海警局の船艇が台湾東部海域で「法執行パトロール」を実施。(写真/中国海警局の公式WeChatアカウント提供)
中国(共産党)は昨今、台湾周辺海域で活発な動きを見せている。金門島や東沙諸島(プラタス諸島)周辺の台湾側の「禁止・制限水域」に中国海警局(海警)の艦船を頻繁に進入させているほか、6月1日には日本とフィリピンによる「排他的経済水域(EEZ)および大陸棚の境界画定交渉」の開始を理由に、「2304(白塔)」と「2502(岱山)」からなる海警艦隊を派遣した。中国側は台湾南東部海域で法執行巡視を展開したと発表し、これが日比両国による「台湾島以東海域の境界画定交渉開始の一方的な宣言」および「中国の領土主権と海洋権益への重大な侵害」に対する必要な措置であると意図的に強調した。
今年6月1日以前にも、中国海警は単独あるいは中国人民解放軍の台湾向け軍事演習に連動し、台湾東部海域へ艦船を幾度も航行させてきた。しかし、中国海警および国営メディアが今回の「岱山」艦隊の行動を大々的に宣伝したことは軽視できない。これは中国による台湾への「法律戦」が新たな段階へとエスカレートすることを示唆しているからだ。
中国による台湾を矮小化する「法律戦」 現段階における中国の台湾に対する「法律戦」は、2つの形態に分けられる。第一は国際的な法律戦である。国際社会において「国連総会第2758号決議(アルバニア決議)」などの歴史的文書を拡大解釈し、これを中国の「一つの中国」原則と同一視させることで、中華民国(台湾)の国際空間を狭め、台湾独立に不利な国際的枠組みの構築を図るものだ。第二は矮小化を目的とした法律戦であり、関連する言説や行動を通じて台湾政府を「地方政府」へと格下げし、「台湾独立分裂勢力への断固たる打撃」と「外部勢力の干渉の抑止」という目的を達成しようとする試みである。
中国が台湾の矮小化を狙う法律戦を発動した起点は、2022年6月13日にさかのぼる。当時の中国外務省報道官・汪文斌氏が定例記者会見で次のように述べたことだ。
台湾は中国の領土の不可分の一部である。台湾海峡の最も狭い部分は約70海里、最も広い部分は約220海里である。「国連海洋法条約(UNCLOS)」および中国の国内法に基づき、台湾海峡の水域は両岸の海岸から海峡の中心線に向かって延びており、順に中国の内水、領海、接続水域、排他的経済水域となる。中国は台湾海峡に対する主権、主権的権利、および管轄権を有する。
この主張を裏付けるため、中国は2022年6月13日以降、一連の行動に着手した。台湾海峡の中間線を巡る暗黙の了解を一方的に破棄し、人民解放軍の軍用機・艦艇や海警艦船を中間線越しに頻繁に進入させたほか、公船を金門島周辺の禁止・制限水域に常態化して展開させた。これらの行動は、台湾当局が関連水域で有する実効的な管轄権を徐々に侵食する狙いがある。さらに、中間線以東や、金門、馬祖、烏坵、東引周辺の「禁止・制限水域」における管轄権および主権の空白地帯を解消し、台湾海峡のほぼ全域に対する「主権、主権的権利、および管轄権を有する」という中国側の法的訴えを強化している。同時に、台湾側が独自の法令に基づいて設定した飛行制限区域、領海、接続水域などの措置を認めないことで、台湾が「地方政府」であり、中央政府のみが制定できる法律を公布する資格はないと強調し、これをもって台湾海峡への管轄権行使を既成事実化しようとしている。
金門島周辺を例に挙げると、一昨年2月に発生した「0214三無漁船(無船名・無船籍港・無船舶証明書)事件」以降、中国海警船は金門の禁止・制限水域への進入を常態化させた。毎月約4回、毎回4隻という固定パターンを示しており、情勢に応じて単艦、2隻編成、4隻編成といった多様な方式で台湾側の制限水域に侵入している。一昨年2月から今年5月28日までの累計で計117航海に達し、内訳は一昨年に52航海、昨年に46航海、そして今年に19航海となっている。
中国による台湾矮小化の「法律戦」、東沙諸島へ範囲拡大 中国が台湾に対して発動した矮小化の法律戦の対象地域は、昨年2月以降、台湾海峡から東沙諸島周辺へと拡大した。東沙諸島周辺で台湾が設定する、接続水域(12〜24海里)に相当する制限水域に対し、大量の中国漁船を進入させている。時には中国海警の艦船も漁船に追随して進入し、台湾の海洋委員会海巡署(海巡署、沿岸警備隊に相当)による中国漁船への法執行を妨害している。さらに、中国漁船が小型舟艇を下ろし、人員を乗せて制限水域、ひいては領海に等しい禁止水域にまで進入する事態も発生している。
さらに象徴的なのは、中国海警艦船の行動だ。昨年2月以前にも、海警艦船が東沙諸島周辺の24海里制限水域に散発的かつ短時間進入することはあったが、その針路、速度、時間を分析する限り、いずれも単純な通航であり、特定の意図や目的を持つものではないと判断できた。しかし昨年2月以降、1〜2隻の海警艦船が制限水域の境界付近で不規則な航路を取って反復して行き来したり、旋回したりする事象が発生し始めた。東沙諸島の制限水域(すなわち接続水域)への侵入を意図するものであり、一定のリズム、戦略、目的を持ったグレーゾーン事態へと変貌を遂げている。
昨年2月から今年5月28日にかけて、東沙諸島の制限水域への侵入を企て、台湾海巡署の艦船に監視された中国海警艦船は、累計12隻・39隻次(延べ数)に上る。このうち昨年の記録が33隻次、今年が6隻次である。
中国中央テレビ(CCTV)の微信(WeChat)公式アカウント「玉淵譚天」が配信した、中国海警による台湾東部海域巡視のイメージ図。台湾を取り巻く海域統治体系の構築を強調している。(画像/CCTVの微信公式アカウント「玉淵譚天」提供)
中国、台湾を飛び越え日比に直接交渉を迫る思惑も 日本とフィリピンが開始したEEZおよび大陸棚の境界画定交渉に対し、中国は口頭で強く反発しただけでなく、6月1日に台湾東部海域で実施した海警による小規模な巡視を不釣り合いなほど大々的に宣伝した。その背景には、日比両国がこの交渉を通じて戦略的に「共同での防共(対中牽制)」の姿勢を打ち出し、それが中国政府の神経を逆撫でしていることがある。さらに中国は、日比の一方的な境界画定交渉への抗議や対抗措置を口実に、金門の禁止・制限水域での手法と同様、海警艦隊の派遣を開始する可能性が高い。毎月最低数回、毎回一定時間を維持する形で、台湾東部のEEZ(台湾側のEEZでありながら日比の交渉範囲に含まれている海域)における巡視を常態化させようとする狙いが透けて見える。
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言い換えれば、中国はこの状況を利用し、台湾が「国連海洋法条約」に基づいて主張する東部のEEZ内において、常態的な巡視や法執行といった「管轄」の既成事実化をうかがっているのだ。これにより、台湾の管轄権を侵食する法律戦の範囲を、中間線以東、中国大陸沿岸で台湾が実効支配する離島の禁止・制限水域、東沙諸島の領海と接続水域から、さらに台湾東部における台湾側のEEZへと拡大しようとしている。北京が掲げる「台湾は中国の領土の不可分の一部」という法律戦の主張を一段と際立たせる狙いがある。中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)報道官・朱鳳蓮氏が6月3日の定例記者会見で「世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の一部である」と発言し、日比が発表した境界画定予定海域は「中国台湾島」の東側に位置し、「中国の海洋権益を著しく侵害している」と強調したことは、まさにその証左である。
台湾政府にとってさらに警戒すべきは、6月2日の中国外務省定例記者会見における同省報道官・毛寧氏の答弁である。毛氏は、5月29日の定例記者会見で述べた「日比が発表した境界画定予定海域は中国台湾島以東に位置する」ことや、両国が無断で境界画定交渉を開始したことは「中国側の海洋権益を著しく侵害する」という主張を繰り返したのみならず、次のような新たな言及を行った。
中国の国内法および「国連海洋法条約」を含む国際法に基づき、中国は上述の海域に排他的経済水域および大陸棚を有する。同条約に基づき、海岸が向かい合うか、または隣接する国家間の排他的経済水域および大陸棚の境界は、関係国が公平の原則に則り協定によって画定すべきである。台湾以東海域の境界画定交渉には、必ず中国側が関与しなければならない。
毛氏による6月2日の談話は、中国がこの事象を奇貨として、日比両国への圧力を継続し、関連海域で「強制外交(Coercive Diplomacy)」を発動することも辞さない構えであることを強く示唆している。日比両国に対し、境界画定から派生する関連事項(例:台湾のEEZ内において中国、日本、フィリピンの海上法執行船が遭遇した際の行動規範や法執行規則、ならびに中国大陸、台湾、日本、フィリピンの漁船による特定海域での操業ルールなど)について、台湾ではなく中国と交渉するよう迫る狙いがある。これにより、自らの管轄権が台湾東部海域にまで及んでいるという新たな事実を構築しようとしているのだ。さらに、地域各国が北京と交渉しているという事実を利用し、従来は台湾の矮小化のみを狙っていた法律戦を、中華民国の国際的な法人格そのものを標的とした「国際的な法律戦」へと転換させようとしている。
したがって、台湾政府は今後の事態の推移を決して軽視してはならない。急務となるのは、日比両政府との協議を加速させることだ。2013年4月10日の「亜東関係協会と公益財団法人交流協会との間の漁業に関する取り決め(日台漁業取り決め)」や、2015年11月5日の「台比間の漁業事務における法執行協力の促進に関する協定」の前例に倣い、関連事項の調整を完了させ、書面による協定を締結すべきである。台湾の海洋権益と漁民の生計を確保するだけでなく、中国が対台湾法律戦において新たな突破口を開くことを防がなければならない。
*筆者は国防安全研究院(INDSR)国防戦略・資源研究所の委任副研究員である。
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