駐中国米国大使のデービッド・パデュー氏は27日、ドナルド・トランプ米大統領が中国の習近平国家主席に対し、「(米国の武器を)少し買わないか」と尋ねたことがあると明らかにした。
この発言を受け、米国務省とホワイトハウスは相次いで説明し、米国の法律は中国への武器売却を禁じており、そうした提案や計画は存在しないと強調した。
トランプ政権が現在も約140億ドル(約2.2兆円)規模の台湾向け武器売却案を棚上げしていることと相まって、トランプ氏が「対台武器売却を交渉カードとして利用している」との疑念が一段と深まっている。
※この記事は9月29日、トランプ氏本人の否定発言など最新の動きを末尾に追記しました。
駐中大使「習主席に『少し買わないか』と尋ねたことも」
習氏が先週、米国への国賓訪問を終えた後、パデュー氏は27日、米FOXニュースの単独インタビューに応じた。
司会者から棚上げされている台湾向け武器売却について問われると、パデュー氏は、トランプ氏が昨年すでに110億ドル規模の対台武器売却を承認していると指摘した。
「その他の武器売却についても協議が続いており、彼と習主席は顔を合わせるたびにこの問題を話し合っている」と述べ、続けて「トランプ大統領はいつも『我々は世界中の人々に武器を売っている』と言っている。実際、習主席にも『少し買わないか』と尋ねたことがある」と語った。
パデュー氏は、トランプ氏がいつ、どのような理由でこの質問をしたのかについて説明せず、習氏がどのように応じたのかも明らかにしなかった。
ホワイトハウスと国務省の報道官も、この発言が先週の会談で出たものなのか、それともそれ以前の会談でのものなのかについて説明を避けた。
国務省とホワイトハウスの当局者は、『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』などに対し、米国の法律では中国への武器売却が禁じられており、米国側には中国への武器売却を提案する計画もないと説明した。
米政府当局者も、対中武器売却は法律で明確に禁じられており、米側が中国政府にそのような提案をしたことはないと強調した。
1980年代には、ロナルド・レーガン政権がソ連に共同で対抗するため、約5億5000万ドルを投じて中国のJ-8戦闘機に米国製アビオニクス(航空電子機器)を搭載する「ピース・パール(Peace Pearl)」計画を含め、米中間の軍事協力を一時的に拡大した。
法律上は、国家利益に基づいて大統領が適用除外(ウェーバー)を認めることが可能だが、過去30年以上にわたり、この権限を行使して中国への通常兵器の売却を再開した米大統領はいない。
対台武器売却140億ドルは棚上げ インド太平洋のパートナーへの影響に懸念
最も注目されているのは、今回明らかになったパデュー氏の発言と、台湾向け武器売却が棚上げされている状況との鮮明な対照だ。
約140億ドル規模の対台武器売却案は国務省当局者によって策定され、今年初めには超党派の有力議員らから予備的な同意を得たものの、その後は国務省内で滞留している。
トランプ氏は今年5月、北京で習氏と会談した後、この武器売却を「一時的に棚上げしている」と述べ、メディアに対し、中国との交渉における「非常に有効な交渉カード」になると語った。台湾への武器売却を最終的にどうするかについても、「中国次第だ」と発言している。
かつてホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)に勤務し、現在はワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所の中国センター長を務めるライアン・ハス氏は、トランプ氏が中国を安全保障上の脅威と見なしているのかについて曖昧さが残っていたとしても、パデュー氏の発言によってその問いへの答えが示されたとの見方を示した。
ハス氏は「トランプ氏が中国への武器売却を提案したことは、中国に対抗する最前線にいる米国のパートナーを不安にさせるだろう」と記した。
アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の研究員、ザック・クーパー氏は、この発言が匿名の情報源ではなく、パデュー氏自身から直接出たものである点を強調した。
「これは情報漏洩ではない。トランプ大統領の駐中国大使がFOXニュースで語ったことだ」とした上で、トランプ氏が台湾への武器売却の承認には消極的である一方、中国に武器売却を持ちかけていることに驚きを示した。
外交問題評議会(CFR)の研究員、デビッド・サックス氏も、パデュー氏の発言は、トランプ氏が中国を敵対的な存在として見ているのではなく、潜在的な顧客として捉えていることを明確に示しているとの見方を示した。
サックス氏は「これは、現在見られている台湾の米国に対する疑念や、米国の信頼性とコミットメントに対する台湾側の高まる懸念をさらに深めることになる。中国にとっては、台湾の人々に向けたプロパガンダに利用できる大きな勝利だ」と警告した。
一方、クインシー研究所(Quincy Institute for Responsible Statecraft)のデニス・サイモン氏は、「トランプ氏が中国に米国製武器の購入を具体的に提案した証拠はなく、中国がそれを受け入れたり、真剣に交渉したりした証拠もない」と指摘した。
サイモン氏は、実際の武器売却提案というより、レトリックや交渉手法の一つに見えるとの考えを示した。
ただ、サイモン氏は、この発言には依然として意味があり、特に台湾との関係で重要だと指摘する。
同氏によると、トランプ氏の論理は「あなた方は我々が台湾に武器を売ることに反対している。しかし米国は世界各国に武器を売っている。中国が欲しいのなら、なぜ買えないのか」というものだった可能性がある。
サイモン氏は「これは意図的に挑発し、台湾問題を新たな枠組みで捉え直そうとするやり方だ」と指摘。今回の一件は、トランプ氏が台湾への武器売却について、より取引的なアプローチを取り、武器売却パッケージそのものを米中関係全体における交渉材料としていることを反映しているとの見方を示した。
米上院重鎮が武器売却の前進要求 兪大㵢氏「できるだけ早く到着を」
台湾への武器売却が遅れていることを受け、米議会からの圧力も高まっている。
上院議員らは5月、超党派の連名書簡を送り、トランプ氏に対して台湾への武器売却を進めるよう求めた。
習氏がワシントンに到着する数時間前には、共和党のミッチ・マコーネル、リサ・マーカウスキー、ジョン・コーニン、トム・ティリスの4上院議員が、マルコ・ルビオ国務長官とピート・ヘグセス国防長官に連名で書簡を送った。
書簡では、140億ドル規模の武器売却を進めるとともに、議会がすでに承認している台湾による武器購入に充てる3億ドルの支援と、10億ドル規模の「台湾安全保障協力イニシアチブ(Taiwan Security Cooperation Initiative)」の予算を執行するよう求めた。
ルビオ氏はニューヨークで記者団から台湾への武器売却が棚上げされていることについて問われると、「これは台湾に限った話ではない。ただ、我々がある武器を売れば、それは我々の手元からなくなるということだ。将来的に再び入手することはできるが、今は手元にない」と述べた。
パデュー氏もインタビューでトランプ氏を擁護し、「トランプ氏が台湾のために十分なことをしていないという主張には同意できない」と語った。
さらに、トランプ氏による台湾への武器売却額は、歴代のどの前任大統領よりも50%多いと強調した。
米国は昨年12月、榴弾砲、ミサイル発射システム、対装甲無人機などを含む110億ドル超の台湾向け武器売却を発表している。
一方、パデュー氏が、トランプ氏と習氏が「顔を合わせるたびに」台湾への武器売却について話し合っていると述べたことも注目を集めている。
1982年に米国が台湾に示した「6つの保証」には、米側が「台湾への武器売却について中国と事前協議することに同意していない」とする内容が含まれている。
『ニューヨーク・タイムズ』は、こうした対話がこの保証に反するものだと指摘した。
これに対し、ドイツ・マーシャル財団(GMF)インド太平洋プログラム部長のボニー・グレイザー氏は、「米国は威圧に反対すべきではないのか」と疑問を呈した。
台湾の兪大㵢・駐米代表は27日、米CBSの番組「フェイス・ザ・ネイション(Face the Nation)」の単独インタビューに応じた。
兪氏は、北京が台湾問題を両国関係の「根本」と位置づけている一方、先週の米中首脳会談の声明には台湾に関する成果が一切盛り込まれず、「米側もそれに応じることはなかった」と指摘した。
その上で、米政府当局者が先週行った公開発言を踏まえ、米国の台湾に対する立場に変化はないと確信していると述べた。
棚上げされている武器売却案については、「米国は常に台湾にとって主要な武器供給源だ。我々はその武器売却パッケージができるだけ早く到着することを望んでいる」と述べ、「力による平和」が衝突を避ける最善の道だと強調した。
トランプ氏は先週、11月に中国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する際、習氏と再び会談する予定だと明らかにした。
習氏も12月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するため再び訪米する可能性があり、今年は最大であと2回、トランプ氏と習氏が会談する機会が残されている。
多くの分析では、トランプ氏がこの2回の会談を前に習氏を刺激することを避けたいと考えているため、年末までに台湾への武器売却を承認する可能性は低いとの見方が示されている。
【9月29日追記】トランプ氏「習氏とは話していない」 駐中大使の発言を否定
トランプ氏は28日、ホワイトハウスで記者団からパデュー氏の発言について問われ、習氏に米国製武器の購入を持ちかけたとの説明を否定した。
トランプ氏は、パデュー氏の発言について「聞いたことがない。本人に聞かなければならない」と述べた上で、「我々はそのことについて話し合っていない」と説明。パデュー氏について「おそらく台湾のことを話していたのだと思う」との見方を示した。
一方で、中国が米国製兵器の購入を望む可能性に触れ、「もしかすると良い考えかもしれない」とも述べた。
米国務省は改めて、米国法は中国への武器売却を禁じており、「中国に武器を売却する提案も計画もない」と説明している。
また、台湾の顧立雄国防部長(国防相)は29日、台北で記者団に対し、先週の米中首脳会談後、米側から「米国の台湾政策に変更はない」との説明を繰り返し受けていると明らかにした。
顧氏は、進行中の武器売却案件についても「米側と継続的に協議している」と説明し、現時点では米国から政策変更に関する通知は受けていないと述べた。