【花蓮洪水から1年⑧】祖先が残した「水の道」 警報より先に避難、タロコ族の「勇士」はどう村を守ったか

2026-09-27 11:17
明利村の林万成村長は、昨年のせき止め湖越流前の行政組織の対応の鈍さを振り返ると、今も語気を強める。(劉偉宏撮影)
明利村の林万成村長は、昨年のせき止め湖越流前の行政組織の対応の鈍さを振り返ると、今も語気を強める。(劉偉宏撮影)

「7月にはもうせき止め湖があると分かっていて、役人たちは水量が9000万トンに達する可能性があると試算していた。私は「長官、北側にも南側にも堤防の切れ目がいくつかあります。現在はまだ2000万トン余りです。早急に対策を講じるべきではありませんか」と進言した。でも、言っても何もしなかった……」。明利村の林万成村長は、2025年のせき止め湖越流前の行政組織の鈍い対応を語るとき、今も声を荒らげる。

花蓮県万栄郷の明利村は馬太鞍渓(マタアン渓)の北岸にあり、橋を挟んで南岸の光復郷と向かい合っている。

幼い日に見た、決壊が引き裂いた家族

1973年、林村長は小学3年生だった。ある朝目を覚ますと、明利の集落の下から省道(幹線道路)まで一面が激流となり、低い土地は海のようだった。鉄道と橋は流され、外に通じる道路も消えていた。当時の林村長には、ただ見慣れない光景に映っただけだった。大人になって、一カ所に安置された犠牲者の遺体を思い返したとき、馬太鞍渓の決壊がどれほど多くの家族を引き裂くのかを悟った。

それから50年余り、その記憶は今も、馬太鞍渓のほとりに立つ林村長とともにある。林万成さんは万栄郷明利村の村長で、タロコ族としての名はMasaw Jiru(マサウ・ジル)。率直で飾らない話しぶりには豪快さと芯の強さがあり、集落の人々は彼を「熱血漢」と呼ぶ。村民の安全を脅かすと思えば、誰かが応じるまで何度でも問いただす。

馬太鞍渓で建設が進む新しい橋(方儉撮影)
馬太鞍渓で建設が進む新しい橋。(方儉撮影)

外からは「タロコ族の勇士」と呼ばれる。だが林村長を支えているのは、性格だけではない。祖先が残した水の道の記憶と、民族の伝統だ。

タロコ族は古くから、山道や渓谷、断崖に囲まれた地域で暮らし、地形から道の選び方や住む場所、災害の避け方を判断してきた。集落の長老たちは、かつて大水がどこを通ったか、どこが最も低いか、豪雨の時にどの道が真っ先に寸断されるかを語り継ぐ。こうした知識は水理モデルには反映されていないが、災害のたびに口伝えで次の世代へ受け継がれてきた。自然と共に生きるための警戒心が、いわば「DNA」のように受け継がれている。

1973年に台風の大雨で馬太鞍渓が決壊した経験から、林村長は「たぶん大丈夫だろう」という言葉を、ほかの人以上に受け入れがたい。

タロコ族にとって、避難は暮らしの一部

馬太鞍渓でせき止め湖ができると、林村長と住民は水位と河道の変化を見守り続けた。水位の上がる速さが当局の当初の説明と食い違うことに気づき、危険が早く訪れるかもしれないと判断した。そこで明利村は、警報より先に避難を進めた。まず村内放送で呼びかけ、次に村長、警察、消防、郷公所(町村役場に相当)の職員が一軒ずつ回って知らせ、高齢者や病人、寝たきりの人、車を持たない人が全員避難したかを確かめた。 (関連記事: 【花蓮洪水から1年①】「シャベル超人」が去った後も災害は終わらない 砂塵と「警報疲れ」に直面する光復郷 | 関連記事をもっと読む )

林村長によると、村ではすでに「避難を習慣にし、暮らしの一部にしている」。住民が怖くないわけではない。ただ、水はすべての情報が確認されるのを待ってはくれないことを、集落は知っている。携帯電話に届く警報メッセージはきっかけにすぎない。見ていない人もいれば、意味が分からない人も、家を離れたがらない人もいる。最後は誰かが戸口まで行き、一軒ずつ声をかけ、一人ずつ車に乗せて連れ出すしかない。

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